急性疼痛の治療により慢性疼痛の予防可能

Med.Tribune[1997年2月6日 (VOL.30 NO.6) p.26]


〔ワシントンD.C.〕 当地で開催された米国疼痛学会において,コロンビア長老教会派医療センター(ニューヨーク)臨床心理学のRobert H. Dworkin准教授らが,慢性疼痛は予想することができ,かつ予防も可能であると発表。このことは,帯状疱疹や四肢切断患者における幻肢痛,および慢性腰痛に関連した長引く疼痛などに関して言えるという。

 帯状疱疹後神経痛患者では急性疼痛が重度

Dworkin准教授は「重度の疼痛がある場合,患者は様子を見るだけという態度の医師よりも,疼痛を深刻に捉え積極的に治療してくれる医師を求めるだろう」としたうえで,帯状疱疹の患者119例を調べた結果,20例に皮疹消退後なお 3 か月以上も神経痛があることが分かった。帯状疱疹後に神経痛が起こった患者の平均年齢は65歳,起こらなかった患者の平均年齢は58歳と,前者のほうが高齢であり,7 種類の疼痛スケールに基づいて測定したところでは,前者のほうが急性疼痛がより重度であったという。

Dworkin准教授は「この結果を予防という観点から捉えるなら,(疾病の過程で)急性疼痛を治療することによって慢性疼痛の発生率を下げられる可能性がある」と結論付けている。

トロント大学(カナダ・トロント)行動科学准教授でもあるトロント大学病院急性疼痛研究クリニックのJoel Katz副所長は,「過去の痛みを忘れる最良の方法は,そもそもその痛みを経験しないことである」と指摘する。Katz副所長は麻酔下での術後に幻肢痛などの慢性疼痛を呈した患者を調べたところ,四肢切断を受けた患者の約80%が切断部位に慢性疼痛を起こすか,幻肢痛が生じ,これが数年間も続いたという。一部の患者は,壊疽,褥瘡,または骨折など過去に経験した同様の痛みを経験したことが分かった。

さらに,過去に感じたことのないずきずきした痛みや焼けるような痛みを経験した患者もいたという。 いくつかの試験では,術中に中枢神経系が疼痛反応を符号化し,術後に患者はこれを再経験する可能性があることも示唆されたという。つまり,術前に局部麻酔ブロックを築いて中枢神経系に疼痛インプットが達しないようにすれば,幻肢痛の発生率が低下するかもしれず,そうすれば術後の鎮痛治療の必要性も低下するのではないかと理論付けている。 

急性期に効果的な介入を
 
テキサス大学サウスウエスタン医療センター(ダラス)精神科のRobert J. Gatchel教授は,腰痛患者を調べたところ,職場復帰ができないほど重度の慢性疼痛を有する患者は,職場復帰した患者と比べて,高レベルの疼痛と機能不全を報告する確率が高いことを確認した。

同教授は「これは当たり前のように思われるかもしれないが,これらの患者を別の医師が診断したところ,これらの患者は必ずしも最高レベルの身体障害を持った患者ではなく,この 2 群間には基礎疾患に差はなく,一方の群が疼痛に対してより敏感であっただけだ」と指摘し,「これは急性期にもっと効果的に介入すれば,慢性化の問題を回避することができることを示唆している。職場復帰できないほどの慢性腰痛を抱えた患者は,身体の病気に対してより敏感で,感情的ストレスに対処するのを避ける傾向があり,これらは女性に多い」と付け加えた。 

加茂整形外科医院