腰痛ガイドラインを守れば患者のアウトカム(結果)は改善するのか?オーストラリアの研究が実証

Do Back Pain Guidelines Translate Into Better Patient Outcomes? Yes, According to a Study From Australia


最近オーストラリアで行われた歴史に残る研究は、腰痛に関する科学的エビデンスの隙間を埋めようとしたものであった。その隙間とは、“急性腰痛患者に、エビデンスに基づく腰痛ガイドラインを適用した場合、安全で有効なのか?”という疑問である。

腰痛ガイドラインができてほぼ10年になるが、実際の臨床的価値を検討した研究はこれまでなかった。勇気づけられる結果が出た。各種の結果評価尺度の点で、エビデンスに基づく医療は従来の治療法よりも優れていることが判明した。

Brian McGuirk博士らによると、“エビデンスに基づく医療を行うことにより、治療コストが著しく減少し、痛みがより緩和された”。

エビデンスに基づく治療群は再発した患者が少なく、継続的な治療を必要とした患者がすべての経過観察時点において少なかった。

プロジェクトディレクターのNikolai Bogduk博士が、カナダのオタワで開催されたMcKenzie研究所国際学会で、本研究について発表した。その後Spineに論文が掲載された(McGuirk et al.,2001.を参照)。

“エビデンスに基づく医療は、世界中のガイドラインが予測した通りの優位性を提供した”とBogduk博士は報告した。

“治療後に、急性腰痛は改善し、その状態が維持された。3ヵ月後の経過観察で完全に回復していた患者は、通常の治療群では49%であったのに比較して、ガイドラインに基づく治療群では67%であった”と博士は述べた。この利点は、6ヵ月後および12ヵ月後にも持続していた。

エビデンスに基づく治療はコスト面でもかなりすぐれていた。“べースラインから12週間後までに治療に要した費用は、通常の治療群では472豪ドルであったのに対し、エビデンスに基づく治療群では276豪ドルであった”とBogduk博士は報告した。

患者は、エビデンスに基づいた治療法に熱心であった。“患者はこの治療法を気に入っており、必要としている”、とBogduk博士は述べている。“彼らは、誰かが自分のことを気にかけ、話を聞き、説明し、自分でどう対処したらよいのか教えてくれることが極めて有益であることを見出し
た”。

先駆的研究

この最新研究は、エビデンスに基づく医療の支持者から熱狂的に歓迎された。Cochrane Collaboration腰痛レビューグループの、共同コーディネーターを務めるAlf Nachemson博士は、
「見事な論文です。エビデンスに基づく医療が成功することを示した世界で最初の研究です」とMcKenzie学会で述べた。

「私の知る限りでは、ガイドラインに従うように医師を訓練し、ガイドラインに従ったときの影響を調べた最初の研究です。今の考え方を強力に支持しています」と、英国のUniversity of Huddersfieldの研究者であるKim Burton博士は最近語っている。

多くの研究者は、この研究が、エビデンスに基づく治療法に関する多くの研究の先駆けとなることを望んでいる。オーストラリアのガイドラインは、1ダース以上もある、先進工業諸国の急性腰痛の管理に関する国が定めたガイドラインの1つである。対象範囲が狭いガイドラインはたくさんある。

これらのガイドラインはすべて、そこでの科学的エビデンスの解釈が実際に患者の治療の改善につながるのかどうか調べるため、検証される必要がある。「私はガイドラインが厳正な評価を受けるべきだということに強く賛同します」と、Richard Deyo博士は最近語っている。

特に訓練を受けた医師

ガイドラインを検証する際に問題になる点として、医療提供者がガイドラインを全面的に取り入れ、それを細部まで忠実に適用するケースはまれだという問題がある。オーストラリアの研究者らは、筋・骨格系の医療に関心のある医師グループを選択し、オーストラリアの腰痛ガイドラインの適用について彼らを訓練することによって、この障害を乗り越えた(Bogdukを参照)。

ガイドラインは、文献の批判的な解釈および他のガイドラインの検討に基づいて作成されたものであった。ガイドラインは、腰痛の分類学と病因学、臨床検査、画像検査および治療について網羅していた。McGuirk博士らによると、“ガイドラインが強調しているのは、自信に満ちた説明をすることによって患者の恐怖心や誤解を取り除くこと、Indahl博士らの原則に基づく簡単な運動と段
階的な活動、そして必要に応じて症状の軽減のために鎮痛薬や徒手治療のような単純な補助手段を用いることによって、日常の普通の活動を再開するよう患者を力づけることである(Indahl et al.,1995,1998を参照)。

