仕事に関連した腰痛は予防可能か

Can Work-Related Back Pain Be Prevented?


科学的エビデ'ンスから、腰痛予防のためのはっきりした青写真は得られない
すべての領域において厳密な研究が必要

多くのプログラムが、仕事に関連した腰痛および関連する活動障害の予防に成功したと主張している。しかし説得力のある科学的エビデンスによって主張が裏付けられたプログラムはごく少数である。

1980年から2002年までに公表された対照比較研究において有意な影響が認められた介入はごく少数であることが、ノルウェーで最近行われた体系的レビューにおいて明らかになった。

“これらの結果は、従業員の腰痛予防を目指した介入を検討する際には注意しなければならない相当の理由があることを示している。すべての職場における介入のうち、腰痛に対する効果が実証されているのは運動および包括的な集学的介入と治療のみである”とTohll H.Tveito博士らは結論づけている(Tveito et al.,2004を参照)。

広く行われている介入の中には、厳密な研究によるはっきりとした裏付けが全くないものがある。例えば、Tveito博士らは、人間工学的介入が腰痛または関連する活動障害に対して独立した作用を有することを示す対照比較研究を見出すことはできなかった。レビューの対象となった複数のプログラムには、職場の人間工学的な教育または改良が含まれていたが、人間工学的介入の効果を他の介入の効果と分離することは不可能であった。

要注意

先進工業諸国においては腰痛予防プログラム白体が大事業である。これらのプログラムの提唱者はそれらを積極的に売り込み、それらが腰痛および活動障害コストを抑制する能力を強く主張する。

筆頭著者のTveito博士は、雇用者も従業員も同様に、そのような主張を評価する際には注意するよう勧めている。“種々のプログラムの効果に関するエビデンスはそれほど多くない”と博士は指摘する。したがって、雇用者および従業員が、提供されるプログラムの効果について懐疑的であり証拠文書を請求しても少しも不思議ではない。

レビューでは28種類の介入を確認

Tveito博士らは、疼痛、病気休暇、コスト、および腰痛の新規エピソードという4種類のアウトカムに対する、職場における腰痛介入の効果を調査した。従業員が参加した比較対照をおいた職場における介入に限定して検討した。MEDLINEと他の3種類のデータベース、ならびに適切な出版物の参考文献一覧の検索を実施した。

博士らは、31の出版物において28の介入の研究を見出した。研究は非常に不均質であったため、統計学的集計およびメタアナリシスは実施できなかった。そのかわりに著者らは、研究を質および設計によって分類し、定性分析を行った。

教育プログラムには明らかな利点なし

介入の中で最も多かったのは教育プログラムで、28のうち10を占めた。研究者らは、これらの対策が疼痛、病気休暇、コストまたは腰痛エピソードに対して肯定的な作用を及ぼしたというエビデンスを見出すことができなかった。研究者らは、パンフレットを使用した介入は別個のカテゴリーに分類した。この介入は、従業員の知識および捉え方に影響を及ぼしたが、今回のレビューで評価したアウトカムには影響しなかった。

Tveito博士らは、腰ベルトが有用な予防手段であるというエビデンスを見出すことができなかった。5つの研究において、腰ベルトは、疼痛、病気休暇、コストまたは腰痛エピソードに関して利点が認められなかった。

複合的な治療プログラム

体系的レビューで用いられる用語は、部外者にとっては紛らわしい。Tveito博士らによるレビューでは、従業員のための複合的な治療を含む“治療介入”という項目を設けている。これらの治療介入の一部は、他のレビューでは“集学的介入”と呼ばれた。成功した複合的な治療介入の例は、Patrick Loisel博士らによるカナダの労働者に関する著名なSherbrooke研究であろう(Loisel et al.,1997を参照)。

総合的に、Tveito博士らは、これらの複合的な治療プログラムが、病気休暇に関して有用な影響を及ぼすことを示す“中等度のエビデンス(方法論的に堅固な1つの研究および方法論的に弱い1つ以上の研究に基づくエビデンス)”を見出した。博士らは、治療プログラムが腰痛再発に対して好ましい影響を及ぼすという、“限られたエビデンス(方法論的に堅固な1つの研究または方法論的に弱い複数の研究に基づくエビデンス)”を見出した。レビューを行ったノルウェーの研究者は、コストまたは腰痛レベルに対する影響に関するエビデンスを見出すことはできなかった。

集学的プログラム

Tveito博士らは、2つの研究を“集学的介入”に分類した。1つは、腰痛のある看護師のための認知療法および理学療法を含む集学的プログラムに関する方法論的に堅固な研究であった。この介入は、看護師の疼痛レベルに好ましい影響を及ぼしたが、病気休暇には影響しなかった。

この分野に含まれるもう1つの研究は、カリフォルニア州のある郡の職員における集学的な腰痛予防研究のあまり厳密ではない調査であった。この研究では、コストおよび腰痛の新規エピソードに対する有用な影響が報告された(詳細はレビューを参照)。

運動プログラムが有効

医療機関スタッフ、在宅医療スタッフ、消防士および他の従業員における運動療法に関する研究が6つあった。運動療法は、自主的な美容体操から強制的な腰および肩の運動まで様々なものがあった。6つの研究のうち4つでは、このレビューで考察したアウトカムに関して肯定的な影響が報告された。総合的に、Tveito博士らは、運動プログラムが、病気休暇、コストおよび腰痛エピソードに対して好ましい影響を及ぼすという限られたエビデンスを見出したが、それらが疼痛に対して有用な影響を及ぼすというエビデンスは見出せなかった。

あらためて研究を行う必要性

残念ながら、対照比較研究から、腰痛の一次および二次予防をいかに進めるのが最も良いかというはっきりした青写真は得られない。もう1つの懸念事項は、成功したプログラムが国、医療システムおよび活動障害補償システムの違いを越えてどのくらい通用するか、という問題である。

研究者は、運動、集学的介入および複合的な治療プログラムについて楽観的でいられる理由を見出した。しかし、このレビューに含まれた研究の総合的な質が低かった点についても言及している。

Tveito博士らは、職場は介入研究を実施する環境としては難しいと指摘している。“職場における介入の場合には、適切な無作為対照比較研究を設計することカ灘しいことを認識した上で、私はすべての領域において、より良く設計された研究を期待している”と、最近Tveito博士らは論評した。特に必要とされているのは、職場における腰痛の捉え方を変えることによる影響についての研究、および腰痛に対する考え方を変えることによって欠勤を防止できるかどうかについての研究であるように思われる。恐怖回避モデルに関する新規介入の企画や研究が、実り多いことが将来判明する可能性がある。

同じくTveito博士らは、腰痛教室および教育プログラムの内容を変えればより良い効果が得られるかどうかを知りたいと考えた。“ほとんどの体系的レビューでは、腰痛教室は有効ではないと結論づけている。それは腰痛教室で誤ったメッセージを患者に伝えたためなのだろうか?”とノルウェーの研究者は疑問を投げかけている。過去の多くの腰痛教室は、腰痛の伝統的な捉え方にどっぷり浸かっていた。Tveito博士らは、腰痛教室で現代のエビデンスに基づくガイドラインのメッセージを患者に伝えた場合には、もっと効果があるかもしれないと示唆している。


参考文献:

Loisel P et al., A population-based,randomized clinical trial on back pain management, Spine, 1997;22(24): 291 1-8. 

Tveito TH et al., Low back pain interventions at the workplace: A systematic literature review, Occupational Medicine, 2004;54: 3-13. 


The BackLetter 19(9): 100-1 O1, 2004. 

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