臥床安静、理学療法それとも通常の活動?

Bed Rest, PT, or Normal Activity?

THE BACK LETTER  No.31より


坐骨神経痛の治療に関する最新の大規模研究で、対照的だが同じように妥当な2通りの解釈が裏付けられた。さて、あなたの選択は?

解釈T:オランダの大規模無作為対照比較研究(RCT)において、よく用いられている坐骨神経痛の2種類の治療法には効果がないことが判明した。理学療法プログラムでも、7日間の臥床安静でも、患者に日常生活の通常の活動を再開させた対照群よりも大きな効果は得られなかった。

この研究の著者らは、手に入る科学的エビデンスが、急性坐骨神経痛の治療として理学療法または臥床安静を行うことを支持しているとは考えていない。むしろ、患者は自分の通常の生活様式に戻ろうと努め、たとえ症状があっても活動的な状態を維持すべきだと考えている。

Derk J. Hofstee博士らによると、“臥床安静と理学療法は坐骨神経痛の良い治療法として長年に渡り支持されてきたが、最新のエビデンスによると、それらは有効ではない。われわれは、患者に坐骨神経痛の原因、経過および予後について説明し、鎮痛薬を投与し、可能な限り日常生活の活動を継続してよいと保証する治療方針が、回復に悪影響を及ぼさないことを主張する"(Hofstee et al.,2002を参照)。

解釈U:理学療法、臥床安静および日常活動再開のアドバイスという、一般的に行われている坐骨神経痛の3種類の治療法による結果は、疼痛、活動障害および手術実施率に関して同様である。

これらの結果は、患者が痛みのある椎間板ヘルニアの症状に対処する際に、数種類の方法を選ぶことが妥当であることを示唆している。

横になりたければ、数日間ベッドで寝ていても害はないだろう。もっと専門家と顔を合わせての治療や管理を希望する人は、理学療法を選ぶだろう。症状があってもそれほど苦痛を感じずに働き続けられる人は、日常生活の通常の活動の早期再開を選ぶことができる。

心強い結果

患者がどの方法を選ぼうと、最新研究は、坐骨神経痛の経過について心強い情報を提供している。本研究は、急性坐骨神経痛の患者の大多数は、厄介な下肢痛や活動障害から着実に回復することをはっきり示している。

たとえば、活動再開群の患者は研究開始時の平均疼痛スコアが100点中65.5であった(疼痛なしを0、最大疼痛を100とする)。疼痛スコアは1ヵ月後には平均42.1に下がり、2ヵ月後には28.2にまで下がった。6ヵ月後の時点で、この群の平均疼痛スコアはわずか17.7であった。同じく活動障害スコアも6ヵ月問で着実に改善した。臥床安静群と理学療法群の患者の回復パターンも同様であった。

しかし、すべての患者の坐骨神経痛が、無事良くなるわけではない。本研究では250例の患者のうち54例(21.6%)が、重度の疼痛のため治療無効例に分類された。これらの患者のうち40例(研究コホートの16%)が手術を選択した。

250例の無作為研究

Hofstee博士らは、持続期間が1ヵ月未満の急性坐骨神経痛患者250例(60歳未満)を対象に研究を行った。すべての被験者は片方の脚に根性痛があり、それに加えて次の徴候が1つ以上みられた:下肢伸展挙上テストが60度未満で陽性、筋力低下、感覚障害または膝蓋腱もしくはアキレス腱反射の損傷。

博士らは、“すべての徴候は、1つの神経根または隣接する2つの神経根に限定された症例だけを対象にした”と述べている。すべての被験者が、神経根の圧迫を確認するためCTスキャンを受けた。

馬尾症候群または重度の筋力低下が認められた患者は研究から除外した。重度の疼痛は除外基準ではなかった。本研究に参加した患者の疼痛の重症度はさまざまであった。

先に述べたように、Hofstee博士らは被験者に、臥床安静、理学療法または日常生活の活動再開という、3種類の治療方法を無作為に割り当てた。

すべての患者に、それぞれの治療法に関する情報が記載されたパンフレットを手渡した。患者は鎮痛薬を使用することができ、質問または問題があれば研究著者の1人に問い合わせることができた。これらの患者が問い合わせた時には、各自の割り当てられた治療法を遵守するように助言した。

自宅もしくは病院での臥床安静

臥床安静群は、自宅もしくは病院で少なくとも7日間、厳しく臥床安静を保った。臥床安静群に割り付けられた患者には、坐骨神経痛を感じた時にはできる限り安静を保ち続けることも指示した。

Hofstee博士らは、理学療法については簡単な説明しかしていない。“プロトコールには、指示およびアドバイス、分節モビリゼーション、患者の状態に応じた椎間板への負荷・免荷運動および水治療法が含まれた”。この群の被験者は病院で正式な理学療法を週2回、4〜8週間行い、自宅でも毎日運動をするよう指示を受けた。通常の活動群の患者には、各自の通常の仕事、家事、勉強および趣味を“できる限り”継続するようアドバイスした。著者らによると“彼らは、疼痛の程度によって活動の強度、持続時間および頻度を調整するようにアドバイスされた”。

