腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン

 

腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン  

 

日本整形外科学会診療ガイドライン

腰椎椎間板ヘルニアガイドライン策定委員会

厚生労働省医療技術評価総合研究事業

「腰椎椎間板ヘルニアのガイドライン作成」班

南江堂

2005年6月1日第1版第1刷発行

2005年8月10日第1版第2刷発行

 


(加茂)

内容にはいろいろ疑問があります。麻痺、痛み、しびれ、神経学的などの言葉が検討されて使われているとは思えません。  

生理学的、治療効果、臨床経過、疫学的検討から、また海外のキャンペーンや文献からも痛みやしびれの本態はmyofascial pain syndrome だと思っています。つまり、筋筋膜性疼痛です。

普遍的な痛みの理論は末梢の侵害受容器で生じた痛みの信号が中枢に伝わって認知するということです。

もし、神経繊維の途中で痛みの信号が発生するというのなら、それが物理的圧迫にせよ、炎症にせよ、極めてまれな「異所性発火」  という理論を持ち出さなくてはいけないのです。

その痛みが特殊な理論の痛み(異所性発火)であるというのなら、まず最初に普遍的な痛み(神経の末梢で生じている痛み)ということを除外しなければならない。つまり、ポリモーダル受容器は作動していないという前提になる。このことを痛みの生理学の専門家はどうみるのだろうか?

以後、私の発言は赤字でかきます。

前文

表1:腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会提唱の診断基準

  1. 腰・下肢痛を有する(主に片側,ないしは片側優位)

  2. 安静時にも症状を有する

  3. SLRテストは70°以下陽性(ただし高齢者では絶対条件ではない)

  4. MRlなど画像所見で椎間板の突出がみられ,脊柱管狭窄所見を合併していない

  5. 症状と画像所見とが一致する

症状とは腰痛や下肢痛のことなのか?麻痺のことなのか不明。痛みやしびれは自覚症状で、麻痺は他覚的所見です。

症状とは痛みやしびれとするならば、生理学的にどう解釈すればいいのか書いてほしい。生理学では痛みは、@侵害受容性疼痛 A神経因性疼痛 B心因性疼痛 と分類されているが、どれにあたるのか?

また、痛みの定義はAn unpleasant sensory and emotional experience associated with actual or potential tissue damage, or described in terms of such damage.であるが、客観的に他人が判断できるとするのはなぜか?

症状と画像所見が一致しない痛みやしびれがあったときその原因は何か?一致と一致しないに痛みのメカニズムで差があるか?

SLRを神経学的検査と位置づけているが、その生理学的メカニズムはいかに? 

表3:推奨度

Grade 内容 内容補足
A

行うよう強く推奨する
強い根拠に基づいている

質の高いエビデンスが複数ある
B 行うよう推奨する
中等度の根拠に基づいている
質の高いエビデンスが1つ,または中程度の質のエビデンスが複数ある
C 行うことを考慮してもよい
弱い根拠に基づいている
中程度のエビデンスが少なくとも1つある
D 推奨しない
否定する根拠がある
肯定できる論文がないか、否定できる中程度のエビデンスが少なくとも1つある
I 委員会の審査基準を満たすエビデンスがない
あるいは複数のエビデンスがあるが結論が一様ではない
 

おわりに

腰椎椎間板ヘルニアが頻度の高い疾病であることを鑑みれば、今後の日本に適合する診療ガイドラインを新たに作成するためには、現在の診療ガイドラインの厳正な有効性評価を行い、また倫理規定を盛り込んだ臨床研究を行う必要がある。

またその結果に基づいて数年ごとにガイドラインを改訂していく必要があると考えられる。このような科学的根拠に基づいて作成された診療ガイドラインを作成することは、患者の利益、医学発展、医療経済の観点から考えて日本整形外科学会の責務であると考えられる。

第1章 疫学・自然経過

1 有病率、性差、好発年齢、好発高位は

腰椎椎間板ヘルニアは一般的な疾患であるが、有病率について詳細は十分明らかにされていない。人口の約1%が罹患し、手術患者は人口10万人当たり年間46.3人という報告がある。男女比は約2〜3:1、好発年齢は20〜40歳代、        好発高位は L4/5、L5/S1間である。(GradeC

2 腰椎椎間板ヘルニアの発生に影響を及ぼす要因はなにか

従来から報告されているように、環境因子は椎間板ヘルニア発生の要因である。具体的には労働や喫煙は要因の1つとして挙げることができる。(GradeB

スポーツに関しては、今のところ明らかな関係は認められず、ヘルニアの発生を誘発するとも抑制するともいえない。(GradeC

近年遺伝的要因の関与が指摘されており、特に若年者のヘルニアではその傾向が強い。しかし、環境要因と遺伝的要因の双方がどの程度椎間板ヘルニアの発生に影響を及ぼしているか、その詳細は十分明らかにされているとはいえない。(GradeB

腰痛に対する人間工学的な介入(環境因子)は無意味であるという文献が主流であるが?

