固定術と労災補償

Fusion and Workers' Comp


オハイオ州で現在行われている研究からは、労災補償請求中の腰痛患者における脊椎固定術の役割について新たな疑問が生じている。

本研究において、腰痛治療で腰椎固定術を選択した労災補償請求中の被験者725例のうち、驚くことに64%は術後1年以上経過しても依然として休職中であった。復職して1年間継続して働いていた被験者は6%しかいなかった。

20%の被験者には重大な術後合1并症がみられた。そして憂慮すべきことに、経過観察期間中の再手術実施率は27%であった。

これらの被験者において、固定術は疼痛緩和用の麻酔薬の使用の増加という結果を招いているように思われた。90%の被験者は経過観察時にも依然として麻酔薬を月長用していた。

筆頭著者で労国商生の専門家であるuniversity of Cincinnati College of MedicineのTrang Nguyen博士は「不良アウトカムは非常に気がかりである。腰痛のある労働者の状態はもっとよくなるはずである」と述べている。

しかしこれらは進行中の研究の最初の中間報告にすぎないとNguyen博士は強調する。不良アウトカムに手術の問題、労災補償状態に関連する被験者のジレンマ、および/または被験者自身の身体的・心理社会的特性がどの程度関連しているかは明らかではない。また、アウトカムが手術の適応にどの程度影響を受けるかも明らかではない。

Nguyen博士らはオハイオ州の労災補償請求中の腰痛患者における固定術のアウトカムの特性を明らかにするために歴史的コホート研究を行っている。

Nguyen博士の最初の報告、2006年のプライマリケアフォーラム(オランダ、アムステルダム)における発表では、研究方法に関する説明と症例に関する予備的説明が行われた。Nguyen博士らは現在もオハイオ州労災補償データベースの対照被験者に関するデータ収集を続行中である(Nguyen et al.,2006を参照)。

Nguyen博士によれば、“腰椎固定術を受けた労働者を、ICD-9診断の結果が同様で同じ時期に手術以外の治療を受けた労働者とマッチングさせる”こと、つまり、比較可能な者同士を比較して、この集団における腰椎固定術の役割を洞察したいと考えている。

 Nguyen博士らがこの研究を実施している理由は、一般の人々、特に労災補償請求者では腰痛治療における脊椎固定術の価値が不明であるためである。

労災補償対象者の腰痛に対する腰椎固定術、特に椎間板変性または椎間板に起因する疼痛の治療としての腰椎固定術は、過去に論争を巻き起こしたことがある。ワシントン州で活動障害のある労働者における固定術のアウトカムについて調べた1994年の研究では、術後の活動障害率、再手術率が高く、腰痛の緩和が不十分であることが明らかになった。“負傷した労働者に実施された腰椎固定術のアウトカムは、症例集積研究で報告されたものよりも悪かった”とGary M. Franklin博士らは言及した(Franklin et al.1995 を参照)。

その後実施された複数の小規模研究では、労災補償請求中の被験者における脊椎固定術に関して相反するアウトカムが報告されている。2005 年の北米脊椎学会の年次総会で発表されたNicholas Ahn博士らの研究では、椎間板に起因する疼痛のために1、2、または3椎間の固定術を受けた患者63例の術後アウトカムを調査している。

Ahn博士らによると“推間板疾患、に対する腰椎固定術を受けた労災補償患者が完全障害の状態に留まることは実際にかなりある”。“1椎間の固定術の後の完全障害率はほぼ25%である”。“2 椎間および3椎間の固定術を受けた患者の術後の完全就労障害率はそれぞれ70%および100%であった”(Ahn et al.2004を参照)。

Ahn博士ら解究は3つの州から労災補償被験者を登録したため、論争を巻き起こした。批判的な人々は、労災補償方針は州によって著しく異なるので、これらの症例は比較できない可能性があると指摘した。

Nguyen博士らの研究については、このような問題は生じないはずである。同博士らは、医療記録を含めて1999〜2006年のオハイオ労災補償データベースの全てを入手することができる。そのため、似たような労災補償規定の適用対象となる多数の被験者について調べることができる。 この研究規模は、様々な腰痛(椎間板変性、その他の変性性疾患、脊椎すべり症、椎間不安定性などに起因する疼痛など)の診断を受けた患者を適切に比較できるものとなるはずである。

この研究グループでは、症例および対照の両方の被験者を少なくとも2年間追跡調査する予定である。 この研究に用いるアウトカム指標は、職場復帰、活動障害の状態、再手術率、術後合併症の発現率、および手術前後の薬物使用量などである。治療を行う医師はこれらの指標をすべて被験者で用いてはいないため、研究グループはビジュアルアナログ疼痛データまたは標準化された機能障害質問表のデータを入手することはできないであろう。

労災補償コホートに関する研究者らの結果の仮説は次の通りである。(1)50%の被験者が仕事を再開する、(2)30%の被験者に永続的な活動障害が残る、(3)40%の被験者が重大な術後合併症 を経験する、(4)20%の被験者が再手術を受ける、(5)25%の被験者が長期にわたり鎮痛薬の服用を続ける。BackLetterでは、 この興味深い研究のその後の結果を入手次第報告する予定である。

参考文献:

Ahn N et at. Rate of total disability after lumbar discogenic fusion in the Workmen's Compensation population, presented at the annual meeting of the North American Spine Society, Philadelphia, 2004; as yet unpublished.

Franklin GM et at. Outcome of lumbar fusion in Washington State workers' compensation, Spine, 1995 ; 1 9: 1213-5 .

Nguyen T et at., Functional outcomes of lumbar fusion among the Ohio workers' compensation subjects, presented at the Primary Care Forum VII[, Amsterdam, Netherlands, 2006; as yet unpublished.

The BackLetter 21(11 ): 121 , 130-131 , 2006. 

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