トリガーポイントとは何か?その成因について

川喜田健司(明治鍼灸大学附属東洋医学研究所所長・明治鐵灸大学生理学教室教授


■はじめに

今回の座談会(本誌7月号座談会「トリガーポイント鍼療法を活用するために」参照)ではトリガーポイントをめぐる様々な問題を取りあげたが、そこで司会をしながら感じたことは、トリガーポイントを原因とする関連痛が筋筋膜性疼痛患者の訴える痛みの本態であることを広く臨床家の先生に理解してもらう必要性があること、そして、患者にとって治療すべきトリガーポイントをどのように決め、どのようにしてそれを不活性化するかという診断・治療上の方法論がまだ十分に確立されていないという現状であつた。

その方法論の詳細については座談会に出席いただいた先生方の原稿にお任せすることにし
て、ここではTravellとSimonsらの提唱してきたトリガーポイントの定義や成因について改めて整理するとともに、その問題点について基礎医学的な観点からコメントする。また、トリガーポイントと経穴(ツボ)の類同性を紹介しながら、これまで提唱してきたポリモーダル受容器仮説との関達についても紹介する。

■トリガーポイントと関連痛

慢性的な筋痛患者には様々な症状があるが、その1つの特徴が索状硬結と呼ばれる硬いしこ
りがあることである。また、患者が愁訴を訴える部位に原因となりそうなものは見つからず、そことは離れた部位の刺激で患者の訴えと同じ現象を誘発できることが古くから知られていた。また特定の筋や靱帯への高張食塩水の注入がヒトにおいて特定パターンの関連痛を生じることも明らかにされ、患者の自覚する筋痛の原因がトリガーポイントによる関連痛であることが実験的に明らかにされた。

この症候群を体系づけたのが、TravellとSimonsであり、彼らはこのような症状を筋筋膜性疼痛
症候群と名づけた。その名称から痛みの原因は筋や筋膜にあると考えられがちであるが、実は痛みの原因はトリガーポイントの活性化にある。

図1にその機序を模式的に示す。これを見ればわかるように、トリガーポイントからの求心性入力は中枢の収束・投射ニューロンを興奮させ、脳にあたかも側頭部から痛みの信号が来たかのように錯覚させている。これが関連痛の機序であるが、いまだにその詳細についてはほと
んどわかっていない。

■トリガーポイントの成因

トリガーポイントの発現機序について、Travellらは筋の部分損傷が筋小胞体からカルシウムイ
オンを漏出させることによって生じるという仮説を提唱していた。つまり、カルシウムイオンの漏出によって筋拘縮が起こり、それによって発生したエネルギー危機が感作物質を産生させて圧痛部位が生じるというのである。しかしその後、トリガーポイントから電気活動が記録されたことによって、筋紡錘の錘内筋が活動電位として存在し、その活動に交感神経が関与することが指摘された。

そのためSimonsらは、それを運動終板機能の異常亢進として、従来の筋拘縮説と組み合わせた統合説を新たに提案した。その論拠として、

  1. トリガーポイントか,ら記録される電気活動が
    終板電位に類似している
  2. アセチルコリンの過剰分泌状態を実験的につくると運動終板の近傍にcontraction knot様の部位が出現する
  3. 運動終板部位は無髄神経の分布が密であり痛覚
    閾値も周囲の筋組織に比べて低い

などを挙げた。しかし、この運動終板説では、トリガーポイントが筋や筋膜以外の組織、皮膚、腱、靱帯、骨膜等にも出現し、様々な症状の原因となっているという臨床的な事実を説明できない。

我々はトリガーポイントの成因に局所炎症にともなうポリモーダル受容器の感作を挙げ、筋拘縮とともに深部組織の浮腫が索状硬結である可能性を挙げている。その理由として、索状硬
結は極めて可変性が高く、鍼刺激などで容易に消失し、その部位が移動するのは組織的変性とは考えにくいこと、筋以外の組織に発生する硬結の成因として組織損傷にともなう深部組織の浮腫の可能性が最も高いことなどを挙げた。また、実験的な遅発性筋痛モデルによってトリガーポイント様の部位が出現することも、それが抗炎症剤の投与で阻止されることも確認されている。しかし、その機序についても、詳細は今後の検討が必要である。

■トリガーポイントの不活性化法について

筋筋膜性疼痛患者に対する治療の原則は、患者の症状をもたらしているトリガーポイントを
正確に検出し、それを不活性化することにある。その方法としてTravellらが推奨してきたのは、
コールドスプレーをかけながら筋をストレッチする方法と局所麻酔薬の注射であった。