3 自然消退する椎間板ヘルニアの画像上の特徴は

椎間板ヘルニアは自然縮小するものがある。ヘルニアのサイズが大きいものや、遊離脱出したもの、MRIでリング状に造影されるものは高率に自然縮小する。逆にヘルニアのサイズが小さいものでは低率である。(GradeB

4 ヘルニアの脱出形態の違いにより縮小・消失傾向に差があるか

突出型に比べ脱出型ヘルニアのほうがより縮小・消失傾向が強い。(GradeC

5 椎間板ヘルニアはどのくらいの割合で自然消退するか

ヘルニア形態による差に関する研究はあるが、質の高いコホート研究は今のところ認められず、その割合を述べることはできない。(GradeI

6 椎間板ヘルニアはどのくらいの期間で自然縮小するのか

種々の報告はあるが、詳細を明らかにしたものはない。これを明らかにするためには、年齢や性別、ヘルニアの形態などを一致させて検討する必要があるが、現状では研究デザインが不十分であり、時期は特定しがたい。(GradeI

第2章 病態

1 高齢者における椎間板ヘルニアは青壮年と相違があるか

高齢者の椎間板ヘルニアでは青壮年者に比較して、SLRテストの陽性率が低い。ヘルニアのタイプは脱出型の頻度が多く,組織学的には青壮年と比較して、線維輪や椎体終板の断片を含むことが多い。(GradeC

2 若年性椎間板ヘルニアは青壮年と相違があるか

若年者の椎間板ヘルニアではSLRテストが強陽性を示す傾向があり、組織学的には椎間板ヘルニアに椎体骨端核の離解を伴った症例がしばしば認められる。また若年性椎間板ヘルニアの発症には椎間関節の非対称性が関与する可能性がある。(GradeC

3 下肢痛は椎間板ヘルニアに必発の症状であるか

腰痛のみで下肢痛を認めない椎間板ヘルニア症例が存在する。坐骨神経痛は膨隆型に比べて脱出型椎間板ヘルニアにより強く認められ、発現機序としては圧迫より炎症との関連が考えられている。(GradeC

神経根が炎症を起こすとなぜ痛みがでるのか?その痛みは生理学ではどのように説明されているのか?

4 ヘルニアの大きさは症状の程度に関連するか

椎間板ヘルニアが大きいものほど下肢痛が強くなり、神経症状は重症となる傾向はあるが、統計学的に有意とはいえない。(GradeC

神経症状とは知覚や運動の麻痺のことだと理解しているが、麻痺になったものをみたことがないが・・・。

大きな椎間板ヘルニアの場合はどうだろうか?MRIで認められる大きな椎間板ヘルニアはそれを見ただけで、しばしば臨床医や患者を不安に陥れ、手術室へと向かわせる。しかしながら、大きな椎間板ヘルニアの予後が不良であることを裏付ける科学的根拠はない。

病態についての文献はすべてGrade中程度のエビデンスが少なくとも1つある)である。あまり研究されていないということです。

第3章 診断

●腰椎椎間板ヘルニアの診断手順●

ー4つのステップー

First stepー問診

  • 下腿まで放散する下肢痛か?筋筋膜性疼痛のトリガーポイントの関連痛ではないのか?生理学的にはそう理解するのが正しいと思うが。  
  • 神経根の走行に一致する下肢痛か? なぜ神経の走行に一致しなければいけないのか?神経繊維そのものは痛覚の受容器ではない。生理学的根拠不明。
  • 痛みは、咳、くしゃみで悪化するか?
  • 発作性の疼痛か?

Second stepー理学的・神経学的検査

  • SLRテストは陽性か? 生理学的根拠はないと思うが? 
  • 神経学的所見は?

