ストレッチの盲点 トリガーポイントの除去法

痛みと歪みを治す健康ストレッチ

伊藤和磨 (フィジカル・コーディネーター)著  池田書店


「痛みのある箇所のみを治療してもだめ」

人も動物も、身体というものは、足の先から頭のてっぺんまで、すべての部位がお互いに影響し合い、支え合って、絶妙なバランスの上で成り立っています。よって、痛みのある箇所のみに集中して治療を施しても意味はないのです。

痛みの「要因」となるものを根絶するために、ひとつひとつ時間をかけて処置していくのと、「現れている症状や主訴」にのみ、対処していくのでは、そのゴールはまったく違うということです。

たとえぱ、ある患者が「パンパンに肩が張っているんです」と訴えたときに、張っている部位をただもんでもだめなのです。その下に潜むしこりを見つけて潰さない限り、表面の張りはまた数日後に、元にもどってしまうのです。そのしこりのことを「トリガーポイント」といいます。

ニキビの芯と同じで、芯を出さなければ何度でも膿む…つまり何度で'もこるのです。これがマッサージに行っても、しばらくすると同じところがこってくる理由です。

「ストレッチにも弱点はあるのです」

マッサージ、針、カイ□、整体、ストレッチ…。それぞれに長所があり、また弱点があると私は考えています。万能なものなどあり得なし、逆に万能であることを唱った治療院の看板などを見ると、胡散臭さを感じてしまいます。

そして、この本のテーマであるストレッチにしても、カバーできない弱点があります。それがトリガーポイントの除去」なのです。

トリガーポイントが存在する部位の筋肉は、ストレッチで伸ばしても、完全に元の筋肉の長さに戻りにくいものなのです。たとえていうと、こんがらがってしまった糸が、ダマになってしまって、それを両端から引っばっているような感じです。

トリガーポイントは、その”ダマ”に直接、手を加えなければ、ストレッチをしても、取り除くことはできません。筋肉を伸ばす…筋肉を”点”ではなく”線”で捉えるストレッチにおいての泣き所ということです。

ただし、トリガーポイントの除去は、痛みの元を取る上で外せません。ストレッチではありませんが、この除去法を紹介しておきましょう。

「筋肉のダメージで細胞が酸欠状態に」

トリガーポイントの発生については、未だこれという決定的な説がありません。日本では、あまり一般的なものではなく、「トリガーポイント?さあ、知りませんねえ」と言う治療家もいるくらいです。

私は医学博士ではないので、トリガーポイントの発生に関する学術的な詳細は彼等にお任せします。よって、ここではトリガーポイントが発生し形成されてからの症状と、その処置についてお話しましょう。

習慣的に悪い姿勢を持続したり、仕事やスポーツで、同じ動作を何回もくり返して、一部の筋肉を酷使したり、また打撲や捻挫を放置した場合(=この場合は血腫をいう)などに、その筋肉はダメージを受けてしまい、本采の働きが出来なくなってしまいます。

すると今度は、その部位の血液の循環が低下し、老排物が溜まってしまいます。その部位は血液不全(=血液の運搬が上手くいかないこと)が起きているため、細胞が必要とする酸素が供給されず、一種の酸欠状態になり、細胞は活性化されなくなります。

「トリガーポイントをゼロにするのは困難」


そして、その部位の特に顕著な所に何らかの化学反応が起こって発生するのがトリガーポイントです。あずき大から、梅干し大までと、大きさは様々ですが、これが人々を苦しめているのです。

いったん出来てしまうと、それをゼ□のまっさらな状態に戻すのは、大変難しいのです。

仮に何らかの処置をして、しこりを小さくしても、しばらくして疲労をためると、いつのまにか元通りの大きさのしこりになってしまいます。

「しこりの真ん中を垂直に押す除去法」

そしてトリガーポイントのもうひとつの特徴は、「関連痛」といって、そのしこりから生じる痛みやしびれを、他の部分へ飛ばすことです。

ひどい偏頭痛の原因が肩や首の筋に発生したトリガーポイントにあったり、指先のしびれの原因が胸筋に発生したトリガーポイントにあったりするのです。特に非常に良く見られるケースとして、臀筋にしこりが発生し、その痛みが腰から腿の裏側を経て、かかとの方までしぴれを出すことがあります。これを整形外科医がヘルニアによる神経障害と間違えたりするわけです。

では、どうすれば、この小さな爆弾を退治できるのでしょうか?

トリガーポイントを除去することを、私は「散らす」と表現しています。「散らす」ためにはある程度のテクニックと経験が必要となりますが、自分でできる「散らし」方があります。

それは周囲にあるものを工夫して使い、30秒以上の適度な圧を、患部に加えてやることです。ここで言う「適度な圧」とは、感覚的に「痛気持ちイイ!!」というものです。

トリガーポイントに圧を加えると、周囲にもズーンと響きます。ただしトリガーポイントの真ん中を垂直に押さないと、そのしこりが左右に渦ってしまいます。自分一人で、すべてのトリガーポイントを除去するのは、不可能ですが、痛みの主訴となる部位にマトを絞れば、取り除くことができるはずです。

「首・肩・背中&腰それぞれのやり方」

では、その除去法を部位ことに分けて、具体的に紹介しましょう。

まずは首(=頸部)から。

浴槽につかりながら、浴槽の内側の縁に痛い部分を押し当ててください。するとコリッとするしこりが、首に存在しているハズです。それがトリガーポイントです。

要領としては、しこりを「感じる」部分を浴槽内側の縁に押し当てて、そこが伸びて張るようにアゴを引いたり、出したりして調整します。上手くポイントにヒットしていて、さらにそこの筋肉を伸ぱすことに成功すれば、「ううっ!!」と声が出てしまうほど、何とも表現し難い快感が湧き起こるはずです。

首に当てる物としては、椅子の背もたれの角、ゴルフボールなどもよいでしょう。ただし頸椎は繊細な箇所でもありますので、あまり硬過ぎる所や鋭角なものは避けてください。

次に肩です。棒を担ぐようにして、肩の痛むところ(=コリッとしている所)にヒットさせれば良いのですが、この棒に値する物がなかなか見あたらないのです。公園の鉄棒のように水平に固定されている物が身近にあればいいのですが…。

たとえば机の縁に身体を斜めにして当てるという方法もあります。猫が背中をこすりつけているようにも映り、あまり格好がよくないですが、とにかく近くにある物を工夫して使ってみてください。

「しこりに当てたら30秒は動かないこと」

最後に背中から腰にかけてです。背中は、柱の角に立ったまま寄りかかって押しつけたり、階段の手すりに押し当ててもよいですし、またテニスボールやゴルフボールを床に置いて、痛む所に仰向けになって、ボールに乗るように押し当ててもよいでしょう。犬が地面で背中を掻くようなイメージでやってみてください。

腰は、テーブルの角にタオルを当てておいて、腰の痛むところに当ててもよいでしょう。角であればどこでも大丈夫です。ただし角とは言っても、直接、患部を当てるのは刺激が強すぎます。加減が分かるまでは、タオルなどで常にワンクッション置くことをお忘れなく。

いずれの部位についても言えるのは、上手くヒットさせたら、そのまま30秒は動かないことです。しこりを30秒刺激して、バッと離す。それを2〜3回くり返せば、徐々に血液の循環が正常に戻り、痛みが和らいでいきます。ポンプを押して水などを勢いよく吸い上げるのと同じ要領と考えればいいでしょう。

加茂整形外科医院