MRI画像によ り新しい腰痛エピソードの説明がつく ことはまれである(MRI上でよく見られる異常と結びつけることには慎重を要する)

MRI Scans Rarely Offer an Explanation for New Episodes of Low Back Pain

Clinicians Should Be Wary of Linking Pain to Common Abnormalities 


重篤な新たな腰痛エピソードが出現すると、12週間以内に早期MRI画像が撮影されることが多い。医師はその腰痛を、新たな所見と推定されるMRI上の構造的異常、すなわち線維輪の断裂、椎間板の突出、終板の変化に起因していると推測することが、ままある。その結果、推定された病因の治療につながる手順が実行に移される。

しかしこの診断過程は大抵無駄な骨折りになる。EugeneCarragee博士らの賞を受けた研究によると、MRI画像で観察された異常と重篤な新たな腰痛エピソードに時間的関連性が存在する確率は10分の1以下である。

腰痛出現後12週間以内に撮影したMRI 所見が、臨床的に重要な新たな構造的変化である可能性は極めて低い」とCarragee博士は述べている。

「数年前からのべースライン画像が手元になければ、医師はMRI画像を見て '腰痛の原因がわかりましたよ'と言うかもしれない。 しかし我々の研究からは、その医師が見ているのは現在の腰痛出現の原因である可能性は低く、以前から存在する異常である可能性が高いことが明らかである」。

さらにCarragee博士は「したがって、 これらを原因とするには非常に慎重であるべきと考える」 という。Carragee博士は北米脊椎学会の年次総会で新規研究を発表し、優秀論文賞を受賞した(Carragee et al.,2006を参照)。

慢性疼痛のMRI所見については?

一方、持続性の腰痛の場合には、MRI所見をどの程度重視すべきだろうか?

学会参加者の一人は次のように述べている。「そのMRI所見が新たな異常ではなくても、腰痛の原因となり得る所見を有する患者が多く存在することは確かである。そうした患者に対して保存療法を行うこともあるが、腰痛が続くこともあり、また難治性の慢性的な疼痛障害になることもある。 どの時点で調べ直し、患者の疼痛とMRI所見とを関連付けるのか?」。

非常に重要な疑問

Carragee博士の答えは次の通りである。 「それは非常に重要な疑問である。MRI所見は症状の原因の全てなのか?症状の原因の一部なのか?それとも症状の原因は何か他にあるのか?それはわからない」。

「10年前には、私は今よりも確信をもってこの質問に答えていた。以前は、MRI上の異常を指摘して 'これが今回の症状発現の原因です' と言う傾向にあった。今はそれほどの確信はもてない」。

Carragee博士はMRI上のほとんどの所見が、 どの程度重要かがはっきりしないことであると指摘している。「地域住民をべースにした調査を行った場合、MRI上で異常が認められる人々のほとんどはおそらく無症状である。 したがって、疫学的観点からみて'このMRI所見の異常があなたの腰痛の原因です' と言うのは難しい」。

Carragee博士は続けた。「症状の引き金になると報告された事象についても同じことが言える。生活の中で自然に経験するあらゆる出来事の中で、 1999年7月14日に車(Chevy Suburban)から降りたことが腰痛の原因だった、 と言うのは難しい。 しかし人間はそのように考えるものである」。

根拠のない仮定か?

しかしHospital for Special Surgeryの放射線科医であるRichard Herzog博士はCarragee博士の結論に対して「MRI所見が新しいものではないというだけでは、それらが疼痛発生源ではないということにはならない」と、疑問を呈した。

同博士は、以前から存在するMRI上の異常が実際に症状の原因である可能性があると提言した。「例えば推間板に起因する疾患の場合、微小な外傷によって炎症誘発物質が増加した可能性があり、これが症状の原因となり得る」。

Herzog博士は、医師はしばしば症状の発生源を推測すると述べている。Herzog博士によれば、「高齢患者の膝のX線画像を調べると多くの人に関節炎性の変化がみられるが、これらは無症状である。だからといってこれは、関節炎が症状および異常な画像所見を有する患者の疼痛の発生源ではないと結論付ける理由にはならない。画像所見が以前から存在していたというだけでは、それが症状の病因に関与していない、ということにはならない」。

原因となる指標はあるのか?