Third stepー画像、その他の検査

  • スクリーニング的検査法   単純X線写真;腫瘍,感染,骨折(外傷)の所見はないか?

                         ↓

  • first choice ; MRI
  • second choice ; CT
  • third choice ;脊髄造影(体内金属を有する患者.閉所恐怖症の患者)

                         ↓

  • オプション的検査法

    1)椎間板造影(造影後CT);外側型ヘルニアを疑う症例。ヘルニアの形態評価。
    2)神経根造影・ブロック;障害神経根の同定
    3)電気生理学的検査;障害神経根の同定、術後の神経機能評価

Fourth stepー適切な治療法の選択

  • first choice ; 保存療法
  • second choice ; 手術療法。ただし、膀胱・直腸障害のある患者や、進行する重度の神経症状を有する患者にはfirst choice

1 診断に必要な問診や病歴は

問診や病歴単独で、腰椎椎間板ヘルニアを確診することはむずかしい。しかし、的確な問診を行うことにより、ヘルニアを疑うことや、ヘルニア高位の推定を行うことは高い確率で可能である。腰椎椎間板ヘルニアの診断に際して、問診や病歴を採取することはきわめて重要である。(GradeB

2 診断における特徴的な所見(理学所見および神経学的所見)は何か

SLRテスト陽性は、ヘルニア診断に有用な所見である。神経学的所見としてヘルニアに特異的なものはない。(GradeB

SLR(ラセーグテスト)は神経学所見ではないと思っている。 正常な脊髄後根を牽引しても痛くない。神経根は正常なのです。だから、治ります。おそらく、筋筋膜痛の症状だろうと思います。五十肩で腕を挙げるのが困難なのと同じでしょう。

3 単純X線写真によるヘルニアの診断は可能か

単純X線写真で腰椎椎間板ヘルニアの描出は不可能である。椎間板高の減少とヘルニア椎間の関係はない。(GradeC

4 脊髄造影は、腰椎椎間板ヘルニアの診断に必要か

脊髄造影は、腰椎椎間板ヘルニアの診断には必ずしも必要な検査でない。MRlやCTを使用すれば、省略可能な場合がある。(GradeB

5 椎間板造影は、腰椎椎間板ヘルニアの診断に必要か

椎間板造影が、腰椎椎間板ヘルニアの診断に必要な検査であることを支持する科学的根拠はない。しかし、ヘルニアの形態、特にヘルニアが後縦靱帯を穿破しているか否かの判定、および外側型椎間板ヘルニアの診断には、椎間板造影後CT(CTD)が有用である。(GradeC

6 MRlの診断的価値はどの程度か

MRlは,腰椎椎間板ヘルニアの診断に最も優れた検査法である。しかし、MRI上、無症候性のヘルニアが存在するのでその解釈にはなお注意を要する。(GradeB

7 腰椎椎間板ヘルニアと診断された患者において、障害神経根の同定のために、神経根造影・ブロックは必要か

腰椎椎間板ヘルニアの診断において、神経根造影は必須の検査法ではない。しかし、神経根ブロックと併用した場合、障害神経根の同定には有用な検査法である。(GradeC

神経根ブロックをして痛みが取れたからといって神経根障害とは言えない。筋筋膜性疼痛でも取れる場合がある。

8 腰椎椎間板ヘルニアと診断された患者において、障害神経根の同定のために、電気生理学的検査は必要か?もし、必要であればいかなる症例か

電気生理学的検査はヘルニアの診断のためには,必ずしも必要な検査ではない。しかし、障害神経根の同定や、術後の神経機能の評価には有用な検査法である。(GradeB

障害神経根とはどういう状態をいうのか?電気生理学的検査とは筋電図や神経伝導速度などのことだと思われるが、神経障害の客観的データと思うが、それが必ずしも必要な検査ではないとは?もっともヘルニアによって神経障害は起きていないのであるからか?

