情動としての痛み・知覚としての痛み

ペインクリニックの現況

並木昭義(札幌医科大教授・麻酔学) 川真田樹人札幌医科大講師・麻酔学)

特集麻酔科医療の現況と課題 日医雑誌第135巻・第4号/平成18(2006〕年7月


I.痛みの発生と原因

1.情動としての痛み・知覚としての痛み

古くアリストテレスは痛みを快楽の対極にある体験や、不快を表す感情(情動)の一種と考え、
17世紀に入りデカルトは痛みを特別な受容器と伝導路をもつ、視覚や聴覚と同様な感覚(知
覚)の1つと概念付けた。

現在、両者の考えを統合し、痛みは「実際に組織傷害に伴ったか、あるいはその可能性がある場合や、そのような傷害があると述べられる不快な知覚、あるいは情動の体験」とされる(国際疼痛学会、1986年)。

この定義のとおり、痛みには情動と知覚の両面があることが、神経生物学的にも明らかとなった。

痛み刺激を受けると痛みの特徴を認知し、過去の類似の痛みを想起し、痛みの強さを予見し
対処しようとする。これが知覚としての痛みである。

一方、痛み刺激を受けると、その時点の情動や過去の痛みによる情動体験の影響を受け、痛みの強さや不快度が決定される。これが情動としての痛みである。

末梢からの痛み情報は、知覚と情動に作用する上行路が、それぞれ独立して末梢神経→脊髄→脳に至り、脳のレベルで両者が統合される(図1)。

一方、情動などの脳の活動が、脳からの下行性ニューロンの活動を変化させ、脊髄での痛みの強さを抑制あるいは増強する。



CGRPやSPなどのペプチドを伝達物質にもつ一次知覚神経(Aδ線維、C線維)は脊髄後角U層ニューロンに入力し、V層を経て傍小脳脚核、視床(VMPo)へと出力し、島、前帯状回、3a野へと投射する。この経路は主に情動としての痛みの経路と考えられる。

非ペプチド(主にグルタミン酸)を伝達物質にもつ一次知覚神経(C線維)は脊髄後角I層ニューロンに入力し(一部はU層を経由する)、ここから視床(VP,VPl,VPL)を経て3b野へと投射する、この経路は痛みを認知(知覚)する経路と考えられる。

CGRP;カルシトニン遺伝子関連ペプチド、SP;サブスタンスP、IB4;イソクレチンB4、P2×3;ATPレセプタ、VMH;視床下部腹内側核、VMPo;視床後腹内側核、VP;視床後腹側核、VPI視床後腹側下核、VPL;視床後外側腹側核

(Craig AD : Nat Rev Neurosci 2002 ; 3 : 655-666/Braz JM, et al :Neuron 2005 ;47 : 787-793より引用、改変)


(加茂)

痛みの定義・痛みの二面性

http://junk2004.exblog.jp/5644629/

加茂整形外科医院