頸椎手術のパターンに大きな変化ー厳密な科学的エビデンスがないまま

Major Shift in the Pattern of Neck Surgery-in the Absence of Rigorous Scientific Evidence


要点:

  • 1990年から1999年までに固定術を併用した椎間板切除術の実施率は、男性では40%、女
    性では62%増加した。

  • 1999年までに、米国における変性性頸椎椎間板疾患の手術の10例中9例では、固定術が
    行われるようになった。

  • これらの診療の変化を支持する強力なエビデンスがあるようには思われない。

  • 頸椎手術率には、今のところは説明のつかない相当の地域差がみられる。

頚椎分野全体にエビデンスの問題あり

米国における頸椎手術のパターンに説明できない劇的な変化が起きている。

変性性椎間板疾患のための総合的な頸椎手術率が、1990年から1999年まで安定した状態を維持した一方で、頸椎固定術に関連する手術の割合は急上昇した。このような診療の変化は、固定術のルーチンな使用が患者に明らかな利点を提供することを実証する、厳密な科学的研究が続々と発表されたことによるものではないと思われる。

神経外科医のPeter D.Angevine博士らによると、“固定術を併用する椎間板切除術の実施率は、1990年から1999年までに男性では40%、女性では62%上昇した”。固定術を併用しない椎間板切除術の実施率はこれに付随して低下した(Angevine et al.,2003を参照)。

全国調査によると、1999年までに、米国における変性性椎間板疾患のすべての頸椎椎間板切除術の90%で、固定術が行われるようになったという(Angevine et al.,2003を参照)。

新規研究は、全米における頸椎手術のパターンには相当な地域差がみられることも実証した。米国南部の患者が変性性椎間板疾患のために頸椎手術を受ける確率は、北部または西部の患者のほぼ2倍であった。このことは、同じ外科の専門分野の医師の間でさえ、手術の適応に関するコンセンサスがないことを示唆する。

エビデンスに基づいた教訓に背く

頸椎手術のパターンの著しい変化は、現代医学の重要な教訓に背いているように思われる。すなわち、診療の重要な変化は、専門家の経験ではなく厳密な科学的研究から生じるべきだという教訓である。

Richard A.Deyo博士はSpine誌の付随する論説で、頸椎椎間板疾患のための固定術を併用した椎間板切除術が、椎間板切除術単独よりも優れているという厳密な科学的エビデンスはないと指摘している。

“要約すると、我々には治療の傾向に関する明らかなエビデンスがあるが、なぜそうした変化が起きているのか、そのことが患者にとって有益かどうかはわからない”とDeyo博士は述べた(Deyo,2003を参照)。

スウェーデンの研究者Alf L.Nachemson博士は、エビデンスの欠如は新規研究が指摘しているよりも深刻だと示唆する。「頸椎固定術が椎間板切除術単独より優れていることを示した無作為対照比較研究がないばかりでなく、頸椎椎間板切除術が保存療法より優れていることを示した無作為研究もありません」と、Nachemson博士は述べている。

脊椎外科医を弁護するために言っておくが、これは頸椎分野全体のエビデンスの問題である。「証明されたーまたは「エビデンスに基づく」と言うことができる頸椎愁訴の治療はほとんどなかった。さらに良い証拠が得られるまで、この分野全体で信頼性の問題が残るだろう。

Deyo博士が指摘するように、“大きな研究課題が待ち受けている”。頸椎椎間板切除術および前方固定術を併用した椎間板切除術の両方を保存療法と比較する、そして椎間板切除術単独を椎間板切除術+固定術と比較する、無作為対照比較研究が必要である。Angevine博士らは、隣接する椎間レベルに対する頸椎前方固定術の影響を調べることができる、大規模プロスペクテイブ研究も必要だと考えている。博士らは、人工椎間板置換術のような、分節の可動性を保持する治療の有効性を評価できる研究が行われることを期待している。

500病院の研究

Angevine博士らは、全米および各地域の変性性頸椎椎間板疾患の手術率を評価するために、National Hospital Discharge Surveyが調査した500病院のデータを用いた。博士らは、1990年
から1999年までの手術率の変化を追跡した。

総合的に、変性性頸椎椎間板疾患のための頸椎手術率は10年間に有意に増加していないことがわかった。しかし手術のパターンは著しく変化した。

Angevine博士らによると、“年齢、性別、人種、地域、医療保険の種類および診断について調整した時、1999年に実施された椎間板切除術では、固定術が併用される確率が、1990年に実施された椎間板切除術の4.1倍高かった"。

大きな地域差

研究では、頸椎手術率に関して説明のつかない地域差が認められた。年齢を調整した変性性頸椎椎間板疾患の手術率は、米国南部では人口10万人当たり47.5人であり、中西部が29.7人、西部が25.1人でこれに続き、北東部が25.0人であった。

頸椎固定術の実施率にもはっきりした差がみられた。頸椎固定術の実施率は、南部では人口10万人当たり42.3人、中西部が27.2人、西部が21.9人、および北東部が19.1人であった。