第4章 治療

今後の課題

今回の査読によって以下の間題点が浮き彫りにされた。すなわち、腰椎椎間板ヘルニアを文献上で検討する際の最大の問題点は

  1. この疾患の定義が確定されていない
  2. 和文ではエビデンスレベルの低い論文形態のものが多い
  3. 単一治療法の検討論文が少ない

であった。


1 腰椎椎間板ヘルニアに対する硬膜外副腎皮質ステロイド薬注入療法は有効か

坐骨神経痛を有する腰椎椎間板ヘルニアに対する硬膜外副腎皮質ステロイド薬の注入療法は保存療法の1つの選択肢として、治療開始後早期での疼痛軽減に効果がある。(Grade

 硬膜外ステロイド注射が有効であるとする決定的な科学的証拠はほとんどみつからなかった。


 硬膜外ステロイド注射は疑念に取り囲まれている。

 保存療法に反応しない神経根症状のある患者にかぎり、手術を避ける手段としてステロイド剤による硬膜外ブロックを一時的に用いてもかまわないとしています。

 ステロイド併用の有効性に関する比較臨床試験では、1週間、1ヵ月、3ヵ月の時点ですべての評価項目で治療効果に差がない。

このような文献もあるのだが、なにを根拠にGradeAなのか?

2 腰椎椎間板ヘルニアの治療にSpinal manipulationは有効か

spinal manipulationが有効か否かを判定するための腰椎椎間板ヘルニアに焦点をあてた十分な科学的根拠を示した研究はない。(GradeI

3 腰椎椎間板ヘルニアの治療において非副腎皮質ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は有効か

腰痛に対する非副腎皮質ステロイド性抗炎症薬(NSAlDs)の有効性は報告されている。また、腰椎椎間板ヘルニア症例を含む腰痛症例に対するNSAlDsと筋緊張弛緩薬の併用による有効性は示されているが、腰椎椎間板ヘルニアに対するNSAlDs単独による治療効果について十分に示した研究はない。(GradeI

4 腰椎椎間板ヘルニアに対する牽引療法は有効か

腰痛に対する牽引療法が有効であるとする報告はあるが、腰椎椎間板ヘルニア症例に限定すると、牽引療法単独による治療効果について十分に示した研究はない。画像と臨床所見から腰椎椎間板ヘルニアと明らかに診断された症例に対して,腰椎牽引療法のみを行うprospective studyがその有効性検討のうえで必要である。(GradeI

5 腰椎椎間板ヘルニア手術における顕微鏡視下椎間板ヘルニア摘出術と通常のヘルニア摘出術の間に術後結果に関して有意差が存在するか

術後における画像,臨床上の結果に関しては両群間には有意差はない。(GradeB

顕微鏡視下椎間板ヘルニア摘出術は術野が明るく鮮明で、止血が容易であり、黄色靱帯温存型手技が可能なことなど肯定的な報告が多く、否定的な見解はみられない。(GradeC

6 腰椎椎間板ヘルニアに対する経皮的椎間板摘出術は顕微鏡視下椎間板ヘルニア摘出術よりも優れた術式か

経皮的椎間板摘出術の有効例が多くの報告から70%前後であること、顕微鏡視下椎間板ヘルニア摘出術の適応例すべてに適応できないことを考慮すると、顕微鏡視下椎間板ヘルニア摘出術よりも総合的に優れた術式とはいえない。(GradeB

7 腰椎椎間板ヘルニアに対するレーザー椎間板蒸散法は経皮的椎間板摘出術に比べ安全で優れた術式か

レーザー椎間板蒸散法による報告では,経皮的椎間板摘出術と同程度の臨床結果が示されているが、隣接組織への副作用、合併症が多く、また健康保険適用外である点から、経皮的椎間板摘出術より優れた術式とはいえない。(GradeI

