むち打ち関連損傷の予後に影響するのは、どの症状や徴候か?

Which Symtoms and Signs Influence the prognosis of Whiplash-Associated Injuries?


ケベックで行われた最新研究によれば、むち打ち関連障害における予後予測因子としては、年齢・性別にくわえて、5つの身体症状や徴候が重要なようだ(Suissa et a1.,1999)。頸部の圧痛、筋肉痛、頭痛、腕・手・肩に放散する疼痛やしびれが、むち打ち関連損傷後の回復過程に大きな影響を与えるようである。筆頭著者のSami Suissa博士は、“これらの症状や徴候は、年齢・性別と同様に、受診時に容易に見つけることができる。これらの患者を最初に診察する医師が、症状を同定し、早期治療が必要なハイリスク患者を絞ることができる"と述べている。

ケベック特別調査団の分類が有用

さらに、この研究によって、むち打ち関連障害に関するケベック特別調査団の臨床分類(表I)を、年齢・性別と組み合わせて用いると、予後をかなり予測できることが分かった。しかも、前述の症状や徴候を年齢と性別にくわえて使用すると、ケベック特別調査団の方法よりも正確に予後を予測できた。

ケベックにおける集団ベースの研究

むち打ち関連障害からの回復に関するデータの大部分は、方法論的に問題のある研究で得られたものであった。むち打ち関連障害の経過を、あらゆる保険請求ができるような地域住民を対象被験者とした研究は、これまでほとんど見られなかった。Suissa博士らは、このような欠点を解消した研究計画を立てた。彼らは、1987年にケベックで、自動車追突事故後にむち打ち関連障害が発現した者全員(合計4766人の男女)の対象集団について調査を行い、最高7年間の経過観察を行った。他の傷害による影響が交絡するのを避けるため、むち打ち関連損傷のみを有する2600人に制限して分析を行った。被験者の63%が女性であった。平均年齢は約35歳で、42%が事故の時点で有職者であった。Suissa博士らは、医師・病院・救急室の記録から、身体的な症状や徴候に関するデータを集め、一部の被験者については被験者自身からデータを収集した。ケベック特別調査団の分類に従えば、この研究の被験者の66%がむち打ち関連障害T(WADT)(頸部愁訴はあるが、身体的徴候なし)、28%がWADU(頸部愁訴、筋・骨格系徴候あり)、5%がWADV分類(頸部愁訴、神経学的徴候あり)であった。多くの患者が順調に回復した。保険請求の終了をもって回復とみなしたとき、1ヵ月後までに被験者の約50%が回復し、120日後までに約80%が回復した。対象集団全体での回復期間の中央値は32日であった。

回復との相関

Suissa博士らは、患者特性と回復との相関について検討した。多変量解析によって頸部圧痛、筋肉痛、頭痛、腕・手・肩に放散する疼痛、しびれの5つの症状と徴候が予後因子として浮上した。年齢と性別も重要な予後予測因子であった。これは最近行われたほかの研究でも認められている。Suissa博士は、高齢の女性ほど回復に時間がかかると述べている。5つの身体的な症状と徴候の全てを有する高齢の女性患者では、回復に要した期間の中央値は262日であった。これらの愁訴がないWADTの若年男性では、回復期間の中央値は17日であった。

他の因子はどうか?

重要な予後予測因子は、この種の研究計画で同定を目的としたもの以外にもあるかもしれない。おそらく、心理・経済・社会・法律に関わる因子も、慢性化に何らかの影響を及ぼしていると思われる。これらのデータを追加することによって、これらの予後予測項目を微調整してくことができるだろう。この最新研究は、最近バンクーバーで開催されたむち打ち関連障害に関する世界会議の出席者に敬意をもって迎えられたが、この研究には、議論の余地があることも明らかになった。つまり、この研究が大手保険会社のデータに基づいており、保険請求の終了をもって回復と定義している点である。この研究についてのディスカッションで、1人の弁護士が「なぜ、医学用語ではなく保険用語を用いて回復を定義したのですか」と質問した。Suissa博士は、保険請求の終了は、多くの場合、臨床的に回復したことを反映すると強調した。しかしながら、これについて解明し、『回復』をより正確に定義するためには、さらなる研究が必要であることも認めている。Suissa博士は「そのような研究が必要とされていることは間違いありません」と述べ、資金が調達できれば、ぜひ実施したいと述べた。ケベック特別調査団のメンバーであるMargareta Nordin博士は、「保険請求の終了が臨床的な回復を反映することを裏付ける証拠はいくつかあります。しかし、保険請求の終了と、臨床的な回復、および機能的な回復との相関については、もっと優れたデータが必要です」と述べた。ケベック特別調査団の分類にある程度の価値があることが、この研究で証明されたことは心強い。会議の中で、Nordin博士は、ケベック特別調査団の報告はむち打ち関連障害に関する最終結論を意図しているわけではなく、むしろ、むち打ち損傷について、異種のデータを分析し、系統立てるための予備的な試みであったことを強調している。Nordin博士は、「ケベック特別調査団の研究以前には、我々は何も分かっていませんでした。しかし、今は違います」と述べた。むちうち損傷に関する新たなデータが明らかになるにつれ、ケベック特別調査団の知見は一層改良され、最新化されていくであろう。

参考文献:Spitzer WO et al., Scientific monograph of the Quebec Task Force on Whiplash-Associated Disorders: Redefining "whiplash" and Its management, Spine, 1995; 20(8S): 1-73.Suissa S et al., The effect of initial symptoms and signs on the prognosis of whiplash, presented at the World Congress on Whiplash-Associated Disorders, Vancouver, 1999; as yet unpublished.The BackLetter 1999・14(5) :53 , 59 .

GradeT

頚部愁訴(疼痛、こわばり感、圧痛)のみ、身体症状なし

 U

頚部愁訴、筋・骨格系徴候

V

頚部愁訴、神経学的徴候

W

頚部愁訴、骨折または脱臼
むち打ち関連障害に関するケベック特別調査団の臨床分類(Spitzer ら、1995年から引用)

加茂整形外科医院