比較研究

これは、無作為研究というよりは比較研究であった。437例の患者が、15名の医師から処方されたガイドラインに基づく治療を受けた。ガイドラインを適用する医師には、11名の一般医と4名の専門医が含まれた。彼らは、都市および地方にある13ヵ所の診療所で働いていた。

ガイドラインに基づく治療群の医師は、地域の一般医および救急室から回されてきた患者を治療した。15名の医師は、'患者が回復するまで、または3ヵ月間、エビデンスに基づく治療を行った。

研究者は、これらの患者の結果を、かかりつけの一般医による「通常の治療」を受けた83例の患者と比較した。通常の治療を行った医師には、オーストラリアの医療システムの4つの一般診療部門に所属する一般医が含まれた。2つの治療法が重なり合うのを避けるため、研究者は通常の治療を行う診療所は、エビデンスに基づく治療を行う診療所から十分離れた所にあるものを選択した。

研究に参加する条件として、患者は、持続期間が12週未満の腰痛を有する成人でなければならなかった。労災補償請求の対象患者は研究から除外した。

臨床的な特徴は同等

2つの群の医師による治療を受けた患者の、人口統計学的特性および臨床的特性はほぼ等しかった。研究者らによると、“両群の患者は、中等度の疼痛ならびに身体的および社会的な機能の障害を有していたが、それ以外は本質的に健康であった”。

べースライン、3ヵ月、6ヵ月および12ヵ月後の時点で患者の評価を行った。被験者の負担を少なくするため、研究者は、最小限の結果評価尺度を使用した。主要な評価尺度には、ビジュアルアナログ疼痛スケール(VAS)、SF-36、処方箋による治療および処方箋によらない治療(訳者注:後述の記事を参照のこと)の使用状況、ならびに日常生活の4つの活動に対する腰痛の影響を評
価する機能的評価尺度が含まれた。

3ヵ月後の経過観察で、被験者は、治療および結果に対する満足度の評価尺度である“治療の有用性”に関する問診票に回答した。

研究では、診察、診断的検査および処方箋による治療と、処方箋によらない治療の価格を表にまとめ、費用を評価した。

2つの方式の治療

ガイドラインに基づく治療群の医師と“通常の治療”群の一般医は、別個の2つの方式の治療を提供した。

ガイドラインに基づく治療群の医師は1時間かけて1回目の診察を行い、患者は、経過観察のために30分間の診察を平均3回受けた。これらの診察では、説得力のある説明と自信に満ちた保証を行い、患者を力づけることに重点がおかれた。

通常の治療群の医師は、患者の診察を1回だけ20分間かけて行い、通常、再診察は行わなかった。これらの面談の内容はあまり明確ではなかった。

画像検査実施率の差

2群の医師による画像検査の実施率にはかなりの差がみられた。通常の治療群の患者の30%がX線または他の画像スキャンを受けていたのに対して、エビデンスに基づく治療群ではそのような患者は7%しかいなかった。

エビデンスに基づく治療群の医師は、患者が自分で治そうとすることを求めた。早期の活動再開、運動および自宅でのリハビリテーションが推奨された。ストレッチや運動のやり方を患者に説明した。彼らは、シンプルな徒手治療を提供し、一部の患者には疼痛緩和のための局所注射を行った。

通常の治療を提供した一般医は、臥床安静、受動的治療様式および理学療法を勧める頻度が高かった。たとえば、ガイドラインに基づく治療群の医師が2%の患者に臥床安静を推奨したのに対し、通常の治療群の医師は40%の患者に推奨していた。

疼痛コントロールにおける差

疼痛コントロールのパターンにも違いがみられた。ガイドライン群の医師は、一般的にアセトアミノフェン/パラセタモールを推奨した。Bogduk博士によると、“彼らは、単純な鎮痛薬を使用し、オピオイドは使わず、NSAIDs[非ステロイド性消炎鎮痛薬]はごくわずかしか使用しなかった。これで十分であった。ほとんどの患者は薬を使用するのを好まなかった”。

通常の治療群の医師もアセトアミノフェンを推奨したが、NSAIDs(39%の患者)およびオピオイド
(25%の患者)を多用した。

通常の治療群の被験者は、処方箋を必要としない薬剤、塗布薬および治療様式等の、処方箋を必要としない治療の使用頻度が高かった。彼らは、マッサージおよび他の相補的治療を受けていた。

目覚ましい回復

両群の患者は目覚ましい回復を示した。しかし、エビデンスに基づく治療群が、ほとんどの結果評価尺度においてわずかにすぐれていた。

著者らによると、エビデンスに基づく治療群の患者の67%および通常の治療群の患者の49%は、3ヵ月後に完全に回復していた。(編集者注:完全な回復とは、疼痛なしをO、最大の疼痛を100とする1OO点満点のVASで10点未満と定義された)。

