頸部痛に関するエビデンス:解釈は慎重に! The Evidence on Neck Pain: Interpret With Caution!
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話題・疑問 | レビュー | 結果 |
頸部疾患に関する体系的なレビューは、一般的な非外科的治療の有効性について意見が一致しているか? | Hoving JL et al., A critical appraisal of review articles on the
effectiveness of conservative treatment for neck pain, Spine, 2COI ; 26: 1 96-205. |
いいえ。体系的なレビューおよびその他のレビューにおけるエビデンスの解釈には違いがみられる。このことは、頸部疾患に関するエビデンスが不十分でありレビューの方法にばらつきがあるという証拠である。Hoving博士らによると、“多種多様なレビューの方法、記述的情報および最終緒論が多種多様であることを考えると、読者は、レビューの報告を注意深く批判的に検討すべきである”。 |
マニピュレーション、モビリゼーションおよび他の徒手治療が、頸部痛に対して有効な治療法であるというエビデンスはあるのか? | Ibid | エビデンスは対立している。Hoving博士らは、体系的レビューと非体系的レビューの両方について調査した。4分の3のレビューは、頸部痛の治療法としてのマニピュレーションに関するエビデンスは“決定的でない”ということに同意した。3つのレビューのうち2つが、モビリゼーションの利点を認めていた。6つのレビューのうち4つが、マニピュレーションとモビリゼーションの組み合わせが対照治療よりも優れていると結論づけた。(個々のレビューに関してはHovingらの論文を参照) |
マニピュレーションによる重篤な合併症について体系的レビューから何が言えるか? | Emst E, Manipulation of the cervical spine: a systematic review of case reports of serious events, 1995-2001, Medical Journal of Australia, 2002; 176(8):376-80. | 医学文献で報告された重篤な有害事象(副作用や合併症)の数はかなり少ない。しかし、医学文献が有害事象を正確に集計しているという証拠はない。1995年〜2001年についての体系的なレビューによれば、医学文献の中に、重篤な有害事象(副作用や合併症)が発現した42名の患者について報告した31編の症例報告があった。最も一般的に報告された重篤な合併症は、椎骨動脈解離に関係した脳卒中発作であった。しかし、頸部のマニピュレーションに関係した有害事象(副作用や合併症)の総合的リスクは不明である。症例報告は本質的に因果関係の問題を取り扱うことはできない。正確なリスク評価を行うには、適切に計画された研究が必要である。 |
患者教育は、頸部疾患の有効な治療法か? | Gross AR, Patient education for mechanical neck disorders, Cochrane Database Systematic Reviews, 2000; (2):CDOO0962. | 3つの比較試験の結果に基づいて考えると、メカニカルな頸部疾患の単独治療として教育が有効であるというエビデンスはない。 |
頸部痛の理学療法については? | Philadelphia Panel, Philadelphia Panel evidence-based clinical practice guidelines on selected rehabilitation interventions for neck pain, Physical Therapy, 2COI ; 81(10):1701-17. | フィラデルフィア委員会は、最も一般的なリハビリテーションの方法は、うまく設計された研究によってはっきりと支持されているわけではないことを見出した。多くの場合、適切に検討されていなかった。著者らによると、“運動療法は、頸部痛に対して対照群と比較して臨床上重要な利点が認められた唯一の治療法であった。超音波治療、マッサージ、温熱療法または電気刺激に関するエビデンスは不十分であった”。 |
Gross AR, Physical medicine modalities for mechanical neck disorders, Cochrane Database Systematic Reviews, 2000; (2) : CDO0096 1 . | “メカニカルな頸部痛に対する理学療法の使用を支持する、研究に基づく情報はほとんどない。疼痛緩和に関して、電磁治療の使用を支持する情報とレーザー治療の使用に反対する情報がある”。 | |
Kjellman GV et al., A critical analysis of randomized clinical trials on neck pain and treatment efficacy: A review of the literature, Scandinavian Journal of Rehabilitation Medicine, 1999; 3 1(3) 139-52. | このレビューは、積極的な理学療法、マニピュレーションおよび電磁治療の研究について、結果は肯定的であり、研究方法も不適切であることを見出した。 | |
鐵治療は、頸部痛の有効な治療法か? | White AR and Emst E. A systematic review of randomized controlled trials of acupuncture for neck pain, Rheumatology, 1999; 38(2)143-7. | 鍼治療は、5つの無作為対照比較研究(RCTs)のうち4研究において、偽の鍼治療と同様で有効でなかった。鍼治療は3研究において、理学療法と同等かそれより優れていた。 |
集学的リハビリテーシヨンは、勤労成人の頸や肩の痛みに有効か? | Karjalainen K et al., Multidisciplinary biopsychosocial rehabilitation for neck and shoulder pain among working age adults, (Cochrane Review), Cochrane Library, Issue 2, 2002. | 著者らによると、“集学的な生物心理社会的リハビソテーションの有効性を他のリハビリテーション[方法]と比較した科学的エビデンスは、ほとんどないように思われる”。しかし著者らは、関連する研究を2つしか見つけられなかった。 |
頸部痛の臨床経過はどうなのか?頸部痛は一般的に時間が経てば改善するのか? | Bourghouts JA et al., The clinical course and prognostic factors of non-specific neck pain: A systematic review. Pain, 1998; 77(1):1-13. | エビデンスは薄弱である。多くの研究は研究方法に欠陥がある。二次治療および職場における研究から、全般的改善(中央値47%の改善)、疼痛緩和(中央値46%の改善)、および鎮痛薬使用量の減少(中央値37%の減少)の傾向を示すエビデンスが得られている。疼痛がより重症な場合および頸部痛の既往がある場合は、予後不良と関連があった。 |
