提案されたOSHAの人間工学的基準:注意せよ!

The Proposed OSHA Ergnomics Standard: Watch Out!


なぜ,筋・骨格系専門医は,職業安全衛生管理局(OSHA)が提案した新規の人間工学的指針について注意を払わないといけないのか。OSHAから最終的に提案された基準が原案通りであるなら,それには少なくとも2つの理由がある。(1)この規制が診療に影響するため。(2)対象となる雇用者,ヘルスケア供給者は,おそらく自分の従業員のために人間工学的プログラムを作成するよう要求されるため。それに加えて,決定的な科学的根拠の欠如,さらにはOSHA職員によるその根拠の
お粗末で不正確な特徴付けは,この分野の医療に携わる全ての人に影響するだろう。

以下は,未発表のOSHA人間工学的基準の原案が,筋・骨格系専門医にとってどんな意味をもつかを,Q&A形式で示したものである。最終的な規制案は,本誌が出版される頃までには多分連邦広報に掲載されているだろう。

基準の影響を受けるのは誰だろうか?

ほとんど全員である。基準案は,製造作業,手で行う作業または仕事に関連した筋・骨格系障害(WMSD)が報告されているあらゆる職種に適用されることになる。奇妙なことに,海運業,建設業,および農作業は除外される。

仕事に関運した筋・骨格系障害(WMSD)とは何か?

基準案では、WSMDを次のような損傷および障害と定義している

  • OSHA200日誌に記録できるもの,もしくは雇用者がOSHA日誌への記入を要求された場合に記録できるもの;
  • 報告されている種類の障害を引き起こすか,もしくはそれに寄与することが“合理的にありそうな”WMSD“危険要因”が含まれる仕事で発生したもの;
  • 危険要因への暴露に起因し,その危険因子が“従業員の正規の職務”の重要部分を占める場含(すなわち,暴露が偶発的ではないこと)

OSHA200日誌にWMSDを記録することは,その仕事がWMSDを引き起こしたことを意味するのか?

そうではないと,American Society for Surgery of the Handの産業労働による損傷および予防委員会の前議長であるMichael Vender博士は言う。「OSHA法令の下で損傷または疾患を記録することは,管理の誤りがあったとか,労働者に責任があったとか,OSHA基準の違反が発生したとか,もしくはその損傷または疾患が労災補償の対象であったとかいうことを必ずしも意味するわけではありません」。

”危険要因”とは何か?

原案では定義されていない。“既知の危険要因”とだけ記述している。OSHAは,既知の危険要因とは,WMSDを引き起こすか,もしくはそれに寄与することが“合理的にありそう”だと雇用者が認知している職場における要因であると言う。この中には,保険の報告書,労災補償請求,コンサルタントの報告書,以前のOSHA査察,自已監査またはヘルスケア供給者の連絡記録において特定されたWMSD危険要因が含まれる。“合理的にありそうな”とはどういう意味か?

原案では定義されていない。

WMSDの臨床症状は,どのようなものか?

OSHAは,WMSDは筋,神経,腱,靱帯,関節,軟骨および椎間板に作用する可能性があると述べている。OSHAが述べているWMSDの例は,以下である:

  • 手根管症候群
  • カーペットレイヤー膝(Carpet-layers'knee)
  • ド・ケルヴァン病(De Quervain)
  • 外上穎炎
  • 腰痛
  • 筋挫傷
  • レイノー現象
  • 回旋腱板腱炎
  • 坐骨神経痛
  • 滑膜炎
  • 腱炎
  • ばね指

これらの例のうちのいくつか(例えば,坐骨神経痛,腰痛,カーペットレイヤー膝)は症状の説明であり,別個の病理ではない。原案は,診断の精度が非常に変わりやすい障害(上記のほとんど)を含めて,どの障害についても診断基準を全く示していない。

臨床の観点から、これは一体何を意味するのか?

基準案にはそれほど多くの説明はないが,WMSDは筋・骨格系のほとんどの医学的疾患であり得る。合理的にありそうな既知の危険要因は,仕事と,記録できる筋・骨格系障害との偶然のつながりであるように思われる。

雇用者の義務はなにか?

WMSDを有する従業員がいる場合,雇用者は職場に人間工学的プログラムを作成しなければならない(原案には,どのようにこれを実行するかについては書カ)れていない)。雇用者は次のこと
を行わなければならない:

  • WMSD危険要因を特定する;
  • 訓練プログラムを含めて危険要因を取り除くためか,もしくは制御するためのプログラムを実施する(ただし,医療従事者がこれらのプログラムの実施にあたり特別な資格をもっている必要はない);
  • プログラムの成功または失敗を判断する方法を選択する;
  • 従業員が費用を負担することなく,WMSDの迅速な医学的管理を,従業員が“回復する”か,もしくは仕事によるリスクがなくなるまで,または従業員が永久に就労不能であるとみなされるか,もしくは6ヵ月が経過するまで行う;
  • コンサルタントの臨床医が推奨する仕事の制限/調整を行う;
  • 仕事を制限するように処方された場合,もしくは雇用者によって自発的に仕事が制限された場合,従業員の通常の全収入,勤続年数,権利および利益を維持する;
  • 過程および結果について広範囲にわたり(10人以上の雇用者に関して)記録する。

臨床医の役割は何か?

WMSDを有する労働者を診察する臨床医は,雇用者による従業員の業務についての説明,危険要因分析において特定された危険要因,および従業員が行うことのできる代替業務についての説明を評価することになる。臨床医は,次の内容を含む意見書を書かなければならない:

  • 医学的疾患および荷せられた業務と関連のある疾患についての説明;
  • 必要に応じて,推奨される仕事制限;
  • 経過観察治療についての指示。

原案では,医学的疾患が仕事と関運があるということを臨床医がどのように判断したらよいか,それに関するアドバイスや,合理的な仕事の制限をどのように判断したらよいか,それについてのガイダンスは全く提示されていない。さらに雇用者が無料で提供しなければならない医療の範囲を定めていない。

臨床医が,その障害が仕事に関連したものではないと疑いをもったらどうなるだろうか?

臨床医が,仕事に関連したものではない医学的疾患が,労働者の筋・骨格系障害の一因になったかもしれないと考えた場合(例えば,糖尿病,慢性関節リウマチ),基準案では臨床医がこの情報を患者以外の誰かに公表することを禁じている。

決定的な科学的根拠の欠如は、この分野の医療に携わる全での人に関わる問題


The BackLetter 1999・14(11):124,125.

加茂整形外科医院