よい姿勢の定義は容易ではない

Good Posture Defies Easy Definition


よい姿勢は文句なしにすばらしいものとされている。

ほとんどの脊椎専門医は、よい姿勢は脊椎の健康にとって重要あるいは不可欠な要素だと主張するだろう。しかし、“よい姿勢”の実体に関する科学的見解は一致しておらず、姿勢と腰痛有病率の間に単純な相関関係があるという疫学的根拠は十分ではない。

脊椎治療に携わる多くの医師は、痛みのある患者にも痛みのない患者にも、姿勢に関する忠告をすることをはばからないと言われてきた。多くの専門学会のホームページで、“よい姿勢”を保つことによって腰痛発生リスクが低下すると、この予防方針を支持する明らかな根拠がないに
もかかわらず、アドバイスしているほどである。

一部の専門家は、よい姿勢とは脊椎の自然な“S字”カーブを保つことだと示唆している。一方、腰椎をいわゆる“ニュートラルゾーン”に入れる立位および座位姿勢、すなわち関節負荷と組織にかかるストレスが最も小さい姿勢を保つことを推奨する専門家もいる。恐らく、最もよく知られている方針は、座位および立位時に中等度の前彎姿勢を保ち、わずかな屈曲すら避けることを推奨す
ることであろう。

同じく中等度の脊柱前彎を忠実に守ることは、物を持ち上げたり運んだりする動作にまで及んでいる。この説を明らかに支持する科学的研究はないが、腰痛患者にもそうではない人々にも一様に最もよく知られている勧告は、物を持ち上げる時に腰椎の前彎を保つことだという症例報告的な証拠がある。最近の英国のレビューおよびコンセンサスプロセスでは、物を持ち上げたり運んだりする仕事に従事している労働者は、脊椎が少し屈曲した姿勢を保つべきだと結論づけた(Graveling et al.,2003を参照)。

さまざまな姿勢を支持する根拠

実際には、現代の脊椎研究はさまざまな姿勢の重要性を支持している。中等度の前彎姿勢を支持する意見が多いが、中等度の屈曲にも利点がある。

最近出版された本の中で、Michael Adams博士、Nikolai Bogduk博士、Kim Burton博士およびPatricia Dolan博士は、座位および立位における適度の屈曲姿勢の生体力学的利点を列記している(Adams et al.,2002を参照)。

著者らは、中等度の屈曲の利点として次のものを挙げている:(1)椎間板におけるストレスの均等な分布;(2)椎間板の傷つきやすい領域への栄養供給の増大;(3)椎間関節への負荷の減少;(4)椎間孔および脊柱管の体積の増大;および(5)腰仙部筋膜が腰椎の屈曲力に耐える能力の増大。

これらの利点は魅力的に聞こえるだろうか。読者の皆さんは前屈みになる前に、適度な前彎姿勢の利点を検討したいと思うだろう。Adams博士らによると、それらには(1)椎間板の髄核における除圧;(2)線維輸前部における圧縮力の低下;(3)椎骨の圧縮強度に対する椎問関節の寄与の増大;(4)歩行および他の運動中の衝撃吸収の改善;および(5)脊椎の伸張反射の保持の改善が含まれる。

Adams博士らは、立位、座位および持ち上げ作業の際にはわずかな屈曲、および歩行の際にはわずかな前彎と、いうように、さまざまな姿勢に優れた点があるかもしれないと示唆している。

人生は複雑である

現代の脊椎研究はさまさまな姿勢の重要性を支持

話が複雑になるのは、同じく前屈みとひねりの必要を姿勢についてのアドバイスに取り入れなければならないからである。軟部組織と骨に適度の負荷がかかるような姿勢を推奨する必要がある。何といっても、身体的ストレスが筋・骨格系全体の健康にとって重要なのである。

ヒトの脊椎は運動、活動および変化をしながら成長するので、断続的に姿勢を変化させる必要もある。Adams博士らによると、実際には、特定の静的姿勢を長時間快適に維持することはできない。

要するに、ある特定のよい姿勢というものは存在しない。生活の中での多様な要求に対応するさまざまなよい姿勢を推奨するほうが、より現実的である。

しかし、最も健康によい姿勢の組み合わせを定義するのは、依然として難問である。ヒトヘの身体的要求は非常に複雑であり刻一刻と変化する。したがって、この複雑なストレスパターンに対応した単純なアドバイスをするのが難しいのは当然である。

参考文献:

Adams MA et al. The Biomechanics of Back Pain. Edinburgh: Churchill Livingstone; 2002: 174-5. 

Graveling RA et al., The principles of good manual handling: Achieving a consensus; Research Report 097; prepared by the Institute of Occupational Medicine for the Health and Safety Executive, Edinburgh; 2003 . 

The BackLetter 18(11) : 124 ,2003. 

加茂整形外科医院