慢性痛の問題は、患者数の多さ、そしてその確たる治療薬がないというようなことから、医療経済的な問題にも及び、世界的にも大きな問題となっている。今世紀の始めからの10年は、「運動器の10年」(WHO)、「痛みの10年」(アメリカ議会)と宣言され、診療と研究について2010年までに大きく前進させることを目的としている。これらの宣言は異なった組織によって行なわれたものであるが、その意味するところは大いに共通している。
神経系の可塑的変容の結果である慢性痛の治療には、30年ほど前より世界各国に学際的痛みセンターという施設が多数立ち上がっており、効果を上げている。残念ながら日本においてそのような施設はまだ一つも存在しない。
世界の学際的痛みセ.ンターでは、慢性痛患者に対して心理療法・運動療法を取り入れた治療を行なっている。この学際的痛みセンターの治療効果については世界的に認められているが、心理的効果に偏った面があり、慢性痛と運動器(運動系)という観点では、世界的にもまだ熟していない。
本シンポジウムでは、特に、慢性痛と筋の働きに焦点をあて、その診療に積極的に携わっている方々にお話しいただき、慢性痛の治療への新しい道を探るべく、充分な討論をすることを目的としている。前目に開催する非公開ミーティングから始まって、シンポジウムメンバーは2日間にわたって議論を深める。どのような方向が見つけられるのかは分かっていないが、この会を一つの試みとして、今後にも続いていくような会になることを念じている。