臨床医はどの患者が慢性的活動障害になるかをいまだ予測できない

Clinicians Still Cannot Predict Which Patients Will Become Chronically Disabled


腰痛活動障害のリスクが最も高い患者を活動障害曲線の初期に同定する必要性が高い

腰痛のある労働者の中に急性発作からすぐに回復する患者と、じわじわと慢性化し活動障害に至る患者がいるのはなぜなのだろうか。慢性活動障害への進行を予測できる正確なモデルは、
腰痛研究の“聖杯(Holy Grail)”と呼ばれてきた(Frank et al.,1996を参照)。

中世の聖杯伝説と同様に、この予測モデルを探求する多くの困難な試みは失敗に終わっている。

研究者らは、40年以上もそのようなモデルを探してきた。腰痛に関する知識が途方もなく増えた一方で、慢性活動障害の正確な予測モデルは相変わらず捉え所がない。

神経心理学者のJeffrey Feldman博士が職業性腰痛による活動障害に関するエビデンスの最近のレビューの中で指摘したように、聖杯の所在は未だ不明である(Feldman et al.,2004を参照)。

他の研究者もこの評価と同意見である。“最近損傷した労働者のうち、誰にその後慢性活動障害が発現するかを正確に予測するのは、現在のところ不可能である”と、Judith Turner博士らは
BMC Musculoskeletal Disordersに掲載された最近の論文で述べている(インターネットで無料で入手可能)。

Turner博士らは現在、腰痛および他の筋・骨格系疾患を有する患者の慢性活動障害の予測因子を同定するために、ワシントン州の労災補償請求者のプロスペクテイブ研究を実施中である。
博士らは最終的には、この研究に基づいて、慢性活動障害に陥るリスクが最大の患者を同定するため医療機関および職場で採用できる簡潔な手順または問診票を作成したいと考えている。簡単なように聞こえるが、これは実際には非常に困難な仕事である(Turner et al.,2004を参照)。

永遠に魅力的な探求

腰痛による活動障害の予測モデルがなぜそれほと望まれるのだろうか。その答えは、活動障害性腰痛の疫学にある。

腰痛のある労働者を含めたほとんどの腰痛患者は、急性症状から順調に回復する。腰痛は概して再発するが、再発してもほとんどの患者は順調に回復する。腰痛患者の大多数にとって、一過
性の腰痛はしつこい健康問題ではあるが、生産的生活の大きな障害ではない。

しかし少数の腰痛患者は、急速に持続的疼痛および就労障害の状態に陥る。これらの患者にかかる医療費および活動障害コストが、最も大きな割合を占めている。

少数派の患者を対象に

腰痛による活動障害のリスクが最も高い患者を活動障害曲線の初期に同定する重大な必要性がある。そうすれば、それらの患者を対象にした予防プログラムを実施できる。

“慢性活動障害のリスクの高い損傷を有する労働者の早期における正確な同定およびそれらの労働者に対する早期介入は、活動障害によって財政および個人(例えばQOL)にかかる破壊的
コストの抑制に対して、非常に大きな肯定的影響を及ぼす可能性をもっている”と博士らは付け加えている。

複雑に絡み合った影響

腰痛活動障害に対する影響は実に複雑であるため、聖杯の探求は挫折の連続である。四半世紀にわたる研究によって、職業性活動障害のリスクファクター(身体的、心理杜会的、組織的、
経済的、医学的、および法的)のスコアが同定されている。毎年、新しいファクターが明らかになっている。

様々な影響は労働者のグループによってかなり異なるように思われる。労働者の大規模集団において同定されたリスクファクターが、個々の多様な人間における活動障害の問題を検討する
鍵となるかどうかは明らかではない。

多数の身体的、心理的、社会的、職業上、経済的および法的な変化が相互作用するため、活動障害を予測するためのシンプルなチェックリストを作成する試みは混乱に陥っており、これ
からもそうした混乱が続く可能性が高い”と、Feldman博士は論文で言及している。

1つの一般的な過程が、この複雑な問題の中で突出している。Feldman博士は、臨床医が次第に腰痛による活動障害に陥る過程を媒介する認知因子(すなわち不適切な思考、捉え方、信念および恐怖)を検討すべきであることを示す強力な経験的エビデンスがある、と言及している。“職業性腰痛に関連する100の変数のうちどの変数が、またはどの組み合わせが、個々の患者と最も関連があるかには関係なく、それによって自分が活動制限を必要とし仕事の再開を妨げる疼痛性疾患を有していると個々の患者が信じるようになる”とFeldman博士は述べている。

腰痛が固定してしまう前の急性期および亜急性期にこうした誤った捉え方や信念に対処することが好結果を生み、患者が生産的生活に戻るのを助けることを示唆する、様々なエビデンスが存
在する。


参考文献:

Feldman JB et al., The prevention of occupational low back pain disability: Evidence-based reviews point in a new direction, Journal of Surgical Orthopaedic Advances, 2004;13(1): 1-14. 

Frank JW et al., Disability resulting from occupational low back pain: part II: What do we know about secondary prevention: A review of the scientific evidence on prevention after disability begins. Spine, 1996;21 :2918-29. 

Turner JA et al.. Prediction of chronic disability in work-related musculoskeletal disorders: A prospective, population-based study, BMC Musculoskeletal Disorders, 2004;4(1): 14; www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pubmed&pubmedid= 15157280 . 

The BackLetter 19(8): 88-89, 2004. 

加茂整形外科医院