現在の診断法で椎間板に起因する疼痛を正確に同定できるのか?

Are Current Diagnostic Methods Capable of Accurately Identifying Discogenic Pain?


椎間板に起因する疼痛、および疼痛性の椎間板を同定する誘発性椎間板造影の能力に関して、活発な論争が続いいている。数十万人の患者のアウトカムがどうなるか分からない状態にある。特定の椎間板に起因する疼痛には、一般に、脊椎固定術および人工椎間板移植の両方が適応となる。

椎間板造影および他の診断検査で、腰痛患者における疼痛の主要原因を正確に同定できなければ、これらの外科的治療は一貫性のない凡庸な結果になる運命にある。

Eugene Carragee博士の研究等によって、様々な一般的臨床状況(すなわち異常な心理学的プロファイルを有する患者、異常な疾患行動を有する患者、および複数椎間の脊椎疾患を有する患
者など)における椎間板に起因する疼痛を同定する上での椎間板造影の価値に関して、疑問が提起されている。

今回、適切にデザインされたCarragee博士らによる研究は、ほぼ理想的な状況下で椎間板造影が椎間板に起因する疼痛を同定する能力に関する疑念を生じさせた。

適切な研究

Carragee博士らは、厳密な椎間板造影プロトコールによって確認された1椎間の椎間板に起因する疼痛を有する患者の手術によるアウトカムを評価した。博士らは、それらをゴールドスタンダ
ード(不安定な脊椎すべり症であると明白に診断された患者の手術によるアウトカム)と比較した。

研究の参加基準では、不良アウトカムに対する同定可能なリスクファクターを有するすべての患者を除外した。両群に、全く同じ手順の固定術およびリハビリテーションプロトコールを実施した。

もし椎間板造影で1椎間の椎間板に起因する疾患を本当に正確に確認できるならば、これら2群の患者はほぼ同等の手術成功率を有するはずであった。

両群は同様の骨癒合率を達成したが、2群の臨床的アウトカムは驚くほど異なった。すなわち、脊椎すべり症の患者の71.9%は症状および活動障害が完全に消失したのに対して、椎間板に起因する疼痛群で同様の結果が得られた割合はわずか26.6%であった。

椎間板造影の失敗

Carragee博士らによると、本研究は、椎間板造影の診断失敗に関するエビデンスを提供している。

Carragee博士らは、“これらのデータによると、椎間板造影では約50%の被験者において1椎間の’疼痛発生源’を同定できなかったようである”と言う。“その高位の椎間板(および推定された疼痛発生源)を完全に除去させても、腰痛症状は効果的に除去されなかった"”と博士らは結論づけ、“椎間板が臨床症状の主要原因ではない可能性を考慮しなければならない“と付け加えた。

最近Carragee博士は、特定の椎間板に起因する疼痛の存在を信じていると論評した。本研究において、特定の椎間板に起因する疼痛と診断された患者の約4分の1は、腰痛および活動障害が完全に消失した。“私は、これがプラセボ効果であるとは思わない”と博士は述べた。

“このことは、確かに一部の患者は治癒可能な特定の椎間板に起因する病理学的異常を有することを示唆する。しかし、我々はどのようにして、それらを選別するのか”と言う。

Carragee博士は、ポルトガルのポルトで開催されたSpine Week 2004の国際腰痛研究学会の年次総会で本研究を発表した(Carragee et al.,2004を参照)。

2つの重大ポイント

“これは、優れた研究です”と、ミネアポリスにあるCorbin and Companyの外科技術コンサルタントTerry Corbin氏は言う。“診断が不正確であることが、固定術の結果に悪影響を及ぼしている可能性があることを示唆している。脊椎専門医が有痛性の椎間板を正確に同定できなければ、脊椎固定術でも椎間板置換でも、患者が求めているような」貫した結果は得られないだろう”
とCorbin氏は述べる。

“しかし本研究には別の重要なポイントがあります。適切に選択された患者が(本研究における不安定な脊椎すべり症患者のような)はっきりした治療可能な脊椎の障害を有しているならば、
固定術によって優れたアウトカムを得ることが可能だ”とCorbh氏は言う。

症状の部分的消失

一部の専門家は、脊椎の病理学的異常を治療する能力が、それを診断する能力より勝ってしまったと主張する。椎間板に起因する疼痛は、その典型例だと思われる。研究を重ねるたび、椎
間板に起因する腰痛に対する固定術は、一貫性のない結果につながっている。

椎間板に起因すると推定される疼痛を有する患者の中には、脊椎固定術または椎間板置換の後、症状が完全に消失したと報告する患者もいるが、大多数の患者は、部分的な疼痛緩和しか得られない。

