身体表現性障害とは何か

上島国利昭和大学医学部教授(精神科)

日本医師会雑誌2005年5月 巻頭言


身体表現性障害(somatoform disorders)は、7つの障害をまとめた疾患群の呼称であり、1980年アメリカ精神医学会によるDSM-III(精神障害の分類と診断の手引き)の第3版が刊行されたときから新しく使用された用語である。それに含まれる障害は、軽度とはいえず一時的でもない一般身体症状では説明できない症状や、身体的とらわれの存在がみられることによって特徴付けられる。

身体化障害鑑別不能型身体表現性障害転換性障害および疼痛性障害においては、一般身体疾患の存在を示唆する身体症状がみられるが、医学的な検査ではその症状の病因を十分説明できる一般身体疾患の立証は困難である。

一方、心気症は重篤な病気にかかっているという「とらわれ」、身体醜形障害は、自分が外見上の重大な欠陥をもっているという「とらわれ」によって特徴付けられる。

臨床医は身体表現性障害の診断のプロセスにおいて、次の2点を注意深く除外していく必要がある。1つは、その症状を引き起こしているが、背後に存在していて、いまだ検出されていない一般身体疾患、もう1つは、その身体症状の原因であるうつ病不安障害など他の精神疾患である。うつ病や不安障害は有病率が高いが、抗うつ薬や抗不安薬の効某が期待できる疾患である。

身体表現性障害の最大の問題点は、その身体症状のため、精神科以外の診療各科を受診、適切な診断治療がなされないという事実である。また、何度も受診を繰り返すため、必要以上に検査や投薬が行われる傾向があり、医療経済的にも負担となっている。

患者へのアプローチは、身体的所見,身体症状、それに関連する心理的要因の総合評価を行い、心理教育的アプローチとして十分な説明、保証をするが、効果が十分でなければ、今後の治療の選択肢のなかに必ず専門医への受診を提案する。また、薬物療法として、抗うつ薬、抗不安薬も適切な投与によって効果を発揮する。

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