コストに厳しいマネージドケアの世界で、運動療法は腰痛の治療法として生き残れるのか?

Will Exercise Survive as a Treatment for Low Back Pain in the Cost-Conscious World of Managed Care ? 


腰痛に対する運動療法は、マネージドケア(HM0)の世界で生き残れるのだろうか?コストに厳しいヘルスケアシステムが、体系的な運動療法プログラムの有効性を示すはっきりした証拠がないのに、果して費用負担を続けるだろうか?腰痛に対する運動療法の科学的証拠の現状を考えるとそうではないだろう。

オランダの新しい総説によれば、科学論文を検証し、急性腰痛の治療法としては運動療法を推奨しないとの結論に達した。病欠中の労働者の亜急性腰痛に対しては、漸進的運動療法プログラムを支持する十分な証拠が得られ、慢性腰痛に対しては、集中的運動療法が有用であるという証拠がいくつかみつかった(論文未掲載)。筆頭著者のAri Faas医師は、Seattleでの腰痛のプライマリーケア研究に関する国際フォーラムで新規研究を発表した。

これらの結果は、マネージドケアシステムの会計係を喜ぱせる種類のものではない。とくに、運動療法の効果の予測や定量化が欠けているのである。

第三者支払人、およびマネージドケア側にとって重要な問題は、「400ドル分の運動療法で、400ドル分の疼痛緩和、機能の向上とヘルスケアシステムの利用が減少する、といった効果が得られるのだろうか」という点である。「そうかもしれない」という程度なら、大半のマネージドケアではこの費用を負担しないだろう。運動療法の支持者がその費用を今後もマネージドケアに支払ってもらうためには、疼痛緩和と機能向上の両方の観点から運動療法の成績を実証するようもっと務めなけれぱならない。

米国内のあちこちのヘルスケアシステムで、理学的リハビリテーションや訓練を骨筋肉障害の治療から「除外しよう」という動きが大きくなりつつある。多くの運動療法専門家の報告によれば、自費による治療総額は伸びているが、保険での治療総額は減少している。2段階のリハビリテーションから患者が選択できるようにすることが、ますます一般的になってきている。すなわち、マネージドケア組織が費用を負担する最小限度のプログラムを選択するか、もしくは自已負担によって包括的なプログラムを選択するかである。

Vert Mooney医師は、「医療機関による理学療法の大部分は、科学的標準に照らすと信頼性が十分ではありません」と言う。運動訓練は腰痛やその他の骨筋肉疾患の治療法として存続するだろうが、医療システムによる費用補償はなくなるだろうと、彼は推測している。多くの患者は最
終的にはヘルスクラブやトレーニング施設でこれらの費用を自已負担することになるだろうと考えているのである。

運動療法の科学的根拠が不十分なことを一覧化した最も新しい研究は、Faas医師らの研究である。彼らは、1990〜1995年に発表された腰痛の運動療法に関する全ての無作為試験を審査して分析を行った。

この研究は、以前オランダのKoes氏らが、1966〜1990年までの運動療法に関する無作為試験を分析した総説の続編というべきものである。Koes氏らは、運動療法を裏付ける証拠はきわめて質の低いもので、いかなる結論も認められないとした。運動療法に関する研究には、その手法の改善が是非とも必要であると、彼らは述べている(British Medical Journal,1991;302(6792):1572-1576.参照)。

Koes氏らの総説以降の試験の中から、Faas医師らは認定基準を満たす11の無作為試験を取り上げた。急性腰痛患者が対象であるものが4つ、亜急性腰痛であるものが1つ、慢性腰痛であるものが4つ含まれてあった。

Faas医師は「研究方法の質は改善しているように思われました」と述べた。3つの研究ではスコアが40未満であったが、スコアが50以上の試験が6つあった。

急性腰痛のための運動療法

Faas医師によると「これらの研究から考えますと、急性腰痛の患者には運動療法は薦められません」。しかしながら、「私は、McKenzieシステムに関しては、さらに検討を進めるべきだという意見に賛成です」とも指摘している。McKenzieプロトコールに関する2つの研究は、急性腰痛患者に有効であるという結果が得られていたが、両者ともに試験方法の質は低いものであった[編者注:現在、McKenzieプロトコールの大きな無作為試験がいくつか進行中である]。

急性腰痛患者に関する研究の中で試験方法の質が最も高いとされた2つの研究では、運動療法が有効であるという証拠は得られなかった。どちらの試験も特別に信頼できる運動療法様式を用いていなかったが、試験デザインは綴密であった。Faas医師自身のオランダでの473例に関する研究スコアは68であった。この研究は、家庭での屈曲運動は一般医による通常の治療を上回る利点がないということを示した(Spine1993;18(11):1388-1395.参照)。