“6ヵ月後にはこれらの数値は、各々70%および64%となり、12ヵ月後には各々71%および56%であった”とMcGuirk博士らは報告している。

再発率は、北米およびヨーロッパの最近の研究で報告された値よりも著しく低かった。“エビデンスに基づく治療群の6ヵ月後および12ヵ月後の再発率はいずれも16%であった。通常の治療群では7%および27%であった。

エビデンスに基づく治療群は、治療を継続する必要性に関して非常にすぐれていた。エビデンスに基づく治療群の被験者の23%が、12ヵ月の経過観察時点で治療の継続を必要としていたのに対して、通常の治療群では37%であった。

職場復帰率は両群とも高かった。通常の治療群の患者の35%が、病気のために欠勤したことがあり、欠勤日数の中央値は5日間であった。エビデンスに基づく治療群の患者の33%が、病気のために欠勤したことがあり、欠勤日数の中央値は3日間であった。

医療保険制度は、本研究でみられた費用の差によって元気づけられるだろう。前述のように、通常の治療群は要した費用が71%高かった(472豪ドル対276豪ドル)。ガイドラインに基づく治療でかかった費用は、診療時間に関しては高かったが、処方箋による理学療法、薬物療法、処方箋を必要としない治療および画像検査に関しては安かった。おそらく、治療を継続する必要性に比例して、長期間診療していた分だけ費用がかかったのであろう。

最後に、患者の満足度は、エビデンスに基づく治療のほうが大きくまさっていた。エビデンスに基づく治療群の患者の82%が、自分の受けた治療を極めて有用だと評価したのに対して、通常の治療群ではそのように評価した患者は43%であった。

注意すべき点は

これらの結果の正確さを疑う理由があるだろうか。あらゆる研究と同様、研究方法に関する問題が研究結果に影響した可能性がある。これは、無作為研究というよりは観察研究であった。2群の患者は同様のようにみえたが、それらがどこか根本的に異なっていた可能性は否定できない。

研究方法にはいくつかの変わった点があった。この研究のスポンサーであったオーストラリア政府が研究の開始日と終了日を定めたため、必ずしもすべての患者が12ヵ月問の経過観察を完了したわけではなかった。それでも、このことが総合的な結果に影響しないことが、サブグループ
解析から示唆された。

おそらく本研究に関するより重要な注意点は、これがエビデンスに基づくガイドラインの評価のための“最良のシナリオ”であったということだろう。そこに参加したのは、ガイドラインを厳守することに同意した、熱狂的な十分訓練された医師であった。エビデンスに基づく医療にこれほど傾倒していない他の医師の、場合には、同じ結果に到達できない可能性がある。

しかし、そうした注意はどんな治療方法の研究においても必要である。これらの考えられる疑問は別にして、最新研究はガイドラインに基づく腰痛治療を強力に支持する。エビデンスに基づく腰痛治療について、厳密な科学的研究を行ったオーストラリアの研究者に賛辞を贈りたい。

参考文献:

Bogduk N, Evidence-based clinical guidelines for the management of acute low back pain (draft), available at the website of the National Health and Medical Research Council, www.health.gov.au/nhmrc/advice/pdfcover/paincov.htm.

Croft PR et al., Outcome of low back pain in general practice: A prospective study, BMJ, 1998; 316(7141):1356-9. 

Indahl A et al., Good prognosis for low back pain when left untampered. A randomized controlled trial, Spine, 1 995 ; 20(4):473-7. 

Indahl A et al., Five year followup study of a controlled clinical trial using light mobilization and an informative approach to low back pain, Spine, 1998; 23(23): 2625-30. 

McGuilfk B et al., Safety, efficacy, and cost-effectiveness of evidence-based guidelines for the management of acute low back pain in primary care, Spine, 200 1 ; 26(23):2615-22. 

Von Korff M and Saunders K, The course of back pain in primary care, Spine, 1996; 2 1 (24):2833-7. 


The BackLetter 17(29) : 13, 19-21,2002 


(加茂)

“治療後に、急性腰痛は改善し、 その状態が維持された。3ヵ月後の経 過観察で完全に回復していた患者は、 通常の治療群では49%であったのに 比較して、ガイドラインに基づく治 療群では67%であった”と博士は述 べた。この利点は、6ヵ月後および12 ヵ月後にも持続していた。

なんとまー気の長い下手な治療をしているものだ!急性腰痛症の治療は1〜数日をめどにしている。できればその場で!

私のような町医者は競合が厳しく、上記のような成績では患者さんが逃げてしまう。

http://junk2004.exblog.jp/2829731/

加茂整形外科医院