腰痛に対する一番有効な保存療法は何か?2研究によれば皆同じ

What Is the Most Effective Conservative Care Regimen? Two Studies End Up in Dead Heats 


腰痛の一般的な保存療法に関する綿密な2研究によれば、どの治療法も飛び抜けてはいなかった。どちらの研究でも単独で勝利をおさめた治療法は1つもなかった。どの治療法も、これといった特徴のない腰痛に対して万能ではないように思われた。

Tapio Videman医師らは、2週間以上持続した急性腰痛、もしくは反復性腰痛を有するフィンランドの労働者を対象に、3種類の理学療法の効果を検証した。「運動療法、McKenzie療法および伝統的理学療法の間には、効果の点で明らかな差は認められませんでした。また、将来どのような治療を必要としたかという点でもこれらの療法間に差があることを示す証拠は得られませんでした」とVideman医師は語った。彼はフィラデルフィアで行なわれた1997年のMcKenzie国際研究所の年次総会でデータを発表した。(Videmanほか,1997年参照)

McKenzieプロトコルには他の治療法に比べて大きな利点が1つあった。治療結果は他の治療法と同程度であったが、費用面では他の治療法の半分にも達しなかったのである。

この研究は、どの治療法も差はないという結果に終わった一般的な保存療法に関する他の研究に続くものとなった。昨年、原著Back Letterでは、Daniel Cherkin博士らが行った、McKenzie療法を、カイロプラクティックマニピュレーションおよび教育パンフレットと比較した研究の初期の結果を掲載したが、最近、この研究の共同研究者であるAlberta大学(カナダ)のMichele Battié博士が、McKenzie研究所会議でその後のデータについて報告を行なっている(Cherkinほか、1997年参照)。

著者らは、「ある治療法が、治療効果面においても対費用効果面においてもずば抜けて優れていると言えるような根拠は何も得られませんでした」と述べている。この研究の2年間の初期データでは、McKenzie療法、カイロプラクティックマニピュレーションのいずれでも、非常にわずかな、短期間の症状軽減しか認められなかった。

これら2種類の理学療法を受けた患者は、1ドルの教育パンフレットを与えられただけの対照群よりも、満足度が有意に高かった。しかしながら、カイロプラクティックマニピュレーションもMcKenzie療法も、患者の機能回復や活動障害改善の面では、1ドルのパンフレットのみの治療に優ることはなかった。さらに、どちらも2年間の腰痛の再発や医療機関の利用を減らすことはできなかった。また、この2つの理学療法にかかった費用は、ほぼ同じであった。

有効な治療法はあるのか?

これらの研究で、治療効果がはっきりと現れなかったのには多くの理由があるだろう。「この研究から読み取れるメッセージのひとつは、劇的な効果のある治療法を発見する時期に来ているということであろう」とBattié博士は述べた。

同様に、非特異的な腰痛には劇的な有効性のある治療法など存在しない可能性もる。Videman医師は発表の最後に、あらゆる治療法の効果に関する最終的な判断は、治療中の病態がわからなければ不可能であると付け加えた。

「腰痛」とひとまとめにして呼ばれる根本的な障害ー身体的障害および心理学的障害の両方ーを良く理解しなければ、より良い治療効果は得られないのかもしれない。

1人は血管に障害のある患者で、2人目は股関節に障害のある患者、そして3人目は身体障害患者であるような場合、果たして、この3人が皆、1つの治療法で良い結果を得られるだろうか?ある1つの治療法が3人の患者のうちの1人に対して目覚ましい効果があるからといって、患者全体に対しても効力があるとはいえない。

「腰痛の病因に関する理解不足は、それに対する治療法をやや経験主義的なものにしています」とVideman医師は述べた。「症状の自然軽快や変動もまた、治療結果の評価を複雑なものにしています。各治療法間での差を過大評価しないよう気を付けねばなりません」と彼は付け加えた。

フィンランドの労働者76例での研究

Videman医師らは、フインランドの大手建設会社の医務課を通じて治療を求めてきた男性76例について研究を行なった。被験者を誕生日の月によって、3つの理学療法群に割り付けた。

25例は「運動療法」に参加し、特別にデザインされた運動器具を用いて、機能的に進行する一連の運動を行なった。22例は、McKenzieプロトコールに沿った評価と治療を受けた。29例は、温熱療法、マッサージ、モビリゼーション、筋力強化および教育で構成されるいわゆる「伝統的理学療法」に参加した。

