椎間板へルニアに関連する坐骨神経痛の治療について、最近発表されたSpine Patient Outcomes Research
Trial (SPORT)では、多数の研究者と臨床医が保存療法を選択することに疑問を呈している。
SPORTの著者らは、椎間板手術を標準化された保存療法と比較するのではなく個々の患者に合わせた保存療法と比較する.ことを選択した。言い換えると、研究の保存療法群のすべての患者が同じ治療法を受けることにはならない方法を選択したのである
(Weinsteinet at.[a],2007;Weinsteinetal.[b],2007を参照)。
最近、lAMAのletter to the editor欄にこの方法を疑問視する投稿が掲載さた。university of Michiganの理学療法医であるAndrew Haig 博士は、なぜリハビリテーションの専門家ではなく外科医が観察コホート研究の保存療法群の患者の治療を担当したのか、なせ著者らは標準化された保存療法を選択しなかったのかという疑問を呈した(Weinstein
et al.[b], 2007;Haig,2007を参照)。
「SPORTに参加した医師は主として外科医であった。また、対照群で使用された保存療法が標準化されていないことは重大である」とHaig博士は投稿で述べている。
Haig博士は、脊椎固定術と保存療法を比較した最近の無作為研究から標準化された体系的なリハビリテーションプログラムを実施すべきとの結果が得られていると指摘している(Brox
et al.,2003;Fairbank et al.,2005を参照)。 博士の投稿は、SPORTにおいてもそうした方法を取ることが妥当であった可能性を示唆しているようであった。
これに対して、SPORT研究チームのJon Lurie博士らは、標準化されたリハビリテーションプログラムを使用しなかったのは、そのようなプログラムが坐骨神経痛の治療法として認められていなかったからであると答えている。「Haig博士が引用した研究は、原則として適切な対照群を置くことが重要であることを指摘するものである。
しかし、集中的なリハビリテーションは慢性腰痛に関する研究では治療に重要な役割を果たすのに対して、急性椎間板へルニアによる重症の坐骨神経痛の治療にもこれが同様の役割を果たすというよいエビデンスは存在しない」
と述べている(Lurie et al.,2007を参照)。
Lurie博士らはSPORTの保存療法が外科医と外科医以外の医師の両者によって行われたことも指摘した。そして自身らの研究では、この2種類の医師の間で治療法や治療強度に差はみられなかったと述べた。
SPORTの著者らはSPORTで使用された保存療法が最適のものではなかったとは考えていない。著者らは「SPORTにおける保存療法のアウトカムは非常に優れており、文献でこれまで報告された結果よりもかなり良好であった」ことを指摘している。例えばSPORTの保存療法群の患者はMaine Lumbar Spine Studyの坐骨神経痛患者よりも有意に良好なアウトカムを示した(Atlas
et al.,1996を参照)。
実際には、SPORT研究では部分的に標準化された一連の保存療法が使用された。保存療法プロトコールでは、共同意志決定、標準化された教育用資材、能動的な理学療法、自宅での運動に関する力ウンセリング、および忍容性がある場合の非ステロイド系抗炎症薬投与を推奨している。 しかし参加医師は、こうした基本的な方法以外にも様々な有効な可能性のある治療を自由に行うことができた(詳細はWeinstein
et al.[a]2007を参照)。
それではなぜSPORTでは保存療法を1種類に限定しなかったのか? その理由のひとつはThe
Backleter Vo1.22,No.5,2007の巻頭記事で論じた問題に関係する。これまでの臨床研究で、椎間板へルニアに関連する急性坐骨神経痛患者の治療において他のすべての治療法よりも優れているというただひとつの治療法は確認されていないからである。研究者らは有効な治療を同定しようと努力を続けている。
Lurie博士は最近電子メールで「[SPORTの保存療法群で標準化された保存療法を使用しない] という決定には3つの主要な理由がある」と述べている。Lurie博士によれば、第一
の理由は「坐骨神経痛の治療法としていずれか1種類の保存療法が他の治療よりも優れているというエビデンスが存在しないからである」。
第二の理由は患者が研究に参加する資格を得る前の6週間以上にわたり保存療法を受けていなければならなかったからである。したがってLurie博士はたとえSPORTへの組み入れ後に標準化された保存療法を用いたとしても、患者が受けた総合的治療が、多様性に富むものであったことに変わりはないと述べている。
最後の理由は、SPORTの著者らが、脊椎専門クリニックで現在行われている坐骨神経痛の治療を正確に反映した多様な治療法を、費用対効果の分析において検討したいと考えたからであった。
SPORTにおける保存療法のアウトカムは非常に優れていた・・・ |
参考文献:
Atlas SJ et at., The Maine Lumbar Spine Study, Part II: One-year outcomes of
surgical and nonsurgical management of sciatica, Spine, 1996; 21: 1777-86.
Brox JI et at ., Randomized clini-ca1 trial of lumbar instrumented fusion and cognitive
intervention and exercises in patients with chronic low back pain and disc
degeneration, Spine, 2003 ; 28: 1913-21.
Fairbank J et at., Randomized con-trolled trial to compare surgical stabilisation of
the lumbar spine with an intensive rehabilitation programme for patients with
chronic low back pain: The MRC Spine Stabilisation Trial, BMJ, 2005; 330: 1233-9.
Haig A, Nonoperative treatment for lumbar
disk herniation, lAMA, 2007; 297: 1545.
Lurie JD et at ., Nonoperative treat-mont forlumbar disc herniation, lAMA, 2007; 297:
1545
Weinstein IN et al. (a), Surgical vs.nonoperative treatment for lum-bar disk
herniation, The Spine Patient Outcomes Research Trial (SPORT): A randomized
trial, lAMA, 2006; 296:2441 50.
Weinstein IN et at . (b), Surgical vs. nonoperative treatment for lumbar disk
herniation: The Spine Patient Outcomes Research-Trial (SPORT) observational
co-hort, lAMA, 2006; 296:245 1-9.
The BackLetter 22(5): 49, 58, 2007.
(加茂)
椎間板へルニアに関連する急性坐骨神経痛
相も変わらずの論調にはがっかりするではないか。痛覚神経C線維のどこでどのようなメカニズムで脱分極が生じて脳に伝わるというのか?