Failed Back Surgery Syndrome (FBSS)

”エピドラスコピーの適応と禁忌” より

渡辺和彦 佐藤哲雄 (防衛医大麻酔科)   Pain Clinic  Vol.22 No.12 (2001.12)


FBSSは腰椎の手術を受けたにもかかわらず,腰痛や下肢痛などの症状が持続する患者をさす言葉である。新たな症状が増し加わることもある。腰椎術後の5%〜50%にFBSSが発生する。Rishらは文献上15,000人の椎間板手術患者の成績を分析して20%に症状の持続を認めている。米国では年間37,500名のFBSS患者が新たに生まれている。FBSSの治療には複数回の手術が行われることが多い。Waddellらによれば,2回目の手術では40〜50%が改善し,20%は悪化する。3回目の手術では20〜30%に有効であるが25%は悪化する。また4回目の手術で改善するのは10〜20%にとどまり,45%が術後悪化をみる。手術療法以外にも硬膜外ブロック,脊髄電気刺激療法,神経根切断術などが試みられているが効果は芳しくない。本疾患についても本邦では施行例が少なく,まとまった成績は報告されていない。寺尾らは3例の症例を報告している。3症例とも硬膜外腔の癒着が激しく剥離は困難であったが術後の造影では硬膜外腔の拡大をみとめ2ヵ月程度疼痛改善が持続したという。このことから,硬膜外腔の癒着剥離により症状の改善は期待できるが,剥離困難の克服と再癒着によると考えられる疼再発の解決が今後の課題であると指摘している。Richardsonらは神経根症状を伴う腰痛患者38名に対するエピドラスコピーの治療成績を報告している。38名中半数の19名はFBSS患者であった。全例に硬膜外腔の疲痕組織をみとめ,41%(14名)には特に強い癒着がみられた。術前と比較した除痛効果(Visual analogue pain scores)は6ヵ月後においても有意に低い値を示した.。以上はエピドラスコピーがFBSSの治療法として有効であることを示唆するものである。10年前から両下肢のしびれを主訴とし,1年前に2度の腰椎手術(開窓術・椎弓切除術)を行ったが症状の改善をみなかった59才男性の例を示す(図2)。

術前の硬膜外造影では癒着によりL4のレベルで閉塞していた硬膜外腔がエピドラスコピーにより比較的容易に剥離され,術後の硬膜外腔の拡がりが確保されている。本症例は十分な剥離がなされたと考えられたが症状の改善にはつながらなかった。発症からの経過が長いことと,エピドラスコピーの治療効果が悪いとされるしびれ感が主症状であったためと思われる。また,FBSS患者にみられる硬膜外腔の癒着はFBSSの原因としての意義は少なく,単なる手術の結果に過ぎない可能性もある。今後症例を重ねてどのような病態に真に有効であるのか一層明確にしていく必要がある.

加茂整形外科医院