線維筋痛症の診断と対応:原因不明な痛みと向き合う

聖マリアンナ医科大学教授難病治療研究センター長  西岡久寿樹

線維筋痛症対策の現状と展望. Pharma Medica 2006; 24(6), 9-13.より


「原因不明な痛み」が投げかける現代の医療が抱える問題点

 筆者自身、リウマチ学の一分野の立場から線維筋痛症にかかわりを持って10年近くになるが、今でも多くの患者が、客観的エビデンス(検査所見におけるポジティブ所見)がないという理由だけで、いくつもの医療機関や診療科をたらい回しにされている状況がある。心身ともに疲弊しきった多くの患者を見るにつけ、現在の医学・医療は「何か」を忘れてしまっているような気がしてならない。

また、大学院大学構想が具体化され、本来総合科学として行われていた臨床医学教育が、「パーツ」教育と化してきた。エビデンスを重視する余り、はっきりとポジティブ所見が出ない叙述的な症状に対する対応が著しく苦手な医師を養成しているのではないかと思われる。こういった状況も、このような患者群を「見逃し」たり、「放置」したままにしている背景にあるのではないかと、自戒の意味を込めて付け加えておきたい。

身体の「痛み」であろうと心の「痛み」であろうと、客観的な所見がなくても患者の訴える痛みに対して、医師は真摯にそれを共有・共感することが臨床医学の原点である。そのような意味においても、線維筋痛症の診断や治療は臨床の現場で直面する種々な問題点を提起していくのではないかと思われる。

加茂整形外科医院