椎間板置換術をリハビリテーションと比較した最初の無作為比較研究

First Randonrized Trial Comparing Disc Replacement To Rehabilitation 


椎間板置換術が保存療法よりも有効であるという決定的なエビデンスはない

フランスで行われた無作為研究は、椎間板変性疾患の治療法として椎間板置換術が現代的なリハビリテーションプログラムよりも有効であることを見出したことによって、一見、人工椎間板のよい宣伝になったように思われた。

より詳細に検証してみると、研究方法上の問題のため、この研究の結論には欠陥、それもおそらく致命的な欠陥があるように思われた。

Brice Ilharreborde博士は、最近New York Cityで開催された国際腰椎研究学会(ISSLS)の年次総会で新しい研究を発表した。博士は、椎間板置換術を受けた患者は、保存療法を受けた患者と比較して、6ヵ月後の経過観察時の疼痛および活動障害スコアにおいて統計学的に有意な利点が認められたと報告した。この利点は手術の12ヵ月後も持続していた。職場復帰についても手術群の方が優れていた。

Ilharreborde博士らによると、“この研究において、椎間板全置換術は、非常に特殊な慢性腰痛患者の治療において、リハビリテーションよりも効果的であるように思われた”(Ilharreborde et al.,2005を参照)という。

致命的な研究計画

しかし、研究計画の2つの特徴が椎間板置換術とリハビリテーションの公正な比較を妨げるように思われ、この点についてISSLS総会では活発な議論が展開された。現代的な臨床研究の標準要求事項は、割り当てられた治療について盲検化された評定者がアウトカムの評価を行うべきだということである。患者はしばしば、様々な理由のため主治医にアウトカムを正確に報告しないことがある。そして治療にあたる医師および他の盲検化されていない評定者の見解は、彼ら自身の予想や考え方による影響を受ける可能性がある。

フランスで行われた新しい研究では、治療にあたった外科医が6ヵ月後の時点で最初のアウトカム評価を行った。“これは大きなバイアスです”と、ベルギーの整形外科医でISSLS会長を務めるMarek Szpalski博士は述べた。

この臨床研究のもう1つの珍しい特徴から考えて、この変則性は致命的であった。研究計画には、リハビリテーション群の患者は6ヵ月後の経過観察時にOswestry活動障害度(ODI)スコアにおいて25%の改善が認められなければ、椎間板置換術に切り替えるという選択肢を有すると明記されていた。

“もし患者がリハビリテーションに無作為に割り当てられ、6ヵ月後に手術を受けることを期待していたから、それらの結果が悪かったとしても意外ではありません”と英国の外科医Jeremy Fairbank博士は言及した。

言い換えると、研究計画から考えて、手術による治癒を望んだ患者にはリハビリテーションプログラムを続ける動機がなかった可能性がある。確かに、リハビリテーションを行った患者のおよそ半数は6ヵ月後の評価の後に手術を選択した。

意欲的な研究に対する賞賛

これらの批判もあるが、フランスの研究者らは、意見の分かれている脊椎治療の領域において無作為研究を試みたことを賞賛されるべきである。

椎間板置換術は保存療法よりも良好なアウトカムにつながるという信頼できるエビデンスは、まだ臨床試験から得られていない。それでも人工椎間板の支持者は、今後数年間に数十万人の患者が椎間板置換術を受けるだろうと推測している。患者が(医師および費用を負担する保険会社と共に)脊椎治療の選択肢に関してインフォームド・チョイスを行うことができるよう、質の高い臨床研究によってできるだけ早くこの空白を埋めることが不可欠である。

フランスの研究者らが今後、おそらく研究計画を修正して同様の研究を続けること、そして他のグループがこの仕事を引き継いでいくことが期待される。

多施設共同無作為研究

Ilharreborde博士は、変性性椎間板疾患または髄核摘出術後症侯群(椎間板切除術の失敗)による慢性腰痛を有する97例の患者について、多施設共同研究を行った。

研究に参加する条件として、すべての被験者はOswestryスコァが50%を超えていなければならなかった(O〜100の尺度、100%は活動障害度が最大であることを表す)。すべての患者は、誘発性椎間板造影が陽性で、症候性の椎間板は単一椎間でなければならなかった。

主要アウトカム評価尺度は、フランス語版のODIを用いて評価した機能的能力であった。研究者らはビジュアルアナログ疼痛スケールを用いて疼痛を評価し、General Health Questionnaireを用いて精神的苦痛を評価した。

患者は、次の2つの治療法のいずれか1つに割り当てられた。(1)SB-Charité椎間板(DePuy Spine,Inc.,Raynham,MA)を用いた1椎間の椎間板全置換術、または(2)運動療法および行動療法指向型のリハビリテーションプログラム。アウトカムの評価は、6ヵ月後と、“すべての患者の最終的な治療の12ヵ月後”に実施した。

前述のように、6ヵ月後経過観察時のODIスコアが25%以上改善しなかったリハビリテーション群の患者には、椎間板置換術に切り替えるという選択肢が与えられた。リハビリテーションから手術に切り替えた群の最終的なアウトカムの評価は、べースラインの12ヵ月後ではなく、手術の12ヵ月後に実施された。

疼痛および活動障害の実質的軽減

人工椎間板群の平均Oswestryスコアは、べースラインでは平均が51%をわずかに超えていたが、6ヵ月後の経過観察時には平均13%まで低下した。リハビリテーション群の患者は大きく遅れをとった。それらの患者は、べースラインでの同様の平均ODIスコアから6ヵ月後には平均43.7%まで改善した。

