人工椎間板の研究に対する新規の体系的レビューの手厳しい批判

New Systematic Review Offers Acid Criticism of Research on Artificial Discs 


スペイン政府当局の支援を受けて最近行われた体系的レビューは、現在までの椎間板置換術に関する研究に対して最も痛烈かつ重大な批判を行った。Spanish Back Pain Research Network のGerard Urrutia博士らは、椎間板置換術の有効 性と安全性、ならびに”椎間板に起因する疼痛”を診断カテゴリーとすることの妥当性について疑問を呈した (Urrutia et al.,2006を参照)。

それだけでなく、 同博士らはさらに踏み込んで、椎間板置換術に関する研究の過程全体に欠陥があり改善が必要であると提言した。

共著者のFrancisco Kovacs博士は、シアトルで開催された北米脊椎学会の年次総会で発表の際に 「椎間板置換術を標準治療として実施するにはさらなる研究が必要であると考える」と述べた。

Kovacs博士は 「椎間板に起因する疼痛を有する患者を確実に同定できる妥当な方法の存在を実証するための研究も行うべきである」と述べている。

同博士は、「有効性が実証されている治療と人工椎間板を比較するための無作為割付け、評価および解析を行う質の高い無作為化比較研究が必要である」と提言した。

また「これら解究のデザインおよび実施は企業から独立して行われるべきである」とも述べている。

「このエビデンスがない限り、人工椎間板は賛否両論のままとなる可能性が高い」 と同博士は主張している。

企業から独立した研究は可能か?

椎間板置換術に関する新しい体系的レビューの発表されたセッションの座長を務めたのはTexas Back Instituteの脊椎外科医Richard Guyer 博士であった。 Guyer博士はCharité人工椎間板(Johnson &Johnson/Depuy Spine,Raynham,MA) を評価するFDA管轄下の無作為化比較研究に参加していた。博士はその経験に基づき、企業の参加なしに臨床研究を実施する可能性やその必然性には懐疑的であると述べた。

 Guyer博士は「このような研効が企業から資金提供を受けたり、企業によって実施されるのは好ましくないとのことであるが、これらの研究は脊椎手術に関してこれまでに実施された中でも最も優れた無作為化比較研究の部類に入るものであり、これらの研究は莫大な費用を要するものであった」と述べた。

Guyer博士は、国立衛生研究所やその他の資金提供機関は一般にこの種の研究を実施するための資金提供は行わないであろうと指摘した。「であれば企業の支援を受けずに医師である我々がこれら解究の資金を拠出することは非常に難しい」と同博士は述べた。

Kovacs博士は、Guyer博士は自身の立場を誤解していると説明した。Kovacs博士は、企業は新しい医療機器や手技に関する無作為化比較研究(RCT)のための資金を提供すべきであるが、研究デザインおよ解究の実施を管理することはなく、このような研究を営利的な影響を受けずにデザインおよび実施できる独立した機関に対して資金を提供すべきであると提言している。

スペイン政府当局の委託による体系的レビュー

ここで新しいレビューについて簡単に説明する。Spanish Agency for Health Technology Assessmentは、“椎間板に起因する”疼痛の治療における椎間板置換術の重要性を評価するためのレビューを委託した。

Urrutia博士らは2006年6月1日までに発表された医学文献のうち、椎間板置換術の安全t生、臨床1研究での有効性(efficacy)、市販後の医療 現場での有効性(effectiveness)、および費用対効果を検討するプロスペクティブ研究を検索した。また、安全性に関するデータが記載されたプロスペクティブ研究についても同定した。

その結果、304例の患者を対象としてCharité人工椎間板とBAKケージを用いた固定術とを比較したFDA管轄の終了済み多施設共同RCTを見出した(FDA、2004を参照)。さらに、大規模研究に参加する単一施設の患者を対象とした3件のRCTを見出した。

体系的レビューの研究方法評価システムによると、Charité人工椎間板に関するFDA管轄の研 究の質は“低かった”。Urrutia博士らの見解では、Charité人工椎間板による治療を受けた患者の転帰は不良であった。博士らによると、“臨床的および社会的変化の改善は小さく、次善の策である外科的治療[BAKケージを用いた固定術] による改善と同程度であった”。

Kovacs博士は「43%の被験者は治療が全般的に無効であった。“全般的に成功した”患者のうち64%は手術の2年後に鎮痛剤を使用していた」と述べている。

ProDiscはどうか?