「腰椎における高度な[変性性]脊椎症が症状の発生源かもしれないという意見には確かに同意する」とCarragee博士は答えた。同博士は「これがある時点で症状として現れる可能性はある。あるいは軽度の腰痛であったものが、ある時点で活動障害性になる可能性はある」ことを認めた。

「しかし我々が明らかにしようとしたのは、'それが現れると患者がA地点からB地点に移動する、すなわちかなり良い状態から重篤な症状のある状態へと変化するという、指標となる徴候が存在するのか' ということであった。そして少数の下肢痛患者を除いて、そのような徴候は見つからなかった」。

言い換えれば、ほとんどの腰の異常に関して、因果関係を証明する“動かぬ証拠”はMRIでは得られない。

 プロスペクテイブコホート研究

carragee博士らは斬新な研究デザインを用いてMRI上の変化と腰痛との関連を検討した。これまでの疫学研究において、脊椎の異常のほとんどは無症状の被験者にも症状のある被験者にも一般的に認められるということが実証されている。そして痛みを伴う腰の異常と痛みのない腰の異常にどのような差があるのかは明らかになっていない。

この疑問に答えるために、連続MRI撮影像を用いた多数のプロスペクテイブコホート研究が行われてきた。これらの研究では一般的に被験者のべースラインにおけるMRI 画像を撮影し、数年後に再び撮影した。次にこの期間に出現した腰痛を患者に思い出してもらい、MRI上の異常との関連を検討した。一般的にこれらのプロスペクテイブコホート研究では、よく見られた画像所見と新たな腰痛の出現の間に強い時間的関連は見出されなかった。

しかしCarragee博士らは、これらの研究は重要な関連を見落とした可能性があるのではないかと考えた。博士らは、患者が数ヵ月前または数年前に出現した腰痛を正確に思い出せなかった可能性があると推測した。 また、一部のMRI上の変化は腰痛出現直後の数週間しか出現しなかった可能性があるとも推測した。

3つの主要な仮説

そこで博士らは、新たな腰痛の出現の直後にMRIを撮影することが可能な研究デザインを用いて、3つの主要な疑問について検討する計画を立てた。

  1. 重篤な持続性腰痛の初回エピソードに関連してMRI上に特定の新しい所見が認められると仮定した。Carragee博士は「少なくともかなりの割合の被験者について、MRI上に疼痛出現の原因を説明する指標となる徴候を見つけられると予測した」と述べている。

  2. さらに、椎間板の突出、線維輪の断裂、および終板の異常のようなよく見られる変性性の異常は、疼痛エピソードに関連する解剖学的な特徴であると仮定した。

  3. また、単に朝起きたら腰が痛かったという被験者よりも、具体的な外傷性事象を報告した被験者において、特定のMRI所見と腰痛との関連が認められることが多いと仮定した。

結局、研究結果は研究者らの予想を裏切るものであった。

腰痛リスクを有する200例の被験者コホート

Carragee博士らは、変性性椎間板提患、になりやすい素因はあるが重篤な腰病を経験したことがない男女200例のコホートを対象に研究を行った。以前に頸椎推間複へルニアの治療を受けたことのある患者集団から被験者を募集した。

頚椎変性と腰椎変性の重複が多いことから考えて、被験者が腰椎にも多くの異常を有することは確実であった。研究対象集団の50%では以前に腰椎以外の慢性疼痛症候群を経験したことがあったため、被験者募集方法からも被験者が腰痛疾患の有意な神経心理学的危険因子を有することが裏付けられた。

全ての被験者がぺースラインでMRI、理学所見の評価、病歴と職歴の問診、および心理テストを受け、40%の被験者が誘発性椎間板造影検査を受けた。画像検査および心理テストは、被験者の臨床状態について知らされていない第三者が評価した。

Carragee博士らは、疼痛の強度と持続期間から重篤な腰痛を定義した。すなわち、ビジュアルアナログ疼痛スコアが10ポイント中6ポイント以上(最大疼痛を10ポイントとする)、1週間以上持続する症状を有することとした。

 期間中は定期的に、第三者の治験アシスタントが被験者に何らかの腰痛、重篤な腰痛、および活動障害を伴う腰痛の発生に関して質問した。治験アシスタントは被験者に対して重大および軽度の外傷の既往についても質問した。

医師を受診した被験者のうち、重篤な腰痛(ビジュアルアナログ疼痛スコアが10ポイント中6ポイント以上で1週間以上持続するものと定義)を有し、腰痛出現後6-12週間以内に新たなMRI像を撮影した被験者を解析対象とした。

コホートの25%に重篤な腰痛が出現しMRI撮影を実施した

200例の被験者を5年間にわたり追跡調査したところ、51例(コホートの25%)に重篤な腰痛が発現して規定の期間内にMRI検査が行われていた。これら51例の被験者は合計69回のMRI検査を受けており、研究チームはそのうち67回の検査結果を入手した(労災補償請求中の被験者15例を含む16例はMRI検査を2回受けていた)。

2名の放射線科医が盲検でこれらの被験者のべースラインおよび新規のMRI画像を分析し、腰痛とMRI上の新たな異常の相関性を検討した。研究デザイン上でのバイアスを避けるため、被験者の画像を他の患者の画像と無作為に混合して評価した。