前者は拘縮が起こっている筋を機械的に引き延ばして血流の改善を促すものであり、後者は
侵害受容器からの入力の遮断によって関連痛の原因をなくすことにある。後者に関してはその
有用性は広く知られていたが、複数のトリガーポイントが同一筋に存在する場合に大量の薬液
を筋内に注射することが問題とされてきた。

そこで、注射液を用いない針(dry needling)や鍼刺激が推奨されるようになってきた。最近の筋筋膜性疼痛患者に対するトリガーポイント注射の臨床効果を調べた成績は、各種の局所麻酔
薬、ステロイド、ボツリヌス毒素Aのいずれを用いた注射群も生理食塩水を注入したプラセボ群以上の効果はなく、また薬液注射群と鍼刺激群との差も認められていない。

鍼刺激が薬物注射と同等の効果を示すことは、薬物の作用とは別のトリガーポイント不活性化
の機序が存在することを考える必要がある。また治療に際しての安全性を考えた場合には当然のことながら鍼刺激のほうが推奨される。

■トリガーポイントの特徴とツポとの類同性について

トリガーポイントの特徴は、索状硬結上の限局した部位に出現する圧痛点であり、その部位の圧迫や鍼の刺入で局所単収縮反応が起こるほか、それによって特定パターンの関連痛や患者
の訴える症状が再現されることである。その他、逃避反射や局所電気活動の記録が指摘されている。

これらのトリガーポイントの特徴は鍼灸のツボと呼ばれる部位の特徴に驚くほど似ている。我が国の鍼灸臨床家の多くは、実際の治療に際して古典に描かれている経穴の位置よりも、硬結や圧痛あるいは反応点と呼ばれる部位を重視している。また、鍼灸刺激で誘発される得気、鍼感といった現象の一部は、トリガーポイントの刺激で誘発される局所単収縮反応や関連痛として説明することが可能である。また、トリガーポイントの出現する部位は経穴とほとんど一致するとされている。両者の密接な関連性は、これまで長く謎に包まれてきた経絡・経穴の本態を、全く別の観点、すなわちトリガーポイントの生成機序から解明できる可能性を示唆するものといえよう。

■トリガーポイントとポリモーダル受容器仮説

我々はこれまで鍼灸刺激の受容器としてポリモーダル受容器仮説を提唱してきた。その仮説
とトリガーポイントの関連を模式的に示したものが図2である。前項で挙げたように、トリガーポイントの出現部位と鍼灸で用いられるツボが空間的によく一致していることは、その発現機序に何らかの共通性があることを示唆している。


トリガーポイントの1つの特徴は索状硬結上の圧痛点であるが、その成因として組織損傷にともなう筋の局所的拘縮や深部組織における浮腫の可能性が高く、いずれもポリモーダル受容器の感作や神経原性炎症の結果として理解することができる。またトリガーポイントの刺激で生じる局所単収縮反応や関連痛の現象は、鍼の刺入でも同様に生じるもので、そこにはポリモーダル受容器の興奮が関与している。

トリガーポイントを検出しその部位へ鍼刺激を行う意味は、感作したポリモーダル受容器をより強く興奮させることにある。それは内因性の鎮痛系をより効率的に賦活して全身性の鎮痛を生じさせるほか、ポリモーダル受容器の末端から逆行性にカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などの神経ペプチドを放出し、局所の血管拡張をもたらし血流を改善させることが考えられる。これによりエネルギー危機に陥っていた硬結部位の拘縮の解消に役立つことが考えられるのである。

トリガーポイントの不活性化機序の詳細にも不明な点が多いが、そこにポリモーダル受容器
が深く関与している可能性は極めて高いと思われる。

■おわりに

トリガーポイントの成因が十分に明らかになっていない段階では、適切な診断法や治療法を決めることは困難である。しかし、従来の薬物注射法と同等の効果が鍼刺激で得られることが広く認められつつあることは、患者にとってメリットは大きいといえる。

慢性の筋痛を訴える患者に対して、その痛みがある部位以外に原因となるトリガーポイントがある可能性を十分理解したうえで、その適切な検出法や不活性化を目的とした鍼治療法をエ
ビデンスに基づいて確立することが今後の課題であろう。

参考文献

1)川喜田健司監訳.トリガーポイント鍼療法.医道の日本社,1995

2)川喜田健司,岡田薫,伊藤和憲.トリガーポイントに関する研究の現状と諸問題.日本歯科東洋医学会誌2002;21:24_31

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