fear-avoidance model

特集  痛みの臨床心理学(理学療法23巻1号)


1) fear-avoidance modelの概念

慢性疼痛という難治な病態に患者を陥らせないために何ができるだろうか。急性期のうちに慢性疼痛に進展する症例を予測できないのか。痛みの慢性化と情動との関係について考え際、fear-avoidance modelが参考になる(図3)。人は身体に痛みを感じると、それを何らかの深刻な障害のサインなのではないかと考えて、多かれ少なかれ不安を感じるものである。この不安に対する反応の仕方としては、対時するか逃避するかの2つがある。向き合っていくことができれば、いずれ不安感は減弱していくが、逃避してしまうとその不安感は維持され、次第に増強していく。その結果、患者は身体への注意を過度に集中させ、また身体に害を及ぼす危険性のある行動を控えるようになる。これらが身体能力の低下や障害の増強,抑うつ気分の出現につながっていく。この不安と回避の悪循環の中で痛みが維持されてしまうというのがfear-avoidance modeIである。 

2)fear-avoidance modelの検証

では、実際に急性疼痛の段階で得られる何らかの心理学的要因が慢性化の予測因子となり得るのか。Siebenらは,初回発症の急性腰痛で3ヶ月以内に症状による著明な活動制限を来していない患者44名について調査している。質問紙票として、痛みに関する不安を評価するTSK(Tempa Scale for Kinesiophobia)、痛みの思考や感情を評価するPCS (Pain Catastrophizing Scale) 、痛みに関連する機能障害を評価するRMDQ(Roland Morris Disability Questiomaire)を用いて、初診時から2週間、3ヶ月後、12ヶ月後に評価したところ,初診後2週問で不安が次第に増強していった群において、12ヶ月後の障害の強さとの間に相関性がみられた。Klenermanらは急性腰痛患者300名で検討し、発症1週間以内と2ヶ月後における痛みによる不安と行動の回避が1年後の症状の予測因子となることを示した。1,571名の一般住人を対象としたコホート研究を行ったPicavetらは,痛みへの悲劇的な感情や身体を動かすことへの不安感が、6ヶ月後の腰痛の程度や、それによる障害の予測因子となることを示した。Pincusらによると、腰背部痛の慢性化に関与する心理学的要因として、心理的苦悩、抑うつ気分、身体化が挙げられている。また、急性腰痛患者において、腰痛の既往と痛みの強度しか症状慢性化の予測因子となり得ず、痛みへの不安感は含まれなかったという報告もある。


3)fear-avoidance modelの臨床応用

fear-avoidance modelを実際に理学療法に臨床応用して検討したGeorgeらの報告を紹介する。発症8週間以内の腰痛患者66名を、標準的な理学療法を行う治療群と、fear-avoidance modelに基づいた教育および段階的に負荷をかける理学療法を行う特殊治療群とに無作為に割り付けた。4週間の治療を行い、治療前後と6ヵ月後における痛みの強度、障害の程度と不安ー回避思考について比較・検討した。障害の程度の評価にはODQ (Oswestry Disability Questiomaire)を、不安ー回避思考の評価にはFABQ (Fear-Avoidance Beliefs Questiomaire)をそれぞれ用いている。その結果、面白いことに、不安ー回避思考が強い患者ほ.ど特殊治療が有効であり、同思考が乏しい患者には標準治療の方が有効であった。これは、患者の心理状態を把握できていなければ有効な治療プログラムを選択することができないということを示す。この結果より、患者の痛みを長引かせないためにも、患者の心理機制に応じた治療法の選択が必要であることがわかる。

加茂整形外科医院