8 腰椎椎間板ヘルニアにおける馬尾障害では緊急手術が必要か

腰椎椎間板ヘルニアに伴う馬尾症候群では、できるだけ早期に手術を行うことが必要である。(Grade

9 若年者腰椎椎間板ヘルニアに対しては手術適応はあるか

椎間板切除術の長期成績は良好であり、保存療法に抵抗する症例ではヘルニア摘出術の適応としてよい。(GradeB

10 腰椎椎間板ヘルニア後方摘出術における遊離脂肪移植術は瘢痕形成予防や術後臨床症状に関係するか

遊離脂肪移植術による術後臨床症状に対する影響は認められない。(Grade

硬膜周囲の瘢痕形成抑制作用について一定の結論は得られていない。(GradeI

11 腰椎椎間板ヘルニア摘出術で術中の硬膜外への副腎皮質ステロイド薬投与は術後経過に影響を及ぼすか

手術終了直前の硬膜外腔への副腎皮質ステロイド薬注入は術後の機能回復や術後数ヶ月時の疼痛など臨床結果に対する影響は明らかでない。(GradeB

術直後の疼痛抑制にはある程度の効果が期待できる。(GradeC

12 腰椎椎間板ヘルニア摘出術における閉創前の硬膜外へのモルヒネの投与は有効か

閉創前の硬膜外腔へのモルヒネ投与は、術後鎮痛に効果がある。(GradeB

第5章 予後

はじめに

腰椎椎間板ヘルニア患者の治療法を選択する際には,障害の程度だけでなく個々の患者のライフスタイルを考慮して決定していく必要がある。したがって、各種の治療法の短期の成績だけでなく長期の予後についても熟知し、それらの情報を患者に提供し、十分なインフォームドコンセントを得たうえで治療を行うことが肝要である。

一般に、腰椎椎間板ヘルニアの手術適応は急性の膀胱直腸障害を呈した場合を除き、進行する神経脱落症状が認められる場合Lasegue徴侯などの神経緊張徴侯が強陽性で重篤な神経脱落症状を伴う場合、手術以外の保存療法が無効であった場合であるとされている。一方で,発症当初に著しい疼痛が認められても、手術以外の保存療法だけで支障なく生活できるようになることも多いので、初期治療の基本は保存療法ということになる。しかし、保存療法で疼痛はいつ頃よくなるか、あるいはいつまで保存療法を行うべきであるか、神経脱落がある場合に保存療法だけでどのような経過をたどるのか、復職はいつ頃可能かなどの情報が必要である。また、手術を選択した場合では、どのような術式を選択し、その手術でどのような経過がもたらされ、復職はいつ頃から可能で、再発率はどの程度であるかに関する情報も必要である。

神経脱落症状とは神経損傷(変性)による麻痺のことですが、ヘルニアで下肢が麻痺してしまった人を見たり聞いたりしたことがありません。椎間板ヘルニアによる身体障害者を見たことがないのです。

本章のまとめ

ヘルニア手術例の対人口比率に関するデータはあるものの、ヘルニア患者の総数のデータがないため、ヘルニア患者のなかで手術に至る割合は正確には把握できていない。しかし、強い症状を呈するか病状が長期に及んだと考えられる腰椎椎間板ヘルニア患者群において、手術に至るのは10〜30%程度と推定される。

保存療法と手術療法を比較すると、臨床症状に関しては手術療法のほうが長期
的にも良好な成績を示すものの、
復職に関しては保存療法と手術療法間には差が
認められない。

ほんとうかな?

手術術式による治療成績の差は通常のヘルニア摘出術と顕微鏡下ヘルニア摘出術は同等で、chemonucleolysis(わが国未承認)はこれら手術療法よりも劣り、経皮髄核摘出術はさらに劣っている。

ヘルニアが痛みの原因ならば摘出方法によって差がでる理由は?

手術療法を選択した場合、男性、画像の明瞭な異常所見があること、罹病期間
が短いこと、心理状態が正常であること、術前の休職期間が短かいこと、労災関
連ではないことなどが疼痛や日常生活動作に関して成績を向上させる要因とな
る。しかし、再就労では関連する要因が異なる。

皆さん、心理状態は正常ですよ。

手術後の後療法に関しては、術後早期に活動性を低下させる必要性はないものの、手術直後から積極的なリハビリテーションプログラムを行う必要性も認められない。しかし、術後1ヵ月経過した頃から開始されるリハビリテーションプログラムは、数ヵ月間は機能状態を改善させ、再就労までの期間を短縮し、職場での医療アドバイザーによる介入も就職率の向上に有効である。

通常のヘルニア摘出術後の再手術率は経過観察期間が長くなればなるほど高く
なるが、10年を超えると一定の傾向を認めない。同一椎間での再手術例を再発ヘ
ルニアとすると、術後5年間程度は再発率が経年的に増加する傾向があるものの、
5年以降は一定の傾向を認めない。

経皮的髄核摘出術やchemonucleolysis(わが国未承認)の再手術率や再発率に
はばらつきが大きいが、通常の手術に比べ高頻度で、特に再手術率が高い。

今後の課題

腰椎椎間板ヘルニアの診断基準が明確に定義されていないので、腰椎椎間板ヘルニア患者の総数の把握が十分にできず、対人口比の発症率やヘルニア患者のなかで手術に至った比率などに関しては正確なデータが今のところない。