頸部痛のリスクファクターとなりうる因子は何か? | Ariens GA et al., Physical risk factors for neck pain,
Scandinavian Journal of Work Environment and Health, 2000; 26(1):7- 19. |
Ariens博士らによるレビューでは、頸部痛と、さまざまな職業上の暴露(頸の屈曲;腕のカ、腕の位置、続けて座っている時間;体幹のねじりまたは前屈;手から腕にかけての振動;および職場設計)との正の相関関係を示す“いくらかのエビデンス”がみつかった。しかし、関連するすべてのリスクファクターについて検討した研究は少ない。 |
Ariens GA et al., Psychosocial risk factors for neck pain: A
systematic review, American Journal of Industrial Medicine, 200 1 ; 39(2) : 1 80-93 . |
Ariens博士らによる2番目のレビューでは、頸部痛と、さまざまな心理社会的因子(量的に高い仕事要求、不足した社会的サポート、低い仕事調整度、大きなあるいは小さな技術裁量権、および低い仕事満足度)との正の相関関係を示す“いくらかのエビデンス”がみつかった。前述の身体的リスクファクターに関する警告は、同じくこれらの研究の多くにもあてはまる。いずれか1つのリスクの寄与を正確に定量化するには、さまざまな暴露および影響を同時に評価ができる綿密で複雑な研究が必要であろう。 | |
Linton SJ, A review of psychological risk factors in back and neck pain. Spine, 2000; 25(9): 1 148-56. | Linton博士らは、心理学的問題が疼痛の病因、疼痛、急性疼痛、亜急性疼痛、慢性疼痛の発現、および急性疼痛から慢性疼痛への移行に関与することを見出した。ストレス、苦痛、不安、気分および感情、認知機能および疼痛行動はすべて、疼痛と相関関係があるように思われる。しかし、心理学的因子では変化の一部しか説明できず、このことは腰痛および頸部痛が多要素性の性質をもつことを示している。 | |
頸部痛を防止する方法はあるか? | Linton SJ and van Tulder MW, Preventive interventions for back and neck pain problems: What is the evidence? Spine, 2001; | 運動が頸部痛の予防に役立つ可能性があるというエビデンスがある(ただしレビューで引用された研究の大部分は腰痛に関係したものであった)。比較研究から得られた、教育・人間工学的対策およびリスクファクターの修正を支持するエビデンスはない。 |
むちうち損傷患者に有効な保存療法は? | Peeters GG et al., The efficacy of conservative treatment in patients with whiplash injury: A systematic view of clinical trials, Spine, 20 1 ; 26(4):E64-E73 . | 良質の研究が不足している。Peeters博士らによると、むちうち損傷患者に対する保存療法の有効性に関する妥当な結論を引き出すのは困難である。積極的な治療を支持するエビデンスがあり、著者らは“安静にしていると身体がさびつく”と述べている。 |
急性むち打ち症の予後はどうか? | Cote et al., A systematic review of the prognosis of acute
whiplash and a new conceptual framework to synthesize the literature, Spine, 200 1 ; 26:E445-E458. |
ケベック特別調査団(QTF)は、むち打ち症は一般的に、ほとんどの患者が予後良好な、自己限定性の疾患であると結論づけた。しかしQTFは、厳密な予後研究が行われていないと指摘した。QTF以降、むち打ち症の予後に関する理解はほとんど進展していない。新規のレビューは、疼痛強度および神経根性徴侯/症状が回復の重要な予測指標であることを示唆している。保険および補償のシステムが回復に重大な影響を及ぼしていることも明らかになった。幅広い予後因子を検討する大規模コホート研究が必要である。 |
頸部の神経根症またはミエロパシーに対して、手術は保存療法よりも有効か? | Fouyas IP et al., Surgery for cervical radiculomyelopathy, Cochrane Database Systematic Review, 2001 : (3):CDOO1466. | このレビューでは、頸部手術を保存療法と比較したRCTsは2つしか見つからなかった。どちらからも、手術の長期的利点に関するエビデンスは得られなかった。頸部神経根症患者において、除圧術には保存療法を上回る短期的利点があった。しかし2群の1年後の結果は同様であった。頸髄障害に関係した軽度の機能障害を有する患者の治療において、手術と保存療法とでは結果に差がみられなかった。 |
体系的レビューで、頸椎固定術の最も良い方法を同定できるか? | Van Limbeek J et al., A systematic literature review to identify the best method for a single-level anterior cervical interbody fusion? European Spine Journal, 2000; 9(2) : 1 29-36. | レビューでは、さまざまな頸椎の前方固定術を比較した8つのRCTsが見つかった。そのうち3つは、妥当な質を有していた。癒合率は28〜63%の範囲であった。臨床的成功率は66〜82%の範囲であった。しかし研究では、頸部椎間板疾患の外科的治療の絶対的標準を同定することはできなかった。 |
高周波神経切断術は、頸部痛の有効な治療法か? | Geurts JW et al., Efficacy of radiofrequency procedures for the treatment of spinal pain: A systematic review, Regional Anesthesiology and Pain Medicine, 2001; 26(5):394-400. |
むちうち損傷後の痛みのある頸部椎間関節の治療における高周波神経切断術の有効性に関する、限られたエビデンス(質の高い1つのRCT)がある。慢性頸腕症の治療において後根神経節の高周波加熱はプラセボよりも有効であるという、限られたエビデンスも存在する。 |
加茂整形外科医院
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