慢性疼痛(SNRIの臨床試験:SSRIとの比較<SNRIの薬理、臨床、安全性:他世代の抗うつ薬との比較)

CNS SPECTRUMS


痛みとうつは共通の精神薬理学的な基盤をもつことが古くから示唆されており、5-HTやNAの再取り込みを阻害する化合物が慢性疼痛や身体症状を軽減させることが知られている。疼痛を和らげる作用には、5-HTよりもNAの役割が重要であることも示唆されている。実際に、糖尿病性神経因性疼痛や帯状庖疹後神経痛のような様カな神経因性疼痛に対してSSRIではなくデュアルアクションのTCAが有効であることが知られている。慢性腰痛に対する様々な抗うつ薬の治療成績のメタ解析において、NA再取り込み阻害作用を有するTCAや四環系抗うつ薬の鎮痛効果が認められているが、SSRIの効果は認められていない。

線維筋痛症を含む慢性疼痛症侯群に対するvenlafaxineのオープン試験においてその有用性が示唆されている。Venlafaxineの鎮痛作用は、糖尿病性神経因性疼痛に対する二重盲検プラセボ対照試験においても確認され、VenlafaxineERの5-HTとNAの両方の再取り込みを阻害する用量(150-225mg/日)においてプラセボに対して有意な鎮痛作用を示した。疼痛性ニューロパチーを対象としたvenlafaxine225mg/日、イミプラミン150mg/日およびプラセボによる二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験が実施された。その結果、両薬物共にプラセボより有意な鎮痛作用が認められたが、両薬物間の鎮痛効果には有意な差を認めなかった。さらには、乳がん治療後の13人の疼痛患者を対象とした小規模プラセボ対照クロスオーバー試験において、venlafaxineが有意な疼痛緩和作用を示したことが報告されている。

ミルナシプランの慢性疼痛に対する効果は、舌痛症、脊椎管狭窄症による疼痛および線維筋痛症を対象としたオープン試験で実証されている。線維筋痛症を対象としたプラセボ対照試験において、ミルナシプラン100mgx2/日により37%の患者の疼痛が50%以下に軽減されたが、プラセボ群ではわずか14%の改善にとどまった(Pく0.05)。

大うつ病を対象とした、duloxetineの二重盲検プラセボ対照試験において、VASと身体症状の評価が実施され、duloxetine60mg/日の疼痛強度がプラセボに対して有意に改善されていた。疼痛症状を有するうつ病患者における試験においても、duloxetine60mg/日においてプラセボに対して有意な疼痛緩和作用が認められている。この試験においては、うつ症状に対してプラセボと有意な差がなかったのにもかかわらず、うつ病と関連した身体的な疼痛症状の有意な改善が認められている。

線維筋痛症に対するduloxetineとプラセボによる比較臨床試験において、duloxetine120mg/日は、患者のうつ病の有無や程度に関係なく線維筋痛症の症状と疼痛を改善したが性差を認めている。すなわち、女性患者では、測定されたほとんどの項目においてプラセボに対し有意性が認められたが、男性患者では、プラセボとの差を確認できなかった。

疼痛に関する比較的初期の研究において、疼痛を緩和させるためにはノルアドレナリン神経に対する単独作用もしくはノルアドレナリン神経とセロトニン神経の両方に対する作用が必要であり、SSRIの効果はあっても弱いことが示唆されていた。TCAとvenlafaxineは帯状癌疹後神経痛、糖尿病性神経因性疼痛、線維筋痛症のような神経因性の慢性疼痛症候群に有効であることが示されてきた。その一方で、fluoxetineやcitalopramのようなSSRIでは鎮痛効果が認められていない。広範囲にわたる基礎研究や臨床研究をまとめたFishbainらの総説では、デュアルアクションの抗うつ薬は選択的NA再取り込み阻害薬やSSRIのようなシングルアクション作用の抗うつ薬よりも優れた鎮痛効果を有していると記載されている。

しかしながら、SSRIはある程度の疼痛軽減作用を有するかもしれないことを示唆する報告もある。例えぱ、プラセボ対照試験において、fluoxetineが線維筋痛症の女性患者の疼痛やその他の症状を有意に軽減したことが報告されている。さらには、頭痛、胃腸痛、耳鳴り、線維筋痛症および慢性疲労などの評価を含む、94件のプラセボ対照試験からのメタ解析においても、TCAやSSRIの鎮痛効果は同等であったと報告されている。同じ著者によって線維筋痛症を対象とした13件のプラセボ対照試験のメタ解析が報告され、同様の結論を導いている。最近になって、SSRIであるcitalopramと選択的NA再取り込み阻害薬であるreboxetineによる身体表現性疼痛障害を有する35人の患者による小規模の二重盲検試験が報告された。その報告によればcitalopramのみに有意な効果が認められたとされるが、小規模研究であるため結論を下すにはさらなる追加試験が必要である。

2003年に慢性腰痛を対象とした7件の臨床研究のメタ解析が報告され、NA再取り込み阻害を有するTCAと四環系抗うつ薬に鎮痛作用を認めたが、SSRIには効果が認められていない。VenlafaxineとSSRIを比較した31件の二重盲検試験のプール解析において、うつ病に随伴する身体症状に対してSNRIであるvenlafaxineの効果がSSRIを有意に上回っていたことが報告された。特に身体症状の完全寛解に至った患者比率はvenlafaxineがSSRIを有意に大きく上回っていた。

今日では、デュアルアクションの抗うつ薬(TCAとSNRI)はうつ病に伴う疼痛や様々な慢性疼痛症候群のような身体症状の緩和に対して非常に有用であることを公平な立場で断言できる。SSRIにも同様の効果があるかもしれないが、一致したエビデンスに乏しい。比較試験の解析においてもデュアルアクションの抗うつ薬の優位性は一貫している。SNRIであるミルナシプランとduloxetineの慢性疼痛改善作用が注目されており、より大規模な比較試験が進行中である。近い将来に、慢性疼痛に対するこれらSNRIの有用性がエビデンスベースで判断されるはずである。

加茂整形外科医院