椎体形成術に関する警告は正当か?

Vertebroplasty Alarm Justified? 


FDAは最近、椎体形成術(vertebro-plasty)と亀背形成術(kyphoplasty)、およびこれらの治療で使用するアクリル骨セメント(PMMA)に関連する合併症のリスクについて、驚くほど厳しい公衆衛生通知を出した(FDA public Health Web Notificationを参照)。

この分野になじみのない人のために説明すると、椎体形成術とは、透視下で骨セメントと造影剤の混合物を用いて脊椎々体骨折を経皮的に修復する治療法である。亀背形成術はさらにその一歩先を行き、失われた椎体の高さを回復して脊柱の変形を防ごうとする方法である。破壊され
た椎体にバルーンを詰めて空間を造り、やはり透視下で、そこに骨セメントと造影剤を充填する。

FDAが指摘したように、脊椎骨の修復によって、重篤で死に至ることもある合併症がまれに生じることがある。通知によると、“これらの治療法に関連した合併症が文献で報告されており、FDAにも報告があった。軟部組織損傷および神経根の疼痛や圧迫といった、特に骨セメントの漏出と関係がある合併症が報告されている”。

FDAによると、“その他の合併症として、肺塞栓症、呼吸不全、心不全および死亡が報告されている”。PMMAセメントは、他の整形外科領域においては広範囲にわたって研究されてきたが、脊椎における使用については全く検討されていないと、FDAは指摘している。

しかし、FDAはアクリル骨セメントの使用に関する単純な警告を出しただけではなかった。これらの治療法に対して慎重になるよう医師に忠告することによって、椎体形成術/亀背形成術の全領域にわたって警告しているように思われた。

“われわれは、これらを骨粗髭症による脊椎の圧迫骨折の治療方法とみなす際に、患者の選択、椎体形成術と亀背形成術の技術、合併症、および患者のモニタリングに関する考察と勧告を承知しておくよう勧める”と通知は述べている。

FDAは、すべての重篤な合併症を、骨セメントもしくは医療用具の製造業者、またはFDA自身の自主的サーベイランスサービスであるMED-WATCHに報告するよう、医師に要請した。

FDAは、椎体形成術および亀背形成術における骨セメントの長期的な安全性と有効性を評価するための“適用のための規則”に関して、専門家組織および整形外科用具の製造業者に協力していると述べている。FDAは、それらの規制上の選択肢が何かについては説明しなかった。

整形外科医は警告に驚きを表明

複数の著名な整形外科医が、この領域における科学的エビデンスを考えると、正当化できないと示唆したFDA文書の警戒を呼びかける論調に対して、驚きを表明した。

最近のUPI通信の記事で、Boston UniversityのThomas Einhorn博士は、椎体形成術と亀背形成術は毎日世界中で実施されており、重篤な合併症はまれだと述べている(Woznicki,2002を参照)。

同じ記事でUniversity of California、San Diego校のStephen Garfin博士は、これらは安全かつ有効な方法だと述べている。Garfin博士は、“これら2つの方法の臨床成績はすばらしかった”と述べた。Spineに掲載された同博士の文献レビューは、成功率は95%に達し副作用は比較的少なかったことを明らかにした(Garfin et al.,2001を参照)。Garfin博士はUPI通信の記事で、“FDAは懸念しているが、私にはその理由がわからない"とも述べている。

不十分なエビデンスを反映?

しかし、FDA通知は椎体形成術と亀背形成術に関する研究が不十分であることを反映したものだという意見も聞かれる。彼らは、症例研究および単施設におけるコホート研究が主体の既存の臨床試験は、全く不十分だと述べている。無作為対照比較研究(RCTs)、多施設共同コホート研究および大規模調査研究が完了するまで、これらの治療法の安全性と有効性に関する包括的な主張はできないだろうと示唆している。

2年前、Jeffrey G.Jarvik博士とRichard A.Deyo博士は、Amirican Journal of Neuroradiologyの論説で、椎体形成術に関するエビデンスを批判した。博士らは、症例報告と症例研究に頼ると、新規治療の安全性と有効性に関する誤った有害な結論を導くおそれがあるとの意見を述べた。(Jarvik and Deyo,2000を参照)。

博士らは、この領域における対照比較研究、特にRCTsが不足していることが、科学的エビデンスのブラックホールだと示唆した。Jarvik博士とDeyo博士によると、“短期的な疼痛緩和は長期効果の良い前兆となるが、この短期効果すら認めている対照比較研究はない。明らかに、これらの短期効果が持続しない可能性があり、椎体形成術を受けた患者は、長期的には対照コホート集団よりも良くない、あるいは悪い可能性すらある”。

