痛みの学際的アプローチ、アメリカでは

沖藤晶子(ユタ大学麻酔学科準教授)

「痛みのケア」慢性痛、がん性疼痛へのアプローチ(監修・編集 熊澤孝朗)より


(マルチディシプリナリー:多くの専門家が集まって)

●マルチディシプリナリーとインターディシプリナリーでは、治療哲学が異なる

 

表1.学際的ペインケアセンターで治療を受ける患者の特徴
継続的な痛みを訴える
機能障害が重い
精神的苦痛が高い
オピオイド系の鎮痛薬を常用している
薬物の多剤併用
医療機関の消費量が多い
労災事故や怪我が痛みの始まるきっかけだったケースが多い
痛みのため手術治療を受けたケースが多い
表2.学際的ペインセンターの内容

チーム医療の実践

教育

リサーチ

チームメンバー 研修教育 研究者と臨床専門家のコラボレーション
○医師 継続教育 EBM臨床医療の実践
○看護師    
○臨床心理士    
○理学療法士    
○職業訓練士    
○薬剤師    

など

   
表3.学際的ペインケアプログラムの例:1日のスケジュール
8:00〜8:25 ウォームアップ、柔軟体操
8:35〜10:35 理学療法・職業訓練・心理セラピー(個人)
10:45〜11:15 看護師によるセルフマネジメントスキルトレーニング
11:15〜11:45 リラクセーショントレーニング
12:00〜12:55 昼食・スタッフミーティング
13:00〜13:55 理学療法・職業訓練・心理セラピー(個人)
14:00〜14:55 痛みの医学教育
15:00〜15:55 認知行動療法
16:00〜16:55 プールセラピー

注:これは2001年に筆者が所属していたワシントン大学のペインセンターで行っていたプログラムの1例

注:(個人)と注釈の入っていないものはすべてグループ治療

表4.学際的ペインケアの治療効果
痛みの緩和 20〜30%減少
機能障害の改善 患者の65%で改善(対照群は35%)
職場復帰率 患者の65%(対照群は26%)
身体障害補償費受給者 50〜69%減少
オピオイドの使用 治療前69%の患者が使用していたのが、1年後22%に減少(対照群は81%〜75%と変化なし)
治療後の医療施設の利用度 治療後に入院や手術を受ける患者の割合16%〜17%(対照は47%)

治療後の受診回数1/3減少

 

●慢性疼痛を扱うには包括的ケアが必要

●学際的ペインケアに紹介されて来る患者は機能障害・精神的障害が重く、治療困難な慢性疼痛の患者が多い

●ペインセンターは、多専門職の学際的チームにより、身体医学的治療、心理療法、理学療法、認知行動療法など多角的な痛み治療を行う。ペインクリニックは主に身体医学的な単一モードの痛み治療を行っている

●学際的ペインケアでは、患者の総合的アセスメントとすべての臨床スタッフによるスタッフミーティングが欠かせない

●学際的ペインケアの評価は、痛みの緩和だけでなく、職場復帰、傷害保険請求の終結、過剰医療の利用など多岐にわたる

慢性疼痛の患者の痛み緩和は、機能の改善が始まってから起こることが多い

●米国では、慢性疼痛の患者へのオピオイド使用について20年前は否定的だったが、長時間作用するタイプが開発され、比較的安全に使うことができることから慢性疼痛の治療の主流になってきている

●学際的ペインケアは、多くの専門家がかかわり経費のかかる医療だが、長期的・総合的にみると社会的なコストの削減にも貢献している

加茂整形外科医院