放射線科医がL2〜S1の腰椎の評価を行った(腰椎スキャンではT12および、L1の一貫した視覚化が得られなかったため、これらは解析から除外した)。放射線科医は標準MRI評価プロトコールを使用した。2名の画像の評価が一致しなかった場合は、3人目の読影専門医が最終判断を行った。

新たなMRI所見は非常に少ない

べースライン時の画像と新たな腰痛エピソードの直後に撮影した画像を比較したところ、新たなMRI所見は非常に少なかった。そしてそれらのほとんどが臨床的に重要ではないと判断された。

Carragee博士によると「最もよく見られる新しい所見または進行性の所見は椎間板髄核の信号消失であったが、これが重篤な新たな疼痛エピソードと関連している可能性は低いようである。2番目に多かったのは椎間関節炎であった」。

Carragee博士の説明では「新たな線維輪の断裂が2例、権間板の突出または脱出が3例、および新たな終板の変化が2例認められた」。

重篤な腰痛が出現した被験者のうち、症状と関連する可能性の高い新たな画像所見が認められた被験者は2例のみであった。2 例とも脊椎由来の下肢痛を有した。

1例の被験者には重篤な新たな椎間板脱出があり、他の1例には新たな変性性脊推すべり症(すなわち新たなすべり)が認められた。これらの所見からCarTagee博士は、新たな腰痛エピソードよりも新たな下肢痛エピソードのほうが画像上の異常に関連する可能性が高いと考えられるとしている。

べースラインでの画像には多くの異常が認められた。4分の1で線維輪の断裂があり、3分の1で椎間板へルニアが認められた。医師がべースラインの画像を見ずに最近撮った画像を見たら、 これらの異常が症状の原因であると推測したかもしれない。 しかし、この仮定を支持する説得力のあるエビデンスは存在しない。

「したがって画像は慎重に読影する必要があり、 これらの一般的に見られる異常が症状の原因であると推測してはならない」とCarragee博士は述べている。

低い確率

2種類の画像の比較分析に基づいて、画像上でよく見られる異常が新たに出現した所見とみなされる確率の算出が行われた。Carragee博士によれば「MRI上に新たな異常が認められる確率は10回に1回〜15回に1回の間であった」。さらに博士は、「線維輪の断裂が新規のものである確率は12回に1回、終板の信号の変化が新規のものである確率は12回に1回、推間板の突出および脱出については15回に1回であった。グレードIIIおよびWの椎間板変性が新規の所見である確率は9 回に1回であった」と付け加えた。

この研究からは、軽度の外傷を受けたことのある被験者において腰痛エピソードを説明する画像所見を認める確率が高いわけではないということも明らかになった。carragee博士は「実際には、軽度の外傷を受けたことがあると述べた被験者では新たな画像上の変化が認められる可能性が低かった」と述べている。

この研究に盲点があるか?

この研究には方法論上の盲点があると主張する人がいるかもしれない。前述のようにCarragee博士らは、重篤な腰痛を有する被験者のうち、医師を受診し症状出現後12週間以内にMRI画像を撮影した被験者のみを対象とした。

しかし、医師の受診または早期のMRI撮像に至らなかったその他の腰痛症例の場合はどうであろうか? このような症例では新規のMRI所見と腰痛との関連が認められたのではないか?

Carragee博士はこのことが盲点である可能性を認めている。この問題を解決する唯一 の方法は、研究計画を立てた時点で、5年間の試験中に発生する全ての重篤な腰痛エピソードに対して早期にMRI撮像を行うよう取り決めることであったと思われる。

「全ての被験者でMRI撮像が行えるような研究デザインにすることもできると思う」とCarragee博士は述べた。 しかしこれには、おそらくかなりの費用がかかる。そして全ての腰痛患者のMRI撮像を義務づけることは、一部の一過性腰痛愁訴の不必要な医療対象化につながる可能性が十分にある。

Carragee博士は、 より多くのMRI画像を撮影してもおそらく結果は変わらないと指摘している。同博士は、今回の研究が被験者のMRI画像を数年間隔で撮影した以前のプロスペクテイブコホート研究と非常によく一 致すると述べている。「間隔をあけた撮像でも、我々が用いた研究デザインによる撮像の場合とほぼ同じ結果が得られる」とCarragee博士は述べている。

参考文献:

Carragee E et al.Arefirst-time episodes of low back pain associated with new MRI findings?, presented at the annual meeting of the North American Spine Society,Seattle,2006;as yet unpublished.

TheBackLetter21(10):109,116-118,2006.

加茂整形外科医院