その時点で、保存療法群の26例の患者が椎間板置換術を選択した。最終経過観察時(“最終的な治療の12ヵ月後”)の平均ODIスコアは手術群が13.2%、リハビリテーション群が30%であった。Iharreborde博士によると、疼痛スコアについても同様のパターンがみられた。

手術群の方が職場復帰率が良好であった。人工椎間板の手術を受けた患者の職場復帰率が78%であったのに対して、リハビリテーション群は52.2%であった。

手術群には重大な早期合併症が2例認められた。1例は、再手術を要する人工椎間板の亜脱臼が発生し、2例目は血腫が発生した。

リハビリテーションプログラムはどうなのか?

この研究に関する討論の中で、リハビリテーションの専門家であるDartmouth UniversityのRoland Hazard博士は、リハビリテーションプログラムの運動の強度について質問した。最近のレビューにおいて、運動プログラムが集中的であるほど、より良好な結果が得られることが示唆されていると、博士は言及した。

Ilharreborde博士は、フランスの研究者らは固定術を保存療法と比較したIvar Brox博士らによる最近のノルウェーの無作為比較研究(RCT)で使用された運動プログラムを再現しようと試みた、と報告した(Brox et al.,2004を参照)。

ノルウェーの研究では、集中的な運動療法と行動療法の両方を行った。患者には、現代医療に依然として浸透している腰痛に対する慎重な対処法を気にしないよう指導した。患者には腰を痛めることを心配しないように指示した。通常の活動を再開しても脊椎には全く害がないことを患者に説明した。そして、自由に腰を動かすこと、すなわち、前屈みになったり重い物を持ったり、自然にかなったやり方で腰を使うよう奨励した。被験者はこれらの指示を強化するための漸進的な運動療法と集団療法に参加した。

しかし、ノルウェーの研究のすべての患者は、1ヵ所の施設で共にトレーニングを行った。これには特別な運動および行動の原理に必ず従う複数の臨床医が必要であることを考えると、このリハビリテーション方法を多施設共同研究において再現することは困難であろう。そしてフランスの研究において非常に多くの患者が、6ヵ月後の経過観察以降保存療法プログラムを中止したという事実は、理由は何であれリハビリテーションのメッセージが研究に参加した患者に定着しなかったことを示唆する。

Ilharreborde博士は、新しい研究のリハビリプログラムはBrox博士らが行ったものと同様であったと思うと述べた。しかし、多施設共同研究における複雑な保存療法プログラムのコンプライアンスを監視するのは難しいと博士は述べた。

ISSLS総会では、新規研究に関して、他にもいくつかの興味深い意見が出された。ODIの開発者の一人であるJeremy Fairbank博士は、彼の知る限り、妥当性が確認されたODIのフランス語版は存在せず、フランスの研究で使用された版の妥当性を確認する試験が行われることを望むと述べた。

Fairbank博士は、手術群およびリハビリテーション群におけるべースラインのODIスコアについても質問した。“研究に参加するための基準は、Oswestryスコアが50を超えていることでした。しかし、両群の平均値は51〜52の間でした。これは私には数学的に不可能なことのように思われます”とFairbank博士は述べた。厳密に言うと、これは不可能ではないかもしれないが、とてもありそうにないことである。この研究の論文が発表され、この明らかな矛盾が解決することが期待される。

他のRCTはどうなのか

結局のところ、フランスの意欲的な研究から、椎間板置換術がリハビリテーションよりも優れているという決定的なエビデンスは得られない。そして残念ながら、この問題について検討した無作為研究はまだ他にはない。

最近行われた2つのRCTであるノルウェーのBrox博士らによる研究と、最近発表された英国のFairbank博士らによる研究は、固定術および積極的な保存療法における1年または2年後の経過観察時の疼痛および活動障害に関して、非常に良く似たアウトカムを有することを示唆した(Fairbank et al.,2005を参照)。

固定術とCharité人工椎間板を用いた椎間板置換術とを比較した最近の重要なFDA試験において、2年後の経過観察時の疼痛および活動障害に関する結果がほぼ同等であることが明らかになった(Blumenthal et al.,2004を参照)。はたして、椎間板置換術と積極的な保存療法は同様の長期結果を有するのだろうか。その結論は今後の研究を待たなければならない。

参考文献:

Blumenthal S et al., Prospective randomized comparison of total disc replacement to fusion: A 24-month follow-up of an FDA regulated study, presented at the anuual meeting of the North American Spine Society, Chicago, 2004; as yet unpublished.

 Brox JI et al. Randomized clinical trial of lumbar instrumented fusion and cognitive intervention and exercises in patients with chronic low back pain and disc degeneration, Spine, 2003; 28: 1913-21 . 

Fairbank J et al., Randomized controlled trial to compare surgical stabilization of the lumbar spine versus an intensive rehabilitation program for patients with chronic low back pain: The MRC spine stabilization trial, BMJ, May 23, 2005; epub ahead of print version. 

Ilharreborde B et al., Efficiency of total disc replacement arthroplasty in the treatment 
of chronic low back pain, presented at the annual meeting of the International Society for the Study of the Lumbar Spine, New York, 2005; as yet unpublished. 

The BackLetter 20(6): 61, 69-70, 2005.

加茂整形外科医院