治せる医師・治せない医師 


Bernard Lown, M.D.著:1921年、リトアニア生まれ。1945年ジョンズ・ホプキンズ大学医学部卒業、医学博士。1974年から91年までハーバード大学公衆衛生学院教授。かたわら、ピーター・ベント・ブリガム病院(ハーバード大学医学部関連病院のひとつ。現在のブリガム・アンド・ウィメンズ病院)医師を勤める。ジギタリス剤とカリウムの関係の研究、直流除細動器の開発、不整脈と心臓突然死の研究など、心臓病学の最前線を切り開いてきた。また、医師の国際交流と平和のための取り組みにも尽くしている。1984年ユネスコ平和教育賞受賞。1985年ソ連のエフゲニー一チャゾフ博士とともに核戦争防止国際医師会議(IPPNW)を代表してノーベル平和賞を受賞。現在、プリガム・アンド・ウィメンズ病院医師、マサチューセッツエ科大学臨床研究センター客員研究員、ハーバード大学公衆衛生学院心臓学名誉教授。

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なぜ、そのようなまちがった考えが医師に広まっているのだろうか。一次医療の医師が恐ろしい診断を下すのは、現在の医学のあり方に原因がある。病気についての知識、診断、治療方法のほとんどは、専門治療を行う三次医療の医師によって形成される。このような専門医は、ありふれた普通の病気は診ない。彼らが診るのは、非常に複雑で、重い難病である。

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どのような病気であれ、患者がゆったりと冷静に構え、特にユーモアのセンスを忘れなければ、生き延びる可能性が高くなる。300年前、偉大な英国人医師のトマス・シデナムは、しみじみと語った。「町にピエロがひとり来るほうが、大量の薬を背負った20頭のロバが来るよりも、人々の健康増進に役立つ」医師は楽天主義の化身でなければならない。暗闇の中でも一筋の光明を探すのが医師のつとめだと私は信じる。見通しが暗いときでも、患者を安心させることで、たとえ完全に回復しなくとも、症状をより楽にすることができる。「医師が患者を制限してはならない。患者自身に制限させよ」というのが、私の長年のモットーだ。恐怖を与え、禁止を強要して、患者の行動を制限したり負担をかけたりしてはならない。私はできるだけそうしないように努めてきたが、多くの患者が、絶望的な症状から驚くべき生還を果たした。奇跡といってもよい例もいくつかある。

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本旨にもどろう。まず患者に耳を傾けることから癒しははじまる。私たちの医療制度が崩壊しつつあるのは、医師がそのことを忘れているからだ。これも、非人間的なテクノロジーを祭り上げ、収入を最大限に増やすための方便にテクノロジーを用いようとする考えが広く浸透しているためだ。患者に時間を費やすと不経済なので、あらゆる可能性をひとつずつ消していく診断方法がとられる。そのため、検査づけ、処置づけに歯止めがなくなる。医療過誤訴訟は、病める医療制度の顔にできた膿庖にすぎないと考えるべきだ。すなわち、米国の医療制度が病んでいるのは医療過誤訴訟が原因ではない。医療制度が病んでいるために、その結果として医療過誤訴訟が起きているのだ。医師がふたたび、まず第一に患者のことを考えるようにならなければ、健全な医療制度は望めない。

加茂整形外科医院