レビューの著者らは、ProDisc-L(Synthes Spine, West Chester, PA)を用いた椎間板置換術 を全周固定術と比較したFDA管轄のRCTに関する詳細な報告書について検討していないが、これはレビュー終了時点でこの報告書が入手可能ではなかったためである(Delamarter et al.,2006 を参照)。したがってレビューのこのセクションは中間報告とみなすべきである(この研究についての説明は本誌p.4-p.6を参照)。レビューの著者らは大規模研究に参加したサブグループの3件のRCTについて検討し、これら研究結果に一貫性が認められなかったとしている。

包括的な結論

全体的にみて、Urrutia博士らは、椎間板置換術が慢性腰痛の治療として安全かつ有効であるという決定的なエビデンスを見出すことができなかった。このレビューは“利用可能なエビデンスによると、人工椎間板は比較的ハイリスクの次善の治療法[BAKケージを用いた固定術など] と同程度の治療法である” と結論l付けている。 Kovacs博士は発表の中で「[推間板置換術]により臨床的に重要な有効性(effectiveness)の改善につながるというエビデンスはなく、費用対効果に優れているというエビデンスもない。[椎間板置換術]の施行はリスク上昇を招く」と述べている。

レビューの著者らはまた、 これらの機器(device)の若年患者における長期耐久性および再手術の安全性について懸念を示している。

Urrutia博士らは、Charité人一i推間板とProDiscの両者について検討しているFDA管轄の研究での対照治療の選択について批判している。Kovacs博士のコメントによれば「BAKケージを用いた固定術と全周固定術はいずれも、特に非劣性研究では、比較のための絶対標準とはみなせない」。これは、BAKケージおよ能周固定術がl果存療,法またはプラセボより優れていることを証明するRCTはないという事実を暗に指したものである。

混乱を招くデータの雪崩状態

スペインの研究者らは、推間板置換術に関してのFDA管轄の部分的な研究結果を医学文献上 で発表するという方法に対して批判的であった。 Kovacs博士は「混乱を招くような一貫性のないデータが雪崩のように押し寄せている」と述べている。

Kovacs博士らは、患者のサブグループに関する報告を発表することで新しい医療機器の安全 性と有効性について早過ぎる期待が生じることを避けるため、主たる研究であるRCTが終了するまでは研究データの報告を待ちたいと考えている。Kovacs博士は、これらの結果の報告は、「科学的理由ではなく商業的理由によって行われたように感じる」と述べている。

最後に、スペインの研究者らは前述のように、商業的バイアスおよびバイアスの出現を避けるため、新しし手術用の機器(device)および手技についての主たる研究としてRCTをデザインおよび実施するための企業委託から独立した機関が設置されることを望んでいる。

Kovacs博士の説明によれは、博士をはじめとするスペインの研究者らは、マットレス業界に対し研究資金を提供してもデザインやその実施には関与しないよう説得することで、 マットレスと腰痛に関する独立した研究を実施した実績を有する。 

参考文献 :

Delamarter R et at., Lumbar total disc replacement with the ProDisc-L artificial disc versus fusion: A prospective randomized controlled multi-center Food and Drug Administration IDE trial, presented at the annual meeting of the North American Spine Society, Seattle, 2006; as yet unpublished.

FDA, Summary of safety and effectiveness: Charite artificial disc, 2004; www.fda.gov/cdrh/PDF4/p040006b.pdf.

Urrutia G et at., Systematic review on the efficacy and safety of intervertebral disc prostheses in the lumbar spine, presented at the annual meehg of the Norh American SpineSociety, Seattle, Washington; 2006; as yet unpublished. 

The BackLetter 21 (1 1): 126-127, 2006 

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