McKenzie療法を受ける患者は、各治療専門家の評価に応じて2回から8回の治療を受けた。これらは2週間かけて行なわれた。運動療法群においてはすべての患者が、理学療法士がついて行なう5回の治療と、グループで訓練する10回の治療を受けた。これらは、5週間かけて行なわれた。伝統的理学療法群の被験者は、5週間かけて12回の治療を受けた。

すべての療法は、各々の方法の「信奉者」である経験豊富な治療専門家によって行なわれた。

各群間で、被験者の年齢、仕事上の負荷、およびその他の心理社会的な特性は非常に一致していると思われた。95%以上が自分の仕事に満足していた。彼らの、労働環境、労働の「重さ」そして腰痛の病歴はほぼ同じであった。また、各群の30〜40%が喫煙者であった。

「全般的にみて、被検者数は少ないが、これらの群は同等と考えられる」とVideman医師は述べている。

Videman医師らは、疼痛図や、一般的な健康問診票および活動障害度の評価により、患者の経過を調査した。大部分の被験者の3ヵ月後の追跡調査データ(運動療法群92%、McKenzie82%および伝統的な理学療法群86%)と、2年後の追跡調査データ(各々68%、60%、および93%)が入手できた。「欠測データを最高値および最低値で置換しても、本研究の核となる結果は変わりませんでした」と、Tideman医師らは報告した。

明らかな差はみられず

Videman医師らは「患者の治療結果にも、将来の治療にも、差は認められませんでした」と述べる。活動障害度は、すべての群において治療開始から最初の2週間に有意に低下した。疼痛緩和のパターンは、3群でほぼ向様であった。

治療法間でみられた差の主なものは、治療にかかった費用であった。McKenzie療法は$145、運動療法は$290、伝統的な理学療法は$455であった。「実際の価格差はもっと大きいでしょう」とVideman医師は述べた。「なぜなら、運動療法と伝統的理学療法は一般的には、本研究で行なったよりも来院回数が多いからです」。

Videman医師らは、この研究の規模をもっと拡大したかったが、建設会杜が倒産してしまったため、これ以上患者を集めることができなかった。

本研究から、3つの治療法すべてがある程度有効と考えられるが、これらの結果がプラセボ効果によるものである可能性を除外することはできない。Videman医師は、「我々は、プラセボ対照群を設けなかった。従って、これらの治療法がプラセボまたは自然経過と本当に差があるかどうかはわかりません」と語った。

McKenzie療法vsカイロプラクティック:2年後の結果

Michele Battié博士は、McKenzie療法、カイロプラクティックマニピュレーションおよび教育パンフレットを比較した研究の2年後の短期の結果について報告した。(研究方法および短期の結果に関する情報は原著Back Letter 1996;11(12):133,139参照)。

長期成績は、同研究の短期的知見の多くを追認するかたちとなった。「研究全体について総括すると、McKenzie療法とカイロプラクテイックマニピュレーションでは、治療後早期の段階ではパンフレットよりも明らかに満足度が高くなりました」とBattié博士は報告した。「また、McKenzie療法とカイロプラクテイックマニピュレーションは、追跡調査期間の初期においても教育パンフレットよりわずかながら症状を軽減させています」。

「しかしながら、機能や活動障害度、あるいは再発の予防、自已管理といった点に関しては、各群間に有意な差は認められませんでした」とBattié博士は述べる。カイロプラクティックマニピュレーションおよびMcKenzie療法は、教育パンフレツトに比べると$200〜$300余計に費用がかかった。

McKenzie療法の平均総費用は、最初の1年分で$239(内訳は93%が診療費、7%がMcKenzie療法の副読本および腰椎ロールの費用)であった。これに対しカイロプラクティックの平均総費用は$226であった(内訳は82%が診療費、18%がX線写真の費用)。

この研究の3ヵ月時点で、McKenzie群の多くの患者は、将来、腰痛が出現した場合は自分で治療をするつもりだと述べた。しかしながら2年後の追跡調査では、こうした自己治療に対する意識が、医療機関の受診回数や、医療サービス利用を有意に減少させた気配はみられなかった。

