背部損傷の概念に焦点を定める

Taking Aim at the Concept of Back Injury


腰ベルトについての最新研究に関するJAMAの論説で、Nortin Hadler博士とTimothy Carey博士は、腰椎サポートに関するエビデンスについて論じただけでなく、現代社会の腰痛に対するアプローチを依然として支配している流行遅れの「損傷モデル」についても論じている。以下に、論説の一部を抜粋する。論説全文は、最新の腰ベルト研究と併せて、www.JAMA. comで無料で見ることができる(Hadler and Carey,2000.およびWassell et al.,2000.を参照)。

腰痛と背部損傷

Hadler博士とCarey博士は、腰痛と腰痛による就労障害に関するいくつかの一般的な誤解に焦点を定めている。彼らはまず第一に、労働者に見られる腰痛は一般的に損傷に起因するという認識に対し、異議を唱えている。

ほとんどの腰痛は別個の損傷または反復的外傷に起因するという、直接的なエビデンスはほとんど無い。「限局性の筋・骨格系障害が、他には具合の悪いところがない労働年齢の成人を悩ませているが、彼らは並はずれた身体的負担を受けているわけではない。勤務時間内に起きた腰痛でも、勤務時間外に起きた腰痛でも、転倒や直接的な衝撃、もしくは過度の身体的負荷に起因することはめったにない」とHadler博士とCarey博士は述べている。

治療を受けようとする行為と損傷

労働者が治療を受けようとする行為は疼痛の重症度や損傷の程度を直接反映していると、一般的に認識されている。

しかしHadler博士とCarey博士の意見は、そうではない。彼らは、労働者の対応能力こそ、腰痛エピソードに対する労働者の反応の重要な決定要素だと提唱している。そして次のように言及している。「その経験は、各人がエピソードに対応できる力を持っているかどうかに大きく依存する。疼痛の程度のみにより対応が妨げられるということではない。しかし、身体的能力が損なわれていても前向きに生活を営む方法や理由がなかなか見つけられない時、痛みは強くなる。この様にして増強した腰痛は、より忘れられないものになり、医療制度の中で“治療”を受けようとする行為に結びつきやすい」。

労災補償

労働者が腰痛や就労障害に対処できないとき、労災補償は、労働者にとって妥当な救済システムには必ずしもなっていない。残念なことに、労災補償システムは、腰痛にとって適切な構造であるとは思われない損傷モデルにしっかりと根差している。

Hadler博士とCarey博士によれば、「就労不能を招く限局性の腰痛は、身体的能力を損なう作業の結果として生じるか、もしくは作業の過程で生じるに違いないと、一般的に認識されている。まず”事故”が起き、その結果、背部損傷が生じたということになる」。

就労不能を招く限局性の腰痛を損傷のせいにする社会構造は、もしかすると医原性かもしれず、各人のどうにもできないという気持ちに対して、永続的な影響を及ぼしやすい。更に、この社会構造の永続化によって、改善の試みが妨げられてきた」。

心理・社会的影響に焦点を定める時

仕事における身体的要求を変化させることが、腰痛または腰痛による就労障害の発生に大きな影響を及ぼすという、無作為研究から得られたエビデンスはほとんど無い。

Hadler博士とCarey博士は、対応能力に影響を及ぼす仕事の状況や心理・社会的影響に、もっと注意を払うよう提案している。「非常に多くの腰痛を、忘れられないほど、そして仕事もできないほど、耐え難いものにする、勤務中・勤務外の生活における心理・社会的要素に焦点を定めるべき時である”と彼らは結論している。“その中にこそ、先進工業国が直面している最も緊急の公衆衛生問題に対する、有効な改善策があるかもしれない」。

参考文献:

Hadler NM and Carey TS, Back belts in the workplace, JAMA, 2000; 284(21): 2780- I . 

Wassell JT et al., A prospective study of back belts for prevention of back pain and injury, JAMA, 2000; 284(21): 2727-32. 

The BackLetter 16(1): 9, 2001. 

加茂整形外科医院