脊椎手術実施率にみられる根強い地域差は、改革の必要性を示唆

Deeply Entrenched Geographic Variations in Spine Surgery Rates Signal the Need for Change 


残念ながら、慢性腰痛の患者は居住地域によって運命が決まるという状況が続いている。

Dartmouth UniversityのJames N.Weinstein博士らが最近行った医療保健制度のデータの分析によると、米国内の病院委託地域間の脊椎手術実施率には、依然として著しい差異が認められる(Weinstein et al.,2004を参照)。

脊椎手術実施率における地域差には過去10年間で顕著な変化はみられず、脊椎治療システムを揺るがす根強い問題を示唆している。

その研究は、一般的に実施されている脊椎手術の費用対効果に関する十分な科学的データがないことを浮き彫りにした。同じく手術に関する意志決定にも問題があることを指摘した。

アウトカム研究の先駆者であるJohn E.Wemberg博士は、過度の多様性は疾患のタイプ、患者自身の選択、またはエビデンスに基づく医療の指示では説明できないと、Health Affairs誌で指摘
している(Wennberg,2004を参照)。

Wennberg博士によると、“James Weinstein博士らは、患者自身の選択に基づいて実施が決定されるべきである手術の実施率が地方の医師の意見によって過度の影響を受けており、その結
果`Surgical Signature'現象と呼ばれる、手術の危険率における長期的な顕著な地域差が生じていることを裏付ける、更なるエビデンスを提示している”という。

固定術の実施率における過度の多様性

脊椎手術の実施率における多様性は、他の一般的な定時手術よりも顕著である。Weinstein博士らによると、問題が特に深刻なのは固定術である。

新規の研究において、固定術を伴う脊椎手術実施率の地域差は、手術適応に関して一般的な合意が存在する大腿骨頸部骨折による入院の発生率における地域差の13倍であった。

固定術を伴う脊椎手術の実施率における地域差は、固定術以外の手術における地域差の2倍であった。

306の病院委託地域

新規の研究においてWeinstein博士らは、全米の306の病院委託地域における医療保健制度登録者の2000〜2001年の脊椎手術(固定術を伴うものと伴わないもの)および膝・股関節部全置換
術の年間実施率を計算した。

研究者らは、それらの手術の実施率を手術実施率における地域差が小さい大腿骨頸部骨折による入院の発生率と比較した。

博士らは、手術の実施率および多様性の動向を、2000〜2001年のデータと1992〜1993年のデータを比較することによって検討した。

脊椎手術実施率における著しい多様性

2000〜2001年の膝・股関節部置換術の実施率は、大腿骨頸部骨折による入院の発生率の約4〜5倍の多様性を示した。脊椎手術の平均実施率は約7倍の多様性を示した。

手術実施率が全体的に急増したにもかかわらず、地域差の傾向は1992年から2001年まで著しく安定していた。固定術の実施率はこの期間に人口1,000人あたり0.6人から1.4人へと137%増加し
た。固定術を伴わない脊椎手術の実施率の増加は比較的少なく、32%の増加であった。

固定術を伴う脊椎手術が占める割合はこの期間に脊椎手術全体の17%から36%へと増加した。

フロリダ州における手術実施率

米国全体の分析に加えて、Weinstein博士らはフロリダ州南部の8つの病院委託地域(東岸4地域と西岸4地域)における脊椎手術の実施率について、より詳細な分析を行った。これらの病院委託地域では、隣接地域間でも脊椎手術実施率に有意差が認められた。例えば、フロリダ州のブラデントンに住む医療保健制度登録者は、50マイル北にあるタンパの住民よりも脊椎手術実施率が75%高かった。

フロリダ州の病院委託地域における固定術の実施率には顕著な多様性が認められた。Weinstein博士らによると、“2000〜2001年に、ブラデントンおよびオーランドの住民を治療した外科医によるこの手術[固定術を伴う脊椎手術]の実施率は全米平均のそれぞれ2.4倍および1.6倍であったのに対して、マイアミにおける実施率は全米平均の60%であった”。

多様性の理由として考えられること

全米における手術実施率の多様性は、疾患の傾向の差異または患者自身の選択の差異と関連があるようには思われなかった。同様の患者集団を有した隣接地域における手術実施率には顕著な多様性が認められた。

整形外科医および神経外科医の分布状況によって説明されたのは、手術実施率における多様性のごく一部にすぎなかった。

Weinstein博士らによると、“2000〜2001年の[脊椎手術を受ける]危険率を予測する上で最も役に立ったのは、1992〜1993年の危険率であった”という。各地域において最も広く行われている医療スタイル(いわゆるSurgical Signature)が、手術の多様性に最も強い影響を及ぼしているようであった。

改革の青写真

これらは根強い問題ではあるが、解決することは可能である。Dartmouthの研究者らは改革のための青写真を提示した:

  1. 一般的な手術の有効性と安全性、ならびに患者自身による評価および選択がアウトカムにどのように影響するかについて、より良いエビデンスを得るための科学的検討課題を見直すこと;
  2. “意思決定の共有”または“十分な説明を受けよく考えた上での選択”を通して、患者の役割を強化すること;
  3. これらの両方の活動の妨げとなる施設内および情報面での問題に取り組むこと。

明らかに手術の進歩のスピードが速すぎて評価が追いつかない脊椎分野は、一般的な治療法や技術のより良い詔面の必要性に迫られている。臨床医学は“目新しいものであふれているが、本当に効果のあるものを見分ける能力がない”とWemberg博士は論説の中で指摘した。

はっきりとした“正しい”または“間違った”手術実施率が存在しない場合は、手術に関する決定に際して、医師の価値観や期待よりもむしろ患者の価値観や期待が反映されるべきである。
Weinstein博士らは、患者が台療選択に関するエビデンスについて合理的な説明を受けた上で価値ある決定を下せるような意思決定の共有が、医師によって支配された治療方針の決定に置き換わることができるという望みを抱いている。

Wemberg博士は、効果的で合理的な患者による意志決定を妨げる、相互に関連する金銭面、組織面、および行動面での問題に取り組むためには、費用の支払い体系の改革も必要だと提言し
ている。

手術実施率における過剰な差異は独力では解消されないだろうとWeinstein博士らは強調する。この状況を改革するには、積極的かつ前向きな対策、行政、医療制度、費用支払人、専門医学
会、および個々の臨床医を含むこの過程の多くの利害関係者による協力が必要になるだろう。

参考文献:

Dartmouth Center for Shared Decision-Making, accessed January 2005; www.dhmc.org/webpage.dfm?site_id=2&org_id=108&gsec_id=0&sec_id=0&item_id=2486. 

Weinstein JN et al., Trends and geographic variations in major surgery for degenerative diseases of the hip, knee, and spine, Health Affairs, Web Exclusive, October 7, 2004: 8 1 -89 ; content.healthaffairs.org/cgi/ reprint/hlthaff . var. 8 1 v I ?maxtoshow=&HI TS = I O&hits= I O&RESULTFORMAT=& authorl=weinstein&andorexactfulltext=and&searchid=1 102277808447 1959&sto red search=&FIRSTINDEX=0&resource type= I & journalcode=healthaff .

 Wennberg JE, Practice variations and health care reform: Connecting the dots, Health 
Affairs, Web Exclusive, October 7, 2004; content.healthaff airs , org/cgi/content/full/h 
Ithaff.var. 140/DC2?maxtoshow=&HITS=10&=hits=10&RESULTFORMAT=&aut 
horl=wennberg&andorexactfulltext=and &searchid=1 102285728684 2688&stored 
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The BackLetter 20(1): 1, 8-9, 2005. 

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