学際的痛みセンター・多角的な専門家を配置/家庭医との連携も密に


成果を挙げる欧米

アメリカ合衆国のワシントン大学にある痛みセンターは臨床部門と研究部門から成り、世界でも最も充実した施設であるといわれている。医師、研究者、看護婦、医療専門技術者ら百名ほどの専従者を擁し、痛みの治療、研究、教育、訓練の四本柱を目的として運営されている。日本におけるこの面の取り組みの現状と比べると、うらやむべき組織である。1980年代後半からイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ドイツ、フランス、イタリア、デンマーク、スウェーデンなどの諸国においても、臨床各科のスタッフが協力して、痛みに対する薬物的療法、物理的療法、心理的療法などを組み合わせて、患者の症状に合わせた治療を行う、いろいろな規模の学際的痛みセンターが活動し効果をあげている。最近、スウェーデンの友人からウプサラ大学病院における痛みセンターについての手紙を受け取った。それは、同大学の各科の痛みに関係するチームを、一つのフロアに集めたものである。有効な人員配置ができ、経費的にも無駄が少なく、また、異なった領域の痛み専門家が毎日顔を合わせ、それぞれの専門の境界領域をクロスさせ得るという大きな効果をもたらした、と述べている。スウェーデンの医療審議会は、最近の痛み研究の進歩に対応すべく、1992年に慢性痛に対する国家的な対策の討議を、数名の痛みの専門家に依頼し、それを基に痛み白書ともいうべきものを策定した。その英文概要を手紙と同封して送ってくれた。その内容をかいつまんで紹介してみよう。スウェーデンにおいても、国民の約3割が慢性痛に悩んでいると推定されるが、その中には痛みの原因が不明なものもあり、不適切な治療を続けることにより痛みを引き延ばし、憎悪させる悪循環を戒めている。まず痛み治療組織として@その最前線は家庭医であるが、治療効果が思わしくない場含、または3カ月以内に痛みが抑えられない場合には、痛み専門医療機関に治療を依頼し、その後も家庭医と専門医はお互いに運絡を取り合って両者が責任をもって治療を進めるA行政側の援助で、地域毎にペインクリニツクをシステム化し、さらに、地方毎に多角的な専門分野にわたる特別痛みセンターを設立する。センターの規模としては人口50万人当たり1人の常勤専門医を目安に整備する。

教育も大きな課題

第二に組織の整備と並んで大きな課題は教育問題であると指摘している。@医学部と各種の医療協力分野における痛み教育のカリキュラムを設定するA痛み専門医コースを設定し、またその資格認定の基準を整備するB痛み領域の急速な研究の進歩に歩調を合わせ、家庭医に対し再教育・トレーニングを徹底するC特別痛みセンターの機能として、痛みの研究、教育面での積極的な活動が望まれるーなどの諸点が述べられている。国としての医療体制の根幹にも影響する積極的な見直しといえる。日本では、最近、癌のターミナルケアとしての痛み治療に関心が払われ、主要病院や大学でペインクリニックが開設されてきたが、臨床各科の統合、各種治療方法の応用、研究との一体化などという視点はきわめて薄く、残念ながら世界各国と比肩すべくも無い。先進医療を誇る我が国であるが、痛みの取り扱いに関しては後進国といえるだろう。

設立と対策を急げ

可塑性に富んだ痛み系の性質が実験的にも、臨床的にも明らかにされてきた現在、痛みに対する最も適した治療をできるだけ早期に行うことは、QOL(Quality of life=生命・生活の質)の面からはもちろんのこと、社会的、経済的な面からも重要な問題である。また、高齢化社会を迎え、慢性痛の問題は特殊なものでなく、ごく一般的な問題として対決すべき重要課題である。我が国においても学際的痛みセンター設立を実現するなど、早急にその対策が立てられるべきである。

加茂整形外科医院