筋筋膜痛症候群(Myofascial pain syndrome) 

疼痛学序説(Patrick Wall 著 横田敏勝 訳)


線維筋肉痛症候群と異なり,筋筋膜痛症候群(myofascial pain syndrome)の痛みは1つの領域に限局している。圧迫が痛みを生じる圧痛点(トリガー点)がある。このときの痛みは、遠隔部に拡がり、患者が訴えていた痛みに似ている。トリガー点の下に、ピーンと張った筋肉の帯を触れる。

この帯にある筋肉を伸展したり、この帯に局所麻酔を注入したり、針を刺したりすると、痛みは緩和する。1930年代、初期の痛みの専門家のある人たちが、筋肉や靱帯の中に少量の高濃度食塩水を注射して、自分たち自身にこの病態に似た状態を再現した。痛みが注射部位から遠隔部に拡がり、丸1日間持続するのを感じた。

患者はトリガー点やピーンと張った帯のある筋肉を動かせないかもしれない。あるいは、その筋肉を動かせば痛みが誘発される。筋筋膜痛症候群のトリガー点は、鞭打ち症のような脊椎損傷部位に現れるかもしれない。多数の研究者がトリガー点の領域から採取した生体組織を調べたが,異常は発見されなかった。ピーンと張った帯は収縮している筋肉によって作られるが、この収縮は痙撃するほど強くない。一部の人たちの痛みは、2ヵ月間続き、後遺症を残さずに消矢する。対照と比較した研究はなされていないが、回復は局所の圧痛点の治療と、運動によって加速される。痛みが6ヶ月間あるいはそれ以上続くと、予後がだんだん悪くなる。圧痛点の局所治療は一時的緩和を生じるが、圧痛は戻ってくる。

これらの病態では、問題と原因が圧痛点になければならないと、患者たちが確信している。圧痛点にそれを納得させるような異常が見当たらないので、本書でもう馴染みになったサイクルが始まる。

多くの医師たちは、局所性の原因がない局所性の痛みはありえないと思い込んでいる。したがって、局所性の原因を証明できないので病気は存在しないと結論する。これは、赤ん坊から沐浴水を独断的に放ることと同じである。この病態については,検討に値する筋の通った仮説がある。たとえば、脊髄内の少数の運動ニューロンの興奮によって、興奮性が高まった領域にピーンと張った帯が生じる。そして、この領域が感覚を生じるというものである。実際には、原因がないこの
痛みは、医師たちがそれを観察したことを認めているのに、英国では正しい病名で診断されていない。

加茂整形外科医院