診断上の分類の影響:エビデンスはどこにあるのか?


腰痛の診断上の分類は・患者に悪影響を及ぼすことがあるというコンセンサスが広がりつつある。しかしながら、その主張の根拠となる(臨床経験や間接的報告を超える)ような貴重なエビデンスはほとんどない。「私の知る範囲では、この問題に関する研究はありません」と、Nikolai Bogduk博士は述べており、この分野の研究が困難であることに言及している。そして、「“より肯定的な分類”の利点を立証することは容易ではないと思います。その効果はあまりにも微妙なものでしょう」と述べている。彼は、不適切な分類が及ぼす有害な影響について研究するほうが容易かも知れないと推測し、次のように述べている。「エビデンスとなるかもしれないのは、変性のような、誤った分類が及ぼす悪影響です。既に頚部についての文献において、脊椎症[変性]の診断を下すことが、無駄な整形外科受診の増加につながることが明らかになっています」と述べている。

Richard A.Deyo博士は、腰痛・障害カンファランスで、病態に当てはめた分類が患者の行動を変化させることを裏付ける十分なエビデンスがあると指摘した。しかし彼は、その点を説明するために、心血管系の文献に記載された科学的研究の例を挙げなければならなかった。

我々が腰痛に当てはめている分類は、非常に大きな問題であり、それらが患者の障害を生む一因になっていると思います。良質な研究をデザインするというのは難しいかもしれませんが、この分野において更に多くの研究がなされることを私は願っています」と、Deyo博士は述べた。

また、最近では「私は、(腰痛患者の研究による)いかなる直接的エビデンスも把握していません。しかしある意味では、症状のない患者のCTおよびMRIスキャンに関する幾つかの研究は、問題があることを示唆するのに役立ってきたと思います。もし“膨隆した椎間板"”が通常は病因として重要でないのなら、それらを発見したり分類したりすることに問題があると考えられます。臨床経験および間接的報告によれば、患者は診断を重要視するようであり、すぐさまそれらを腰痛の“原因”であると考えるのです」と述べている。これらの分類が、行動や態度も変化させるようである。

英国のUniversity of Huddersfieldのプライマリーケア研究者、Kim Burton博士も、この分野における、よりいっそう良質な研究が必要だと考えており、科学的に検証された分類に関する新しいアイディアを知りたいと考えている。

「より適切な分類と、腰痛に対するよりいっそう前向きの態度を奨励するという考え方は、全く理にかなった仮説であり、研究の難しさは他の多くのプライマリーケア治療と同等でしょう」と彼は述べた。しかしながら、研究の規模については考慮すべきであろう。新しい分類の効果がわずかなものだとすると、プラスの効果を観察するにはかなり大規模の研究が必要になる可能性がある。

Burton博士は、Evidence-based medicineの運動により、プライマリーケアの場における腰痛に関する信念や態度の改革に相当の労力が費やされた点に注目している。例えぱ、英国の腰痛ガイドライン(Royal College of General Practioners発行)では、腰痛に対するよりいっそう前向きの態度を推奨することが強調された。

「前向きな助言を与え、悲観的な助言を避けるよう一般医に求めたRCGPガイドラインのパンフレツトのアドバイスは、腰痛に対する臨床医の姿勢を変革するための小さな一歩なのです」と、Burton博士は述べている。付録の患者向け小冊子「The back Book」でも、前向きな助言を促していた(RCGPガイドライン、1999年を参照のこと;The back Bookは、オンラインで入手可能である。アドレスはwww.itsofficial.net(高度の検索機能を使用のこと)。

しかしBurton博士は、腰痛に関するあらゆる前向きな助言は、メディア、家族、一般の文化および医学界の権威から発せられる、より悲観的な情報という不協和音と競合しなければならないと指摘している。腰痛に対する態度の根本的な改革がなされるまでには、長い過程を要することとなるだろう。


RCGP Clinical Guidelines for the Management of Acute Low Back Pain. London. Royal College of General Practitioners; 1999.

加茂整形外科医院