腰ベルトの最新研究と、その他の臨床的エビデンス

The New Back Belt Study -and Other Clinical Evidence


腰ベルトに関する最新研究は、今までのところ、この分野における最大規模の最も綿密なプロスペクティブコホート研究である。

JamesT.Wassell博士らは、30の州の160店舗以上のWal-Martストアーの従業員を対象に研究を行った。89店舗では腰椎ベルトの使用を義務づけ、79店舗では従業員の自由意思にまかせた。従業員は皆、同じ種類のベルト(肩ひもなしでウエスト周りにフィットする、調節可能な、腰用の衣類)を用いた。伸縮性のナイロン素材でできており、先端部分はマジックテープ、背中の部分はメッシュになっていた。

研究者らはまず、資材運搬に携わる13,873人の労働者を調査した。この群の9377人が研究開始時に面接を受け、6311人(67%)は6ヵ月後の経過観察時に再び面接を受けることとなった。
Wassell博士らは、職歴、既往歴、ライフスタイル、仕事の内容、仕事に対する満足度、心理・社会的因子、ベルトの着用習慣、および様々な人口統計学的情報を評価した。

多変量回帰分析

コホート研究では、腰ベルトの使用、腰痛の自已申告、および腰部損傷請求の関連について検討した。Wassell博士らは、店の種類、人口統計学的リスクファクター、仕事による負荷(職種および持ち上げ作業の頻度に基づく)、腰部損傷の既往、仕事に対する満足度、ならびに喫煙を含む、様々な因子をコントロールすることが可能になる、多変量回帰モデリングを使用した。

腰ベルトは、本研究のどの群においても、結果評価尺度におけるいかなる利点ももたらさなかった。研究者は、利点があるかもしれないサブグループについても検討したが、結果は同じであった。腰ベルト使用に関する結果は、店舗の方針(強制もしくは任意)、腰ベルトの着用の習慣が身体に与える負荷の度合いによって違いはなかった。

腰痛および腰部保険請求の予測指標

本研究において、腰部損傷の既往は、腰痛と腰部損傷請求率の両方について最も強力な予測指標であった。仕事に対する満足度が低いことは、腰痛のリスク増加に関連したが、腰部損傷
請求率の上昇には関連しなかった。「現在喫煙している者は腰部損傷請求のリスクが高く、以前喫煙していた者は腰痛のリスクが高かった」とWassell博士らは述べた。

方法論的欠陥

最新研究には、いくつかの方法論的欠陥があったが、特に被験者の経過観察が不十分であった。前述のように、最終結果判定に参加したのは被験者のわずか67%であった。これは、選択
バイアスの可能性を上昇させる。しかしながら、研究者らは、補助分析の中で、選択バイアスにより研究の主要結論が変化するという兆しを見出せなかった。

Home Depot研究

新たなプロスペクティブコホート研究は、以前に行われたカリフォルニアのHome Depotストアでの腰ベルト使用に関するレトロスペクティブなコホート研究で得られた結論と矛盾している。Jess Kraus博士らは、Home Depotが強制的なベルト使用方針を実施する前の数ヵ月は、それ以降の数ヵ月よりも、腰部損傷の報告率が高かったことを見出した。そして、腰ベルトが有効な予防介入であるとの結論を出した(Kraus et al.,1996.を参照)。

しかしながら、この研究は、総合的な腰部損傷請求率の調査に基づいて結論を出しており、被験者に対する包括的なデータはなく、統計解析において様々な腰痛リスクファクターをコントロールしていなかった。

無作為研究に基づくエビデンス

Wassell博士らによる新規のコホート研究の結果は、腰痛予防における腰ベルトの役割を評価した、無作為研究の結果に一致する。

最近のコクラン共同研究グループのレビューでは、本分野における全ての適切な比較対照研究を検討したところ、腰椎へのサポートが腰痛の一次予防に効果があるというエビデンスは見つからなかった(表およびvan Tulder et al.,2000.を参照)。

しかしながら、Maurits van Tulder博士らは、彼らが確認した無作為研究のうち方法論的に質が高いとみなすことができるのは2つだけだと述べた(Krausらによる研究とvan Poppelらによる研究は、コクランのレビューにおいて「質が高い」との評価を受けた)。それらは、腰痛の予防および治療のための腰椎ベルトの有効性に関する、より質の高い研究が必要であることを示している。

The Backletter  No.26 October 2001

加茂整形外科医院