主要な結果評価尺度は、疼痛(ビジュアルアナログ疼痛スケール)および活動障害(ケベック活動障害度スケール)であった。副次的な結果評価尺度には、6ヵ月間の研究期問における治療無効率(耐えられない疼痛)および手術施行率が含まれた。研究者らはintention-to-treat解析を行った。

治療結果

1,2または6ヵ月後の結果評価尺度に関して、3つの治療方法の間に統計学的有意差はまったく認められなかった。大多数の患者は、研究期間中に疼痛および活動障害に関して着実な改善が認められた。

“治療無効率および手術施行率と同様、根性痛および日常生活での活動障害についても、3群間で統計学的に同等の改善がみられた"。

理学療法でも臥床安静でも、患者が日常生活の活動を続けるよりも優れた効果はみられないと、著者らは述べている。

Hofstee博士らによると、坐骨神経痛の患者に対する理学療法が長期的にみて有効であるという科学的エビデンスはほとんどない。そして、本研究によってその認識が変わることはないだろう。

しかし、先に述べたように、患者の中には、急性の坐骨神経痛が発現した時に、定期的に理学療法士に会って診察を受けて励ましてもらいたいと思う者もいる。日常生活活動の早期再開は、おそらく理学療法よりも対費用効果のすぐれた手法と思われるが、監督下でのリハビリテーションも、一部の患者にとっては有効な選択肢であろう。

本研究は、坐骨神経痛の患者にとって臥床安静は治療上有用ではないことを示唆した3番目のRCTである。これらの研究によれば、臥床安静によって、回復が早まったり結果が改善したりすることはない(表を参照)。

しかし、これらのうち2つの研究では、短期間の臥床安静によって本質的な不都合はないことが明らかになった。このことは、坐骨神経痛患者が短期問の臥床安静を選んでも安全であり、健康を害することはないことを示唆している。

しかし、長期間の臥床安静は深刻な悪影響を及ぼす可能性があり、患者の健康および生命力を急速に弱らせてしまうことがある。患者には、長期問の臥床安静を避け、将来、腰痛および下肢痛が発現した時に反射的に臥床安静を行わないよう、アドバイスするべきである。

坐骨神経痛に対する臥床安静についての無作為研究は、痛みのある椎間板ヘルニアの治療において、医学の完全な転換が起きていることを意味しているように思われる。20世紀のほとんどの期間、臥床安静は、他の多くの疾患に対してもそうであったように、椎間板ヘルニアの標準的治療であった。それは今日、世界の多くの地域では、依然として坐骨神経痛の標準的治療であるかもしれない。

臥床安静は、ほとんどの疾患の医学において、治療法としてはおおむね見捨てられている。多くの点で、治療としての臥床安静は、過ぎ去った時代の遺物である。臥床安静は、腰痛および坐骨神経痛の治療法としては徐々にすたれていくだろうと予測する人もいることだろう。

その代わりとして、医学は、脊椎疾患に対する積極的な方法を提供するだろう。Hofstee博士らによる最新研究は、この種類の方法を支持している。結局のところ、身体は、活動、身体的負荷および刺激によって成長するが、退屈して使わないでいれば成長しないのである。

参考文献:

Coomes NE, A comparison between epidural anaesthesia and bed rest in sci- atica, BMJ, 1961; 20-4. 

Hofstee DJ et al., Westeinde sciatica trial: Randomized controlled study of bed rest and physiotherapy for acute sciatica, Journal ofNeurosurgery, 2002;  96(1 Supplement) :45-9. 

Vroomen PC et al., Lack of effectiveness of bed rest for sciatica, New England Journal ofMedicine, 1999; 340:418-23. 


The BackLetter 17(4) : 37, 42-43, 2002. I 

研究

被験者

治療法

経過観察期間

結果

Coomes,1961 坐骨神経痛を有する外来患者40例(疼痛持続期間の中央値34日) 自宅での臥床安静と硬膜外麻酔薬50〜60m1の注射の比較 回復するまで 臥床安静群の患者は回復が遅かった。(臥床安静群では回復までに31日かかったのに対して硬麻群では11日)。
Hofstee et al., 2002 急性の坐骨神経痛を有する被験者250例 7日間の臥床安静、理学療法,通常の日常生活の活動を再開するアドバイスの比較;患者は不特定の鎮痛薬を使用することができた 6ヵ月間 臥床安静、理学療法および活動的な状態を維持するようにというアドバイスによって、疼痛、活動障害、治療無効および手術率に関して、同様の結果が得られた。患者は、各経過観察時に有意な改善を示した。
Vroomen et al .,1999 急性の坐骨神経痛を有する被験者183例 14日間の臥床安静と“管理下での用心深い活”の比較;被験者はアセトアミノフェン、ナプロキセン、コデインおよびテマゼパム(不眠に対して)を使用することができた 3ヵ月間 臥床安静と“管理下での用心深い生活”では、同様の結果が得られた。疼痛、症状の厄介度、長期欠勤または手術施行率に関して群間差はみられなかった。両群の被験者の87%が、最終経過観察時に改善したと報告した。

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