懐疑的見解

本研究では頸椎手術率が正確に算出されなかった可能性がある。Minnesota州Maple GroveにあるCorbinand Companyの外科技術コンサルタントTemy Corbin氏は、本研究はNational Hospital Discharge Surveyが調査した病院で実施された手術だけに基づくものだと指摘する。

しかしここ10年で、独立した診療所で行われる脊椎手術の割合が増大しており、この分は本研究には反映されていない。

かなりの割合の頸椎手術が病院以外で行われるようになっているとすると、総合的な手術率はもっと高いと思われるし、固定術を併用した頸椎椎間板切除術の相対的割合はもっと低いであろう。

単純な椎間板切除術、特に最小侵襲的な手術は、脊椎固定術よりも独立した診療所で実施される確率が高いだろう。Corbin氏は、新規研究の結論を記憶に焼きつける前に、頸椎手術率に関するより包括的なデータを知りたいと言う。

手術センターおよび診療所を含めた、より包括的な標本抽出を行うことによって、手術率の推定値が幾分か変化するかもしれない。しかし、本研究の総合的な結論が変わる可能一性は低いだろう。

科学的エビデンスはどこにあるのか

何が外科診療の変化を後押ししているのかは明らかでない。単純な頸椎椎間板切除術の有効性を糾弾する研究によって促進されたのでないことは確かである。Angevine博士らは複数の研究で、固定術を併用しない椎間板切除術で好ましい短期アウトカムが認められたと指摘する。椎間板切除術を椎間板切除術+固定術と比較する無作為研究が必要とされているが、まだ実施されていないと博士らは指摘する。

診療の変化を後押ししているものは何か

外科医が、コンセンサスと経験に基づいて治療方針を変えた可能性がある。医師らは、インストルメントを使用した、もしくはインストルメントを使用しない固定術によって、変性性頸椎セグメントを安定化し、患者の健康状態を改善できると信じているのかもしれない。

Deyo博士は、固定術の追加に関連する高い費用償還率が一因になった可能性があると示唆した。“もう一つ関係しているのは、厳密に評価できるよりも急速に増加しているようにみえる、新規のインプラントの積極的販促活動かもしれない”と博士は述べている。

1990年代には、整形外科医および神経外科医の限られた世界の中で、市場シェアを競い合う新規の外科インストルメントが次々と発売された。“これらの固定術のうちインプラントに関連するものの割合はどのくらいなのか、およびインプラントの使用によって臨床アウトカムが改善するかどうかがわかれば役に立つだろう”とDeyo博士は付け加えた。

地域差の原因は何か

手術率における地域差の原因も同じくはっきりしない。Angevine博士らによると、この差は、手術の不適切な使用、診断および治療の不確実性、および医師の“診療”スタイルを反映した可能性があった。マネージドケア組織およびさまざまな第三者支払人の影響も関与した可能性があっ
た。

一見したところ、神経外科医および整形外科医の分布によって差を説明できるようには思われない。1999年に、米国の国勢調査における北東部地域では、整形外科医と神経外科医の分布密度が両方とも最も高かったが、頸椎椎間板疾患のための入院率は最も低く、頸椎手術および頸椎固定術の率も最も低かった。

変性性椎間板障害のための頸椎手術のパターンに、国による実質的な差があるかどうかがわかれば興味深いだろう。Corbin氏は、ヨーロッパの外科医は米国の外科医よりも椎間板切除術を単独で実施することが多く、頸椎固定術を実施することが少ないと言う。どちらの診療様式が最終的に無作為研究およびプロスペクテイブコホート研究で最大の支持を得られるかは、今なお分かっていない。

自家インプラントVS同種異系インプラント

新規研究にはもう1つ注目に値する知見がある。近年、脊椎外科医は、自己由来骨インプラント(患者の腸骨稜から採取した骨)の使用から、同種異系インプラント(遺体から提供された骨を加工)の使用へと移行していることが示唆されてきた。

それにもかかわらず、Angevine博士らによる研究では、1990年代に自己由来骨インプラントの使用が増加したことが明らかになった。“1990年には、固定術を行う頸椎椎間板切除術の27.5%には自家インプラントの採取が含まれていた。1999年までにこの割合は38%に増加した”。

この傾向が、遺体から提供された骨の安全性に関する懸念を反映しているかどうかは明らかでない。しかし、同種異系インプラントは多くの人が考えていたほど、頸椎分野において主要な地位を占めているようには思われない。

要点:
  • 1990年から1999年までに固定術を併用した椎間板切除術の実施率は、男性では40%、女性では62%増加した。
  • 1999年までに、米国における変性性頸椎椎間板疾患の手術の10例中9例では、固定術が行われるようになった。
  • これらの診療の変化を支持する強力なエビデンスがあるようには思われない。
  • 頸椎手術率には、今のところは説明のつかない相当の地域差がみられる。

参考文献:

Angevine PD et al., National and regional rates and variation of cervical discectomy with and without anterior fusion, 1990-1999, Spine, 2003; 28(9): 931-40.

Deyo RA, Point of view, Spine, 2003; 28(9):940. 

The BackLetter 18(6): 61, 68-69, 2003. 

加茂整形外科医院