腱障害に抗炎症薬は逆効果


〔米ペンシルベニア州フィラデルフィア〕 キール大学(英キール)外傷・整形外科のMerzesh Magra博士とNicola Maffulli博士は,イブプロフェン,ナプロキセンなどの非ステロイド抗炎症薬(NSAID)は腱障害(tendinopathy)患者に効果がないばかりか有害ですらある,とClinical Journal of Sport Medicine(2006; 16: 1-3)に発表した。両博士によると,tendinopathyは炎症性疾患ではないため,NSAIDを用いる生物学的根拠はないという。

無効なのに広く推奨

Magra,Maffulliの両博士は,tendinopathyとその治療に関する現在の認識程度を再検討した。tendinopathyは腱の酷使と関連する問題を述べる際の一般的な用語である。特に運動選手には一般的であるが,運動とは無関係に生じる場合があり,多くの関節部位にある腱で発症する。しばしば見られる部位として,アキレス腱,肘の腱(「テニス肘」),肩の回旋腱板が挙げられる。

これらの疾患の多くは腱炎(tendinitis)と呼ばれているが,正確な呼称ではない。接尾辞の“-itis”は炎症を意味するが,慢性的なtendinopathyには炎症は存在しないことが研究により示されている。炎症は疼痛,凝りなどの症状が定着する過程の一部であると見られる。しかし,慢性的なtendinopathyの回復が思わしくない際の特徴の一部ではない。

既に臨床試験では,tendinopathyの運動選手における腱の回復促進にはイブプロフェン,ナプロキセンなどのNSAIDの効果は見られないことが示されている。それにもかかわらず,NSAIDはさまざまな種類のtendinopathy患者に広く推奨されている。NSAIDは疼痛の軽減に効果がある。そのため,皮肉にも患者は早期の症状を見落とし,潜在的にさらなる腱の問題を招き,完治が遅れる。

両博士らは,腱細胞を移動したり活性化する戦略など,正しい腱の修復を促進する他の治療法を探る研究を行っている。その一方で,「NSAIDの使用を制限することも重要である。この疾患の病因や進展に対するわれわれなりの理解から,慢性のtendinopathyをNSAIDで管理することに科学的根拠はないと信じている」と述べている。

加茂整形外科医院