むちうち症についての研究が神経を逆なで:医学文献およびメディアにおける反応

Whiplash Study Strikes a Nerve: Some Reactions In the Medical Literature and Media 


弁護士が回復を遅らせる

Alberta大学の公衆衛生科学教授が行った研究によると、むちうち損傷の保険金請求者は、“不法行為等過失責任保険制度”の場合と比較して、“無過失損害賠償制度”の下では回復が2倍速く、保険金請求件数は28%少なかった。さらにこの調査で、不法行為等過失責任保険制度の下での回復についての最も重要な因子は、請求者が弁護士を雇っていたかどうかであり、弁護士を雇っていた者は雇っていなかった者よりも、症状の重症度に関わらず、保険金支払い日数が約250日長かったことが明らかになった。…この統計結果は、不法行為等過失責任保険による補償が交通事故の保険金請求者の症状回復の妨げとなり得ることを示している。なぜなら、請求者は痛みが本物であることを証明するために、対立する医学的意見、無効な治療、請求者の苦痛や障害を実証するための法的アドバイス、および法廷訴訟のストレスにさらされるからである。(University of Alberta Media Release,2000年4月19日、http//www.ualberta.ca/PUBLICAFFAIRS/newsreleases/2000/04.19.l.html )

この研究は生物学的に定義される障害の正当性に疑問を投げかける

Cassidy博士らは、交通事故損害補償の不法行為等過失責任保険制度が変われば、むちうち損傷のための保険金請求の件数やその支払い期間が著しく変わり得ると報告した。…政策立案者にとって、本研究は純粋に生物学的に定義される障害の概念の正当性に疑間を投げかけ、症状や障害を長引かせずに損傷関連の損害を補償するシステムによる試みを奨励するはずである。痛みや苦痛に対する補償を少数例に限定することは不公平であるように思われるかもしれないが、それにより、最も重症で明確なむちうち症状のある人々に財源を再配分することが可能になるであろう。(Richard Deyo. MD, Pain and Public Policy, New England journal of Medicine ,2000;342(16):1211-14)

法廷弁護士らは猛反発

法廷弁護士らは、“自動車事故の保険金請求者は、比較的速やかに請求の決着がつく無過失損害賠償制度の下では、痛みや障害が少ない”という、 New England journal of Medicineに掲載された研究結果に対して猛反発している。現在、彼らはその研究に対して可能な限り抵抗し、研究者の動機を問題にするために不満を抱いていた元従業員を結集させたり、すべては(州の自動車保険計画を運営している)Saskatchewan州政府の指しがねであると主張したりしている。
(Overlawyered.com[chronicling the high cost of our legal system]参照、http//www.overlawyered.com/archives/00june3.html )

何十億ドルもの問題

Cassidy博士は、何十億ドルもの利害関係に絡む弁護士らが、無過失損害賠償制度計画をリストから外そうとしていることを、おそらく十分に把握していなかった。カナダでは、無過失損害賠償制度の裁判管轄区域(オンタリオ州とケベック州)では、無過失損害賠償制度に切り替えた後、対人傷害弁護士の収入が激減した。カナダの他の管轄区域やアメリカの管轄区の弁護士にとっても無関係ではなく、これらの州では無過失損害賠償制度を廃止するために、弁護士団体が非常に熱心に運動している。もちろん、それを達成する最良の方法は、この研究の信用を落とすことである。弁護士が自分たちの高収入を維持するためならば強硬手段をとることに、Cassidy博士が気づくのに時間はかからなかった。(Michael Fitz-James,LLB, Low journal plays hardball over whiplash stats, Doctors and the Law, Medical Post,2000;36(25)、http//www.medicalpost.com/mdlink/english/members/medpost/data/3625/38A.HTM )

保険給付金をもらわない方が治りがよい?

New England journal of Medicine 2000年4月20日号に、“保険給付金をもらわない方が、患者の予後が良好である”という論文が発表された。その常識に反する提案は信頼できる科学者らによって非難された。さらに論文著者の1人は、ある結果に到達するためにデータを握造したとして共同研究者から告訴された。明らかにこの研究は、著者らが決めていた結論にデータを合わせたのである。このように結果があらかじめ予測されていたことを示す最も明白な証拠は、“回復”という用語のこの研究での使い方である。(Association of Trial Lawyers of Americaのホームページ、http://www.atlanet.org/homepage/nejm-ins.ht )

対人障害弁護士を挑発

その論文の最後の一文は、対人傷害弁護士に対する挑発であった。それは“立法者は、補償制度から痛みや苦痛に対する補償金の支払いを止めることの有用性を検討することを望むかもしれない”という一文である。「それが何にもならないと証明されない限り、不法行為等過失責任保
険制度の刷新を成し遂げようとする人々の運動を勢いづかせるでしょう」とAssociation of Trial Lawyers of AmericaのRichard Middleton会長は言う。また、SaskatchewanのLaw Societyの前会長Mourice Laprairieは「この論文の著者は、弁護士を排除しているのではなく、司法システムを排除しているのです。保険会社は裁判官になり、陪審員になり、死刑執行人になり、医師にもなってしまうのです」と言う。(Bob Van Voris,National Law Journal, 2000年5
月22日)

研究歪んだ社会通念を永続させる?

“私はむちうち外傷学の専門家として、この研究の質が非常に悪いことに大変当惑しており、また権威ある雑誌がこのような偏見に満ちた論文を掲載したことに困惑している。…これは私が詳細に検討したむちうち損傷に関する2,000を超える論文の中で、最も誤った方向に導きかねない
ものの一つである。…(自分の負傷のための訴訟と決して関わったことはないが)私を含む米国の何百万ものむちうち症患者にとって、この研究は、保険業界はわれわれに信じてもらいたがっており、われわれの患者はたいていの場合むちうち症をでっち上げていて、どういうわけかむちうち損傷は重篤でも何でもないというゆがんだ杜会通念を永続させるものである”。(Gregory T. Wright,DC, Medscape Orthopaedics & Sports Medicine)

不法行為等過失責任保険制度の刷新は司法を揺るがすか?

“むちうち症によって生じた痛みや苦痛の補償請求は不法行為等過失責任保険制度から除外されるべきだ”とするCassidy博士らの結論は、他者の過失によって負傷した人は、漠然としたものを含めて損傷や損害を補償されるという、不法行為等過失責任保険制度の基本的信条の土台を著しく揺るがすものである。それは、不法行為等過失責任保険制度を完全に撤廃する過程での重要な段階でもあろう。痛みや苦痛のような非金銭的損失に対する損害賠償金を獲得する見込みがなければ、多くの小規模な自動車事故の保険金請求は、民事裁判制度から完全に除外されてしまうであろう。(Alberta大学法学部Lewis Klar学部長、University of Alberta Folio,2000年4月28日、http://www.ualberta.ca/PUBLICAFFAIRS/folio/9900/04.28/opinion.html )


The BackLetter 15(8): 87,94,2000.


(加茂)

最も重症で明確なむちうち症状のある人々・・・・・どのようにして診断するのか?

損傷があるのかないのか今の医学のレベルでは判断不可能。損傷というほどではなく衝撃でも痛みが生じるが、それに対する反応はとても個人差がある。

生じた痛みが慢性化することもあるというのは事実である。たとえば、賠償に関係のない腰痛でも普通にあること。

加茂整形外科医院