最新のガイドラインは脊椎固定術についてどう述べているか?

What Do Recent Guidelines Say About Spinal Fusion? 


米国神経外科医協会から発表された固定術に関するガイドライン

主要な外科団体から最近発表された腰椎固定術に関するガイドラインは、脊椎固定術を支持するエビデンスについて楽観的見解を示し、治療選択肢の中での位置づけピ関して大胆な説明を行っている。

米国神経外科医協会(AANS)から発表されたガイドラインは、腰椎の固定術を、狭窄または脊椎すべり症を伴わない1または2椎間の変性性疾患による難治性腰痛を有する、慎重に選択された患者に対する、“標準”治療とみなすよう提言している。

標準治療とは、“臨床的確実性の高さを反映した、一般的に受け入れられている治療原則”であるので、確かにAANSのエビデンス評価手順に基づいて固定術を標準治療に定めたことは、大いに賞賛される(Resnick et al.,2005;American Association of Neurological Surgeons, 2005を参照)。

AANSガイドラインは、認知行動療法と組み合わせた集中的リハビリテーションを、変性性疾患の患者に対して効果を示す可能性のある、治療“選択肢”とみなすべきだと結論づけた。AANSガイドラインによると、治療選択肢とは、“[決定的でない、あるいは相反するエビデンスまたは意見に基づいて]臨床的有用性が不確実な、その他の患者治療ストラテジー”と定義される。

AANSガイドラインは脊椎固定術を含む広範な問題に取り組んだ。文献検索と標準化されたガイドライン作成プロセスに基づいて、AANSの神経外科医および北米脊椎学会の整形外科医からなる委員会によってガイドラインが作成された。ガイドラインは2005年6月にJournal of Neurosurgery:Spine誌に発表された。ガイドライン作成委員会は、1つの章で、狭窄または脊椎すべり症を伴わない難治性腰痛に対する固定術の役割について述べた。

ガイドライン作成委員会は、主としてスウェーデンの腰椎研究に基づいて、脊椎固定術が標準治療であるという結論に到達した。外科医である著者らはこの研究を“クラスIのエビデンス”(“1つ以上の質の高い臨床試験によって得られたエビデンス”)に分類した。

スウェーデン脊椎研究に対する主な批判は、前述のように、対照とした保存療法の性質に関するものであった。AANSガイドラインはこの問題について少しだけ言及した。しかしガイドライン作成委員会は、この問題は無作為比較研究(RCT)の総合的な結論を揺るがすようなものではなかったと結論づけた。

ガイドラインでは、Ivar Jens Brox博士が発表したノルウェーのRCTについても考察した。これは非特異的腰痛の患者におけるインストルメントを併用した固定術を、集中的リハビリテーションと認知行動療法を組み合わせた治療と比較した研究であった(Brox et al.,2003[a]を参照)。

”手術は機能的障害の改善に関して、認知療法と運動を組み合わせたプログラムと同様であるという、中程度のエビデンスが存在する”

最近の体系的レビューにおけるRCTの方法論の客観的尺度によると、スウェーデンの研究とノルウェーの研究の方法論の質は同様だと推測されるが、AANS委員会は異なる結論を出した。委員会は、標本の大きさ、広い信頼区間、および対照群の性質に関する懸念に基づいて、ノルウェーの研究を“クラスVのエビデンス”(“専門家の意見、症例集積研究、症例報告、および既存対照を用いた研究によって得られたエビデンス”)に格下げした。

このレビューの選択基準および締め切り期限のため、ガイドライン作成委員会は、Fairbank博士らのRCT, Brox博士らによるノルウェーの2番目のRCTを含むいくつかの重要な研究および研究の最新情報を考慮に入れることができなかった(Fairbank et al.,2005;Brox et al.,2003[b]を参照)。

同じく、固定術の利点が一時的なものであったことを見出したスウェーデン腰椎研究の中間アウトカムに関する報告を検討することもできなかった(Fritzell et al.,2004[b]を参照)。

