神経根注射

Nerve Root Injections


ステロイドの神経根浸潤は、椎間板ヘルニアに由来する坐骨神経痛の効果的な治療法だろうか?これらの神経根ブロック(transforaminal injection)は、神経根の炎症を静め、症状を軽減し、正常機能の回復を早めるだろうか?

選択的な神経根注射の方が、圧迫された神経根に、より限局的にコルチコステロイドが到達するので、坐骨神経痛患者に対して、標準的な硬膜外注射よりも選択的神経根注射を好む臨床医もいる。しかしながら、選択的神経根注射に関する科学的エビデンスは乏しい。

最近Finlandで行われた無作為研究では、神経根浸潤は坐骨神経痛の患者に大きな効果をもたらしたが、その持続期間は短かったとの結論が出ている。生理食塩水注射でも長期的な結果は同じであった。

「メチルプレニドニゾロンとブピバカインの併用で短期的な効果は得られると想われますが、その後、効果は薄れるようです」とOulu大学のJ. Karppinen博士らは述べている(Karppinen et al.,2000を参照)。Karppinen博士は、AustraliaのAdelaideで開催された国際腰椎研究学会の年次総会で最新研究について発表した。

患者160例を対象にした研究

Finlandの研究者は、坐骨神経痛が1〜6ヵ月間持続している患者160例について研究を行った。被験者を無作為に次の2つの投与のいずれかに割り付けた:(1)メチルプレニドニゾロン(80mg)と局所麻酔薬ブピバカインを併用した神経根ブロック(神経根浸潤);もしくは(2)生理食塩水を用いた同様の神経根ブロック(筆頭著者は、注射は「通常の方法」、通常X線透視下、で実施するものと特定した)。研究期間中に研究者が患者に推奨したその他の治療は、鎮痛薬と病気休暇だけであった。

研究者は、腰痛および下肢痛についてはMillionのビジュアルアナログスケール、障害度についてはOswestry腰部障害度問診票、QOLについてはNottingham健康プロフアイルを用いて経過を追跡した。評価は、治療直後、2週間、4週間、12週間および12ヵ月の時点で行った。患者、注射を行う放射線科医師、および患者の主治医は、どちらを投与するかに関して盲検下におかれた。

安定した回復

ステロイド群と生理食塩水群はいずれも、試験期間を通して安定した改善を示した。「両群とも、下肢痛、腰痛および障害度が軽減し、QOLが改善しました」と、研究者らは述べている。

早期の段階ではステロイド群に効果があるように思われた。2週間後の時点で、この群の患者は、対照群と比較して下肢痛が少なく、下肢伸展挙上テストの結果が良好であり、腰椎をより大きく屈曲させることができ、治療に対する満足度が高かった。4週間で、ステロイド群の総合的な治療コストは、患者1人あたり168ドル少なかった。

生理食塩水群で効果が認められたのは、1つの早期結果評価項目のみだった。「3ヵ月後の時点における腰痛は、生理食塩水群の方が有意に低かった」と、Karppinen博士らは報告している。

投与群間に長期的な差はなかった

両群間にはその他の有意差はなかった。長期経過観察における治療コストは同等であった。結局は手術を受けることになった患者の数は、両群でほぼ等しく、ステロイド/ブピバカイン群では18例、生理食塩水群では15例であった。

本研究は、臨床医に重大な疑念を1つ残している。Karppinen博士は、「この試験デザインでは、生理食塩水注射が純粋にプラセボ治療といえるのかを推論することはできません」という。生理食塩水が、特異的治療効果のないプラセボとしての役割を果たしているならば、ステロイドと局所麻酔薬による神経根浸潤は、少なくとも単回投与を行う実験プロトコール下では、坐骨神経痛に対する特に有効な治療法ではないと推測されるであろう。

ISSLSにおける本研究に関する討論の際に、Swedenの研究者Bjorn Rydevik博士は、生理食塩水には特別な治療効果があるかもしれないと推測した。「生理食塩水が、[神経根から]有害な物質を洗い流しているのかもしません」と、博士は述べた。

出席者の1人が、坐骨神経痛の治療法として神経根浸潤を推奨するかとKarppinen博士に尋ねた。Karppinen博士は、それは、臨床医がどのような種類の治療効果を求めているかによると答えた。彼は詳しいことは述べなかったが、来年この治療に関する詳細なデータを発表すると述べた。

繰り返し注射するとどうなるか?

短期間の症状軽減が、一部の患者に大きな影響を及ぼすことは考えられる。そして、単回投与で短期治療効果があるのならば、何度も注射を繰り返すことによって、さらに長期間の軽減が得られるのではないかと考えられる。

昨年(1999年)の北米脊椎学会の年次総会において、Daniel K. Riew博士らは、被験者55例を対象に、ステロイドと局所麻酔薬混合による選択的神経根注射と、局所麻酔薬単独による注射とを比較した無作為研究を発表した。ステロイド注射を受けた被験者は、手術を受ける率が有意
に低かった(Riew et al.,1999を参照)。

しかしながらその研究には、坐骨神経痛と脊柱管狭窄の両方を有する患者が含まれており、症状持続期間は様々であった。またRiew博士らによる研究で用いられた治療プロトコールは異なっており、患者は最高4回まで注射を受けてよいことになっていた。

坐骨神経痛を有する全ての患者が、選択的神経根注射によって効果を得ると予測することは、非現実的である。最終的には、基礎科学研究の助けにより、ステロイド投与の適応を同定して、これらの注射を行うべき適応が正確に特定されることが望まれる。

最近の基礎科学研究に基づくと、神経障害および症状を防ぐのに最も適した時期は、神経根圧迫の早期の段階だと主張することができるだろう。しかしながら、患者は、椎間板へルニアを発症後、数週間から数ヵ月間は受診しないことが多いので、これが臨床上のジレンマとなっている。

このような問題はさておき、今後の研究では、実質的な投与効果の可能性があるかどうかを見極めるため、坐骨神経痛の早期の段階でのコルチコステロイド注射の効果を検討できるようになることが望まれる。

参考文献:

Karppinen J et al., Treatment of sciatica-efficacy of nerve root infiltration. A randomized controlled trial, presented at the annual meeting of the International Society for the Study of the Lumbar Spine, Adelaide, Australia, 2000; as yet unpublished. 

Riew DK et al., Can nerve root injections obviate the need for operative treatment of lumbar radicular pain? A prospective, randomized, controlled, double-blinded study, presented at the annual meeting of the North American Spine Society, 1999; as yet unpublished. 


The Backletter 15(11): 121, 130 ,2000.

加茂整形外科医院