不良なアウトカムは3つの要因から生じる可能性がある:(1)1つまたは複数の疼痛発生源を正確に同定できない診断方法;(2)不適切な患者選択(すなわち、共存疾患およぴ不良なアウトカムの様々なリスクファクターを有する患者を研究に組み入れた);およびまたは(3)手術手技そのものに関係する問題である。

ゴールドスタンダードとの比較

Carragee博士らは、疼痛を誘発する椎間板造影で、椎間板由来の病変に起因する腰痛疾患を正確に同定できるという仮説を検証した。

博士らは、“SackettおよびHayesの第III相の診断検査”と称する方法による臨床的アウトカムの“ゴールドスタンダード”と比較して、椎間板造影の精度をテストすることに決めた。診断の問題に主眼を置くため、博士らは、手術合併症および不適切な患者選択の交絡作用をコントロールするために多くの努力を行った。

博士らは、対照治療として1椎間の不安定な脊椎すべり症を選択した。なぜなら、予測可能な手術アウトカムの実績のある、明白な診断可能な臨床疾患だからである。

不適切な患者選択をコントロールするため、Carragee博士らは、共存疾患および不良なアウトカムの様々なリスクファクターを有する患者をすべて除外した。すなわち、(1)症状の`持続期間が6ヵ月未満もしくは18ヵ月より長い'患者;(2)精神測定スコアが異常な患者;(3)労災補償または個
人的な外傷補償を受けている患者;(4)慢性疼痛症候群の既往のある患者;および(5)他の同定可能な脊椎疾患を有する被験者を除外した。2つのコホートは人口統計学的特性および他の特性に関して同じ構成であった。

全く同じ外科手術

脊椎専門医が有痛性の椎間板を正確に同定できなけれぱ、脊椎固定術でも椎間板置換でも、常に患音が求めている長い結果は得られないだろう

手術合併症についてコントロールするため、2つのコホートは、全く同じ外科手術、すなわち後方インストルメンテーションを併用した腹腔鏡による低侵襲性の前方腰椎椎体固定術を受けた。

不安定な脊椎すべり症の群の患者は全員、腰痛および坐骨神経痛を伴う、L4-L5またはL5-S1におけるグレードIおよびIIの1椎間のすべり症を有したが、運動麻痺はなかった。すべての患者が4o以上の平行移動およびまたは屈曲ー伸展時に12度以上の回転角を有した。不安定な脊椎すべり症の群の患者は全員、椎間板造影およびMRIによって、隣接する椎間板が正常である
ことが確認された。

椎間板に起因する疼痛群の被験者は、L4-L5またはL5-S1の1椎間が椎間板造影で陽性となり、20psi未満の圧力で疼痛スコアが10ポイント中6ポイントを超え、通常の疼痛が正確に再現
された。すべての患者が、外側線維輪の内部まで色素で染まっていた。

椎間板に起因する疼痛群におけるすべての被験者は、隣接する椎間板が正常であり、椎間関節および/または仙腸関節注射は陰性で、根性痛はなかった。

全く異なるアウトカム

前述したように、もし1椎間の椎間板に起因する疼痛および不安定な脊椎すべり症の両方が、本研究において正確に診断されたならば、両群の被験者は、手術後に同様の臨床結果を有する
はずであった。結局、固定術によって、これらの両疾患における疼痛発生源が除去されるはずであった。

研究では、2種類のアウトカム基準を用いて独立したアウトカムの評価を行った。Carragee博士は、脊椎手術後のアウトカムはしばしば過度に甘く評価され、月並みな結果も“手術成功”と定義しされているという見解を強く提示している。

そこで博士らは、優れたアウトカムに関する厳密な基準を採用した:

・ビジュアルアナログ疼痛スコアが2未満;
・Oswestry活動障害スコアが15未満;
・麻酔薬または鎮痛薬を毎日使用せず;
・通常の職務またはそれに等しい活動の完全な再開。

これらの厳密な基準によれば、不安定な脊椎すべり症を有する患者の72%が、成功したアウトカムを有したのに対して、椎間板に起因する疼痛群の患者ではその割合はわずか26.6%であった。

Carragee博士らは、別の方法でもアウトカムを評価した。“最小限の許容範囲にある”アウトカムに達した患者の割合を調べた。これは以下のように定養した。

・ビジュアルアナログ疼痛スコアが4未満;
・oswestry活動障害スコアが30未満;
・麻酔薬を毎日使用していない;
・何らかの形で仕事を再開。

これらの基準によれば、不安定な脊椎すべり症群の91%が成功したアウトカムを有したのに対して、椎間板に起因する疼痛群の患者ではその割合は43%に留まった。

診断法の欠点

Carragee博士らは、厳密な椎間板造影プロトコールを採用し、可能性のある他の疼痛発生源を注意深く除外しても、1椎間の椎間板に起因する疼痛を正確に診断することは不可能だと結論
づけた。

これらの結果は、椎間板に起因すると推測された疼痛を有する患者の大多数において、脊椎手術の分野で実施されている椎間板造影では、特定の解決可能な疼痛発生源が正確に同定される可能性は低いことを示唆する。このことは、椎間板に起因する疼痛のための脊椎固定術に関する重大な問題、および椎間板置換に関する等しく重要な問題(同様の診断方法を使用)を引き起こす。

診断方法が腰痛に適していない?