複雑な問題

この研究は、両治療法の信奉者を失望させることになるであろう。しかしながら、両治療法とも、ある程度有益であることも示している。「私は、この研究がいずれかの治療法を非難しているとは思いません」とPalmer College of Chiropractic (Davenport、Iowa)の研究学部長であるカイロプラクティック医William Meeker医師は述べる。「これらの問題がいかに複雑であるかを示しているに過ぎません」。

彼は、結果は様々に解釈できると指摘する。「私は、病気の治療というものは、治療に携わる人々といくらか関係(患者と施療者との間の複雑な相互作用)があるのではないかと思います」。カイロプラクターおよびMcKenzie治療専門家の結果がほぼ等しかったのは、彼らが実際に行なった理学的な治療の方法に理論的に関連付けられるのではないか、と彼は強調する。「本研究でカイロプラクターおよび理学療法士が行なった治療には、力学的に何か共通するものがあったに違いありません。私は、どうしてもその可能性を否定できないのです」。

Meeker医師の理想計画は、1週間後の追跡調査から1ヵ月後の追跡調査までの研究初期に、「いずれかの治療法が機能面で他より優れているのかどうか」の研究結果を評価し、治療成績において異なったパターンを認めることであった。他のいくつかの研究では、治療開始から2〜3週間後の時点でマニピュレーションが機能面で優ることが認められており、Meeker医師は、本研究においても同様のパターンがみられることを望んでいたのであろう。

しかしながら、1週間後の追跡調査でも1ヵ月後の追跡調査でも、マニピュレーションあるいはMcKenzie療法のいずれにも、対照治療と比較して機能面で良好な結果は認められなかった。

Meeker医師は、今後の研究ではより多様な関与因子について検討することが必要ではないかと考えている。特に、治療提供者側の態度や意'識についてと同様に腰痛患者の態度や意識も調べる必要があると考えている。「私は、人々が医療について意思決定をする方法や、様々な治療家が患者の二一ズにこたえようとする方法に影響を及ぼす、社会心理学的関与因子に目を向けることが非常に重要だという考えに行きっきました」。良い結果を得るためには、患者の態度や意識が、治療をする側の態度や意識とうまくかみ合わなければならない。

研究対象患者は適切だったか?

ヘルスケアシステムの管理者は、腰痛患者にどちらの治療法を提供するのか決定することで、本研究に対する最終的な判断を下すことになるだろう。特定のヘルスケア機構の方針決定者は、カイロプラクティックマニピュレーションおよびMcKenzie療法から得られる(統計学的には有意だが臨床的にはほどほどの)症状の改善に加えて、患者の満足という本質的な改善が、追加分の費用に見合うだけ得られるかどうかを判断しなければならない、と著者らは述べている。

本研究によって、マニピュレーションの効果に関して、非常に多くの根拠が付け加えられた。今までのところ、少なくとも37の無作為研究が行なわれている。最近の英国の急性腰痛に対する臨床ガイドライン(British Clinical Guidelines for the Management of Acute Low Back Pain)では、治療開始6週間以内にはマニピュレーションが疼痛および活動レベルでの短期の改善度で対照とした群より優れており、また患者の満足度もより高かったとしている(Waddellほか,1996年参照)。Cherkin博士らによって行なわれた計画、実施共に優れた研究では、今までに行なわれたマニピュレーションに関する多くの研究ほどの好成績は認められなかった。マニピュレーションによりささやかな短期の疼痛緩和が認められたが、活動レベルに関しては1ドルの教育パンフレットより大きな影響は認められなかったのである。

McKenzieプロトコルの効果に関する、無作為研究に基づいた証拠の量はこれより少ない。McKenzie療法に関しては、これまでに3つの無作為研究(論文発表済み)が良好な結果を示しているが、これらには、研究方法の点で限界があった。英国のガイドラインによれば、「McKenzie運動療法により、急性腰痛のいくらかの短期の症状改善が得られる」とされている。この新規の研究は、これまでの研究よりやや劣る結果となり、McKenzie療法でささやかな短期的な疼痛緩和が認められるが、長期的な再発あるいは医療機関利用の減少は得られなかった。(Waddellほか,1996年参照)。

Meeker医師は、患者の満足度がマネージドケア組織の財布のひもを緩める原動力になると指摘している。これらの治療法が教育パンフレットよりも患者の満足度において高いレベルを示したという事実は、ヘルスケアシステムの方針決定者をひきつけるかもしれない。またその一方で、1ドルの教育パンフレットが他より$200〜$300安い費用で同様の長期結果を示したという事実は、最低ラインを見ているマネージドケアの管理者にとって説得力があることを示した。