合併症を検討するのに症例研究は理想的でない

多くの人が椎体形成術と亀背形成術に関する体系的な科学的研究の”遅れを取り戻す”時だと主張するだろう

椎体形成術と亀背形成術は、公表された研究ではかなり安全であるように思われるが、症例研究および小規模コホート研究は、新規の外科手術に関係した合併症と有害作用を実証するのに理想的な手段でないことは明らかである。これらの研究における治療は、最も熟練した、新規の
技術に関する経験が最も豊富な医師によって実施されることが多い。これらの研究では、しばしば、経験の乏しい地域臨床医の治療成績は実証されない。

現代の整形外科および脊椎治療において、新規の技術を体系的な方法で段階的に導入しようという強力な運動がある。スウェーデンの研究者Henrik Malchau博士は2000年に、脊椎研究の段階的手順を提唱した。博士は、新しい外科技術を検討する第一段階は、適切に設計された無作為研究でなければならないと示唆した。それによって、注意深くコントロールされた状況で安全性と有効性を検討できるだろう。第二段階は、安全性と有効性をより広い医療環境で検討できるプロスペクテイブ多施設共同研究であろう。

“評価の最終段階である第三段階では、早期の、もしくは珍しい、重篤となりうる合併症を明らかにするため、大規模コホート集団に基づいた登録研究を用いることによって連続的対照群を設けることになる”[編集者注:登録研究では、特定の医療システムにおけるすべての患者の結果は、治療成績、合併症および治療パターンに関するルーチンの継続分析のためにデータベースに入力される](Malchau,2000を参照)。

椎体形成術と亀背形成術の場合、明らかにこのような研究進行手順には従わなかった。椎体形成術は、元々、癌患者の脊椎骨折の治療として考案されたもので、重篤で生命を脅かす可能性のある疾患の患者のQOLを改善する。

この治療法が米国に導入されると、良性の骨粗霧症による脊椎の圧迫骨折の治療という、異なる適用に対して盛んに用いられるようになった。言い換えると、椎体形成術は、異常なプロセスを経て広範囲の診療で使用されるようになった。“どのような種類の研究プロセスを用いれば、椎体形成術の安全性と有効性を最も効率的に確立できるだろう”とじっくり考えた人がかつていたのかどうか、これまでに公表されたエビデンスからはわからない。

理由はともかく、椎体形成術も亀背形成術も、新規の整形外科技術の研究に関するMalchauの手順の第一段階にまだ達していない。

多くの人が、椎体形成術と亀背形成術に関する体系的な科学的研究の“遅れを取り戻す”時だと主張するだろう。この分野についてはRCTsは不要だと主張する人がいるかもしれないが、それらは九分九厘行われるだろう。医療保険制度と第三者支払人が、それらを要求するだろう。

椎体形成術と亀背形成術の広範囲にわたる有用性を考えると、米国における対照比較研究に参加するよう患者と臨床医を説得するのは骨が折れるだろう。治療法の利点の均衡がとれていれば、RCTsを計画するのはずっと容易である。米国の多くの臨床医は、椎体形成術と亀背形成術が有効で安全であることを、すでに確信している。結局、そのような研究がもっと容易に実施される単一支払人システムが存在する、米国以外の国で、RCTsが行われることになるだろうと推測される。

しかし、安全性に関する懸念を鎮めるために、うまく設計された多施設共同コホート研究と登録研究を、米国および他の諸国において速やかに組織化できない理由はない。たとえ対照比較研究が存在しなくても、大規模コホート研究は、椎体形成術と亀背形成術に関連する、日常的な
合併症とまれな合併症を実証するのに大いに役立つだろう。

参考文献:

FDA Public Health Web Notification, Complications related to the use of bone cement in vertebroplasty and kyphoplasty procedures;www.fda.gov/cdrh/safety/bonecement.html.

Garfin SR et al., New technologies in spine: Kyphoplasty and vertebroplasty for the treatment of painful osteoporotic compression fractures. Spine, 2001; 26( 14):1511-5. 

Jarvik JG and Deyo RA, Cementing the evidence: Time for a randomized trial of vertebroplasty, American Journal of Neuroradiology, 2000; 21:1373-4

Malchau H, Introducing new technology: A stepwise algorithm, Spine, 2000; 25(3):285. 

Woznicki K. FDA issues warning about bone cement, United Press International, November 
5,2002;www.upi.com/view.cfm?StoryID=20021105-034405-3514r.

The BackLetter 17(12) : 133, 141-142, 2002.

加茂整形外科医院