新規研究を批判する専門家は、異なる椎間板造影プロトコールを含む別の診断方法を用いていれば、異なる結果が得られた可能性があると示唆する。しかし、Carragee博士は、診断プロトコールは注意深く厳密であったと強調する。

“椎間板造影プロトコールは、通常の国際脊椎注射学会の勧告と同じくらい厳密であった。私の知っている地域医療機関で実施されている椎間板造影よりもはるかに厳密であった”とCarragee博士はコメントした。

本研究を批判する専門家がそれらの見解を等しく厳密に検証し、異なる診断方法によってこの種類の対照比較研究におけるゴールドスタンダードに匹敵する手術のアウトカムが得られるか
どうかを検討する試みが望まれる。椎間板造影が手術のアウトカムの向上につながるという、厳密なプロスペクテイブ研究から得られた決定的なエビデンスが、現在の脊椎研究の文献には欠
けている。

これらの結果に基づいて何ができるか?

それでは、手術のアウトカムを改善するために、これらの結果に基づいて何ができるだろうか。本研究は、他の多くの研究と同様に、診断能力および患者選択能力を改善するためには、多
くの研究が必要であることを示唆する。脊椎専門医が手術の適応となる患者を同定するためのより良い方法を獲得することが可能でない限り、治療技術における進歩がアウトカムの改善につながらない可能性がある。

現在の診断方法が慢性腰痛の多くの複雑な形態に対応していないだけだと考える専門家もいる。

Carragee博士およびMatthew Hannibal博士は、Orthopedic Clinics of North Americaに掲載されたレビューの中で、“一部の研究者にとって、腰痛は、メカニカルな要素、心理学的要素および神経心理学的要素を含む非常に多要素性のものであるため、1つの特異的な解剖学的検査であらゆる患者の腰痛疾患の診断を確認することを期待するのは無理である。たとえ1つの疼痛発生源が疑われても、これが、複雑な社会的、情動的および神経生理学的な交絡因子に関与して発生した疼痛知覚、障害および活動障害と、どの位確実に関係するのかは明らかではない”と言っている(Carragee and Hannibal.2004を参照)。

本研究の方法を見習うのはどうだろうか?

本研究の方法を見習うことによって手術結果を改善することは可能であろう。不安定な脊椎すべり症群の10例中7例程度は症状がほぼ完全に治癒し、90%以上の患者は最小限の術前の期待
に添う結果であったと満足していた。これらは、外科医が夢見る種類の結果である。

しかし、これが高度に選択された患者コホートであったことを覚えておくことが重要である。通常の脊椎手術を行う医療機関でこれらの基準を採用すれば、おそらく手術の適応となる患者の数は大幅に減るだろう。外科医が、明確な特定の脊椎障害を有し不良なアウトカムのリスクファクターのない患者の治療だけを行うなら、ゴルフを楽しめるほど時間が充分できるだろう。Carragee博士は、非常に忙しい診療の中で本研究のコホートを選択するには5年を要したと報告した。

参考文献:

Carragee EJ et al., Clinical outcome after solid ALIF for presumed lumbar "discogenic" pain in highly selected patients: An indirect indication of diagnostic failure of discography, presented at the annual meeting of the International Society for the Study of the Lumbar Spine, Spine Week 2004. Porto. Portugal; as yet unpublished. 

Carragee EJ and Hannibal M, Diagnostic evaluation of low back pain, Orthopedic Clinics of North America, 2004;35:7- 1 6. 


The BackLetter 19(9): 97, 102-103, 2004. 


(加茂)

本来、椎間板には疼覚神経の終末は見られないが、変性した椎間板にはそれが見られるようになるという。

痛覚神経の終末のあるところどこでも「痛みの発生源」になる可能性はある。しかし、椎間板が痛みの発生源である可能性はそんなにあるとは思えない。もし椎間板が痛みの発生源であるならば、自覚している痛みは関連痛であり、圧痛点はない。ほとんどの腰痛は圧痛点があり、圧痛点をブロックすると痛みはとれる。

痛みの発生源を取ってしまったり、固定すればよいというならば、それは限りないことになってしまう。

椎間板の変性と腰痛の関係はトップページのグラフのように比例関係はない。

加茂整形外科医院