New England Journal of Medicineに掲載されたMalmivaara氏らの有名な試験スコアは59であった。この186例を対象とした研究では、通常の活動を続けることが、臥床安静やいわゆる「back mobilizing」運動よりも、より効果的な腰痛治療法であると示した。ここで使用された運動は、後屈と横ずらし運動(side-gliding)の反復であった(New England Journal of Medicine,1995;332(6):351-355.を参照)。

オランダでの新規研究によれば、McKenzie療法に関する証拠は決定的なものでないことが明らかにされた。Stahkovic氏とJohnell氏は、McKenzie療法を受けた患者は、5年後の経過観察時点で疼痛の再発が有意に少なく、病気休暇が少ないことを認めた。しかしながら、Faas医師らはこの研究は試験方法に様々な欠点があると指摘し、スコアは41しか与えていない(Spine1995;20:
469-472.を参照)。

Delitto氏らの試験でも同様に、McKenzie式治療の効果が認められているが、スコアは30しか得られなかった(physical Therapy,1993;73(4):216-222.を参照)。また、Faas医師らはDonelson氏らの無作為試験を評価対象に入れておらず、この試験は運動療法そのものの有効性よりも、むしろ疼痛反応を検討したものだと考えたからである(Spine1991;16(65):S206-212;を参照)。

亜急性の疼痛のための運動療法

Faas医師らは、亜急性腰痛患者の運動療法に関して1つの注目すべき研究を見出した。「亜急性の腰痛患者、とくに病欠中の患者に対しては、運動療法による段階的な活動プログラムを試みる価値があります」とFaas医師は述べた。この提言は、8週間持続する腰痛のために病欠中のブルーカラーの労働者に対する段階的な活動プログラムを、医師による通常の治療と比較したLindstrom氏らの試験に基づいている。活動プログラムでは、有酸素運動(エアロビクス)と抵抗運動、オペラント条件づけ、脊椎学級(back school)、職場への介入から成り、これにより職場復帰が早まり、病気休暇の長期的減少がもたらされた(Physical Therapy,1992;72(4):279-290.を参照)。

この研究スコアは59であった。Faas医師は、「この試験は試験方法の質が高く、経過観察がよくなされていました」と語った。「しかしながら、病欠中の労働者だけを対象としているため、これらの結果を集団全体にあてはめるには慎重になるべきです。さらに、複合的な介入の中ではどの要素が最も重要なのかは依然不明です。段階的な活動プログラムの各要素について、さらに検討することが必要です」。

慢性障害のための運動療法

Faas医師らは、慢性腰痛患者に関する試験では、運動療法に関して矛盾する結果が得られていることに気づいた。「慢性疼痛に対する運動療法、とくに集中的な伸展運動の有効性に関してはいくらか証拠があります。集中的な運動療法の短期的な効果を支持する証拠がありましたが、長期的な効果に対してはなかったのです」。

2つの研究が、集中的運動療法の効果を報告している。スコア52のManniche氏らの研究では、短期的には集中的な動的な伸展運動が、より穏やかな運動療法プログラムよりも良い結果をもたらすことがわかった。しかし、効果が長期間持続したのは、運動プログラムを1年間少なくとも週に1度続けた患者に限られた(Pain,1991;47(1):53-63.を参照)。Hansen氏らの試験(スコア56)では、腰痛に対する集中的な運動療法の効果が認められたが、サブグループに限られているものであった(Spine1993;18(1):98-108.を参照)。Faas医師らは、今後、運動プログラムの長期コンプライアンスの意義にとくに注意を払って、慢性腰痛に対する各種の運動療法の研究を行うことを推薦している。

最近の米国の医療政策研究局のガイドラインでは、運動療法が急性腰痛の治療において何らかの価値があることを認めている。有酸素運動(エアロビクス)は患者の弱体化を防ぎ、高レベルの機能回復を助けることができ、体幹筋のコンディショニング運動も有用だろうと示した。しかし、運動療法に関する全ての知見および勧告を、「C」またはそれ以下と評価した。それは、運動療法を支持する研究結果に基づく証拠が限られていることを意味していた。

公正を期すために申し上げると、医学的治療の中で科学的裏付けのあるものは20%程度に過ぎない。脊椎治療における主な治療法の多くは、それを裏付ける無作為試験が1つもない。運動療法に関する証拠は決定的ではないかもしれないが、少なくとも、この分野の研究については精カ的になされている。運動療法の研究は質、量ともに改善しつつあり、おそらく今後数年で運動療法の処方箋はよりよいものになるだろう。

ところで、Mooney医師は一部の患者が運動療法の費用を自已負担しなければならないと思っている。ちょうど、現在、心血管系疾患の治療に有酸素運動(エアロビクス)を行う費用を患者が支払っているようにである。「ヘルスケアの大部分は、自前の費用負担、そして各人が自已の健康の責任を持つはずだという予測によって支えられているのです」とMooney医師は語った。

TheBackLetter,11(5):49,57.1996.

加茂整形外科医院