保存療法と手術療法の比較に関しては重要な項目ではあるものの、論文数が少
ないだけでなくエビデンスレベルの高い研究がなされておらず、今後の大きな課
題として残っている。


1 腰椎椎間板ヘルニア患者のなかでどの程度の患者が手術に至るか

強い症状を呈するか病状が長期に及ぷ腰椎椎間板ヘルニア患者群において、手術に至るのは10〜30%程度である。(GradeC

強い症状とは痛みのことなのか?長期に及ぶとは神経脱落症状のことではないと思うが・・・。神経脱落症状を長期に放置すれば、不可逆となってしまう。慢性疼痛を手術によって改善できるとは、疑問。

2 保存療法と手術療法による予後の差はあるか

保存療法と手術療法を比較すると、臨床症状に関しては手術療法のほうが長期的にも良好な成績を示す。(GradeB

復職率に関しては保存療法と手術療法間には差が認められない。(GradeB


 2つの無作為研究において、保存療法と椎間板切除術による、椎間板ヘルニアと坐骨神経痛の患者のアウトカムは同様であった。フィンランドの小規模RCT(被験者56例)において、手術群は、疼痛および機能に関して早期には利点がみられたが、2年後の経過観察時には統計学的に有意な優越性は認められなかった。88例の患者を対象にした英国のRCTでも同様のパターンが認められた。顕微鏡視下椎間板切除術群は、腰痛、下肢痛および活動障害に関して早期に統計学的に有意な利点を示した。しかし、24ヵ月目までにもはや群間に統計学的有意差は認められなくなった。これらの研究の症例数が、重要な投与群間の差を検出するのに十分であったかどうかはまだわからない。

 ほとんどの研究によると、保存療法を受けた患者は、疼痛および機能に関して、手術を受けた患者にある時点で追いつく。それらの線が本研究のどの時点で合流するか、2年後か、4年後、6年後またはそれ以上後か、興味深いと思われる。

 このような手術の優位性は4年間にわたり持続した。それ以降では手術群と保存療法群の成績は同等であった。

3 手術術式間に予後の差はあるか

術式による治療成績は通常のヘルニア摘出術と顕微鏡下ヘルニア摘出術は同等である。(Grade

chemonucleolysis(わが国未承認)はこれら手術療法よりも劣り、さらに経皮的髄核摘出術はchemonucleolysisよりも劣っている。(Grade

4 術前の病状のなかで予後を予測できる要因は何か

男性、画像の明瞭な異常所見、罹病期間の短さ、心理状態が正常であること、術前の休職期間が短いこと、労災関連ではないことなどが手術成績を向上させる要因となる。(GradeB

疼痛や日常生活動作と再就労では関連する要因が異なる。(GradeB

これらは痛みが生物・心理・社会的な要因に強く影響を受けることを示唆している。痛みの原因はヘルニアなのか、生物・心理・社会的な要因なのか?もし手術をして結果がよくなかったら、これらの要因を指摘されるのか?手術の前に指摘するのか?

5 手術後の後療法の内容により予後が変わるか

腰椎椎間板ヘルニアの初回手術後に活動性を低下させる必要性はないものの、手術直後からの積極的なリハビリテーションプログラムの必要性も認められない。(Grade

術後1ヵ月経週した頃から開始されるリ八ビリテーションプログラムは、数ヵ月間は機能状態を改善させ、再就労を早くするという強い証拠があるが、1年経過時においては全般改善度において軽い運動と比較し差は認められない。(Grade

職場での医療アドバイザーによる介入は就職率の向上に有効である。(Grade

6 再手術率と再発率はどの程度か

通常のヘルニア摘出術後の再手術率は経過観察期間が長くなればなるほど高くなるが、10年を超えると一定の傾向を認めない。(GradeC

同一椎間での再手術例を再発ヘルニアとすると、通常のヘルニア摘出術では術後5年間程度は再発率が経年的に増加する傾向があるものの、5年以降は一定の傾向を認めない。(GradeC

顕微鏡下ヘルニア摘出術では短期的には再手術率、再発率共に経年的に増加する傾向が認められる。(GradeC

経皮的髄核摘出術やchemonucleolysls(わが国未承認)の再手術率や再発率にはばらつきが大きいが、通常の手術に比べ高頻度で、特に再手術率が高い。(Grade

再手術の成績には一定の傾向を認めない。(GradeC

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