受賞研究によると、重篤な腰痛の主要予測因子は心理社会的因子である

Award-Winning Study Finds Main Predictors of Serious Back Pain to be Psychosocial 


軽度の腰の症状を有する患者の中で、将来活動障害性の重篤な腰痛が発現する可能性が最も高いのは誰だろうか。広範な変性、終板の変化、または線維輪の亀裂のような脊椎の構造上の異常を有する患者だろうか。疼痛を誘発する椎間板造影検査が陽性の患者だろうか。それとも心理社会的問題を有する患者だろうか。

Eugene Carragee博士らは、高精細画像(high-definition)MRIおよび疼痛を誘発する椎間板造影によって確認された構造上の異常が、将来の重篤な腰痛事象発現の最も強力な予測因子だろうという仮説を立て、“我々は手術の適応となる可能性のある患者を同定したいと願っていました”と述べた。

しかし、博士らが行った新規研究によって、そうした期待は裏切られた。Carragee博士らによると、“構造的な危険因子と心理社会的危険因子の両方を有する被験者コホートでの、重篤な腰痛による活動障害の発現に関する最も強力な予測因子は、開始時点における心理社会的因子であった。開始時点においてMRIと椎間板造影検査の両方で確認された構造的な因子は、腰痛発作との関連は弱く、活動障害または将来、医学的治療を受けることに関連はなかった。

重篤な腰痛の最も強力な予測因子であった心理社会的因子は、DRAM評価法によって測定された心理的苦痛、および増強された恐怖回避の考え方であった。

1回の研究で、ここで提示された複雑な問題に対する最終的な答えを出すことはできない。しかしCarragee博士らによる研究が、重篤な活動障害性の腰痛疾患において心理社会的因子が重大な役割を果たすという認識を一層広めることは確かである。そして、他の因子を無視して脊椎の構造的な異常にのみこだわる医師は、そのことによって患者を危険にさらしているのだと示唆する。

この研究は、ポルトガルのポルトでのSpine Week、アルバータ州エドモントンでのプライマリーケアフォーラム、およびNASS最優秀論文賞を受賞したシカゴでの北米脊椎学会(NASS)の年次集会において発表された。その後、Spine Joumalに掲載されている(Carragee et al.,2005を参照)。

活動障害性の腰痛の決定要素を同定することは、腰痛研究が探し求めてきた聖杯であり、捉えにくい標的であることが明らかになっている。

重篤な活動障害性の腰痛疾患を将来発現する患者はごく一部にすぎないため、小規模コホート研究では最終的な結論を出すことができない。大規模コホート研究は実務的に非常に困難である。MRI、疼痛を誘発する椎間板造影、心理社会的検査、活動障害と疼痛の検査などを通して、大規模コホートに関する十分な開始時点のデータおよび経過観察データを入手するには、巨額の費用と何年間もの注意深い経過観察が必要である。

最近Carragee博士らは、これらの厄介な方法論的障害の一部を回避した独創的に設計された研究によってこの問題に取り組んだ。

重篤な腰痛を発現するリスクが高いと思われた100例の男女からなるコホートが研究対象として選択された。コホート内のすべての被験者が、軽度で持続性、そして障害にはなっていない腰痛、すなわち活動が制限されず、治療を必要とせず、医師を受診するほどではない腰痛を有していた。

被験者は全員、腰椎以外の脊椎の変性性椎間板疾患の既往歴を有し、研究の2年前または3年前に頸椎固定術を受けていた。“頸椎症の存在ゆえに、被験者は腰椎の変性性椎間板疾患の素因を有するだろうと推測しました”と、Carragee博士は最近コメントした。

研究者らは、2対1の割合で、腰椎以外の疼痛症候群の患者をコホートに追加した。このことによって、コホートの中のかなり多くの患者が、腰痛症候群の発現に関する心理社会的危険因子およびその他の危険因子を確実に有するだろうと考えられた。

Canagee博士らは、開始時点および6ヵ月毎の定期的経過観察において、一連のエビデンスを入手した。すべての被験者が腰椎のMRIを受けた。心理測定検査のスコアが正常であった25例の被験者は、疼痛を誘発する椎間板造影検査を受けた。研究者らは心理測定検査および疼痛検査を実施した。病歴、職歴、および損傷歴を評価するため、5年間にわたり6ヵ月ごとにあらかじめ用意された原稿による研究被験者の面接調査を行った。

研究モデルはうまく機能したようであった。コホートはMRIで検出される構造的な異常の発生率が高く、70%の被験者がグレードVまたはWの変性性椎間板疾患スコアを有した。椎間板造影を受けた被験者の半数が陽性であった。

5年間に疼痛スコアが10点中6点以上(10点は最大の疼痛を意味する)の腰痛発作が134件発生した。17件の活動障害の発作および4件の長期活動障害の発作が発生した。

研究者らにとって驚きであったのは、重篤な腰痛疾患の最も強力な予測因子の中に、構造的な脊椎の異常が含まれなかったことであった。“心理社会的因子は、長期および短期の活動障害事象、持続時間、および腰痛疾患による受診の、強力な予測因子であった”と著者らは述べている。

重篤な腰痛と最も密接に関連した構造的因子は、椎体の終板の変性を表す、Modic分類による中等度および重度の変化であった。しかし総合的に、これらの変化はアウトカム不良とは弱い関連しかなかった。

疼痛を誘発する椎間板造影の結果の信頼度は低かった。注射によって疼痛が誘発された被験者、一致した疼痛反応が認められた被験者、および線維輪の断裂が確認された被験者が重篤な活動障害性の腰痛を発現する可能性は、正常な知見を有した被験者より高くなかった。

開始時点における軽度の不顕性腰痛の持続的寛解に関する最も強力な予測因子であったのは、重い肉体労働を要する仕事から離れることであった。この効果は、脊椎の構造上の異常とは無関係のようであった。重労働に携わることと、活動障害性の腰痛とは関連がなかった。“この研究によって、重労働は腰痛の悪化につながるかもしれないが、活動障害にはつながらないことが明らかになりました”と、Carragee博士は論評した。これらの知見は、重篤な活動障害を伴う腰痛疾患が発現した患者にとって重労働は増悪因子ではないだろうという認識と一致する。

参考文献:

Carragee EJ et al., Discographic, MRI, and psychosocial determinants of low back pain disability and remission: A prospective study in subjects with benign persistent back pain, The Spine Journal, 2005; 5(1):24-35. 

The BackLetter 20(2): 15, 2005. 

加茂整形外科医院