参考文献:

Cherkin D et al., McKenzie therapy, chiropractic manipulation, or an educational booklet : Which is the most cost-effective for low back pain ? : McKenzie国際研究所の年次総会(1997年、フィラデルフィア)にて発表;論文未発表。

Videman T et al., A comparison of medical exercise, the McKenzie approach, and traditional physical therapy in the treatment of occupational low back pain patients : McKenzie 国際研究所の年次総会(1997年、フィラデルフィア)にて発表;論文未発表。

Waddell G et al., Low back pain evidence review, London : Royal College of General Practitioners, 1996 

The BackLetter, 1997; 12(10): 109, 116,117,119 

生涯にわたる意識改革に5回の治療で十分なのか?

Are Five Sessions Enough to Change Lifelong Attitudes?


Cherkin博士らがMcKenzie国際研究所会議の1997年年次総会で発表した研究の不可思議な点の1つは、なぜMcKenzieプロトコルを施した患者に自分で治そうという意識が芽生えても、医療機関利用率の低下を引き起こさなかったかということである。1つの可能性として、5回の治療が長期にわたる患者の意識や態度を変化させるには十分ではないことが考えられる。

「我々が、ある人の一生のうち、その人の心構え、運動療法や疾患に対する態度といった重要な事柄を変えたり試したりできる機会は極めて少ないのです」と理学療法士のMark Laslett (Auckland, New zealand)は指摘する。彼は、McKenzie療法士が最初の症状発現後も年1回程度の定期検診を行なっていれば、患者の行動にもっと影響を及ぼすことができたかもしれないと推測する。

また、彼はヘルスケアシステムが一般的に継続診療を認めないことを指摘した。「我々の資金供給システムは、理学療法が一連の処置でなければならないと定められています。ある一定量の治療を受ければ、それでおしまいなのです。我々は、ジレンマに直面しています。我々が何らかの定期検診を行なうことができれば、その人の人生に触れる機会が広がることでしょう」。

「これは、すべてのヘルスケアシステムの問題なのです」とMichele Battié博士は、答えた。「自已治療をしようという意識が実行に移されるために、追加診療が役立つことが実証できていれば、変革を起こす最も有力な論拠となっていたでしょう」。

研究対象患者は適切だったか?

Are the Right Patients Being Studied?


New Zealand,Waikanaeの理学療法士Robin McKenzie, FCSPは、長期の腰痛に関しても今後さらなる研究が行なわれることを期待すると述べた。

彼は、McKenzie国際研究所会議の1997年年次総会の討論の際に「既に改善しつつある患者が研究に含まれていることにより生じる問題に、すべての研究者の注意を集めなければならないと考えます」と述べた。これらの患者の自然経過は非常に良好で、回復も速やかであるため、治療法の効果をはっきり見分けることが難しい、とMcKenzieは語った。自然経過が良好なことが原因で、自然回復のない患者サブグループに対する各種治療法の効果が見えにくくなってしまうことがある。

彼は、2週間経っても症状が改善しなかった、より少数の患者を対象に、治療の効果を調べる研究が今後行われることを期待すると述べている。彼は、このような患者の回復を助け、彼らがヘルスケアシステムにとって財政的な頭痛の種となるのを防ぐ治療法を確立することが重要だと考えている。

Daniel Cherkin博士は、彼の研究の患者の多くは実際に2週間以上腰痛が持続していたと指摘した。彼の研究では、初診後1週間以内に腰痛が消失した患者はすべて除外された。また、大部分の被験者は、初診時に、腰痛が1週間あるいはそれ以上前から続いていると申告していた。

フインランドの研究者Tapio Videman医師は、研究対象を腰痛が2週間以上持続している患者に限定することによって、研究者に技術的問題が生じるであろうと指摘した。「治療を開始するまで2週間待たなければならないとしたら、どうなるでしょうか。そのことによって研究がより複雑になり、被験者の数も減ってしまうのではないのでしょうか」とVideman医師は述べた。さらに彼は、腰痛の持続が2週間未満の患者にも治療法が実施される予定であれば、それらの集団を対象に研究する必要があると指摘した。

加茂整形外科医院