すべてのエビデンスを入手した後であれば、AANSガイドラインのこの章の結論が変化したかどうかはわからない。最新の研究は、固定術が臨床的確実性の高い標準治療であるという説を文字通り揺るがした。それらの研究からは、変性性椎間板疾患に対する脊椎固定術の役割に関する臨床的確実性は、徐々に目減りしているように思われる。

慢性腰痛の管理に関する欧州ガイドライン

最近の欧州のエビデンスに基づくガイドラインは、脊椎固定術を非特異的慢性腰痛の治療に用いるのは例外とすべきだと提唱している。ガイドライン作成委員会は、慢性腰痛患者が固定術を検討する前に、利用可能であれば認知行動療法を組み合わせた運動トレーニングのコースを含む保存療法を2年以上行うよう勧告した(van Tulder et al.,2004を参照)。

209ぺージからなるこのガイドラインは、European Commission Research Directorateがスポンサーとなり、Maurits van Tulder博士が委員長を務めた集学的委員会によって作成された。ガイドラインでは、RCTに関する1つの体系的レビューと、その他の体系的レビューに基づいて、客観的基準を用いた方法論の質の評価が行われ、エビデンスの総合的な強度を評価するための構造化された手順に従った。

Van Tulder博士らは、脊椎固定術を非特異的慢性腰痛のための保存療法と比較したFritzell博士ら、Brox博士ら、およびFairbank博士らによる3つのRCTは、方法論の質は同様に高かったものの、いずれも小さな欠陥および懸念される部分があったことを見出した(Fritzell et al.,2001;Brox et al.,2003[a]; Fairbank et al.,2005を参照)。

3研究はいずれもOswestry活動障害度を主要アウトカム尺度としていたが、患者選択基準および対照治療が均一でなかったため、3研究で得られたデータを併合して解析することはできなかった。スウェーデンの腰椎研究には2年以上の保存療法が無効であった患者が含まれたのに対して、英国とノルウェーの研究には1年以上の保存療法が無効であった患者が含まれていた。

スウェーデンの腰椎研究では、患者がすでに一度効果が得られなかった非特異的保存療法が研究参加のための必要条件であったことを、ガイドラインの著者らは指摘した。結果として、この対照設定は、良くてもプラセボ治療、悪ければノセボ(nocebo)治療とみなすべきである。ノルウェーおよび英国の無作為研究では、幾分似ているが同一ではない形の運動と認知療法を含む集中的リハビリテーションが用いられた。

総合的に、ガイドライン作成委員会は、選択された重症の慢性腰痛患者に対して、固定術は治療後2年間にわたり、機能的障害と疼痛において非特異的保存療法よりも有意な利点を有するということに関しては、“限られた”エビデンス(1つのRCTから得られたエビデンスを意味する)しか存在しないと結論づけた。

委員会によると、“手術は機能的障害の改善に関して、ノルウェーまたは英国で行われた認知療法と運動を組み合わせたプログラムと同等であるという中等度のエビデンス「複数のRCTで得られたエビデンスを意味する]が存在する”。

ガイドラインは、様々な形の脊椎インストルメントの使用を伴う、より複雑で高度の技術を要する術式は、より単純で安全な、費用のかからない、内固定を行わない後外側固定術と同様、有効ではないことを示す“強力なエビデンス”(複数の質の高い無作為研究で得られたエビデンス)が存在すると結論づけた(これらの問題に関する更なる考察はvan Tulder et al.,2004を参照)。

全体的にみて、これらのガイドラインは今後、脊椎固定術の役割を制限するよう勧告た。van Tulder博士らは、“手術による合併症の発生率が高いこと、さらには社会が負担する費用および手術後のfailed back surgery syndromeの患者の苦痛を考えて、我々は、注意深く選択された重症の疼痛患者のみをこの術式の対象として検討することを強く推奨した”(van Tulder et al.,2004を参照)という。

The BackLetter 20(9):105-106.2005.

加茂整形外科医院