心身症

そこが知りたい!「脳と心の仕組み」  

公立昭和病院・脳神経外科主任医長    永田和哉 監修    小野瀬健人 著


心と身体は一心同体

ヒトは精神的に追いつめられていたりすると、脳のなかで神経伝達物質の流れが悪くなり、本来は自動的に働いているはずの自律神経がうまく働かなくなることがあります。これを総称して「心身症」といい、不整脈や気管支ぜんそく、慢性肝炎など、表面化する症状は極めて広範囲に及びます。自律神経は内臓のすべてを密接に掌握しているだけに、ありとあらゆる症状を引き起こす可能性があるのです。日本精神身体医学会では心身症を「身体症状を主とするが、その診断や治療に、心理的因子についての配慮が特に重要な意味をもつ病態」と定義しています。原因は心にありますから、身体に現れる症状ばかりに気をとられていると、1つの病気が治ってもまた次の病気に、と次から次へと病状が移っていくことがあります。そうと知らずに治療を続けていると、治しても治しても病院通いをやめることができない状態が続いてしまいます。慢性の下痢に悩まされ、大腸炎と診断されて手術を受けたのにまったく効果がなかったという人が、心療内科に移って精神的な治療を受けただけで治ったりするのです。自分が無意識のうちに深く悩んでいた原因を知ることができれば、それに対する心構えができたり、痛んだ心が癒されたりするので自律神経が正常に働くようになり、身体の病気も治るわけです。

心身症の鍵を握る「古皮質」

自律神経は脳と身体とを結んで、脳からの指令を身体に伝える役割を果たしています。眠っている間も休みなく心臓を動かしたり、食事をしたら消化させるために胃腸を動かすなどの働きを、本人が無意識のうちにしています。ストレスがあるとこの自律神経が正常に働かなくなってしまうわけです。自律神経は間脳を中枢としてコントロールされています。その間脳にさまざまな”心”の情報を送って働きかけているのが、「内臓脳」とか「情動脳」と呼ばれている一連の「古皮質」です。本能とか心とか感情的な分野の認識をしたり、判断をしたりする古皮質は、言葉で論理を構築したり計算をしたりという働きをする新皮質にくらべて、入ってくる情報に対して反応しやすく、同時に傷づきやすいことが知られています。ところが古皮質は、新皮質と違って自覚的には働いていません。ヒトは自覚的な新皮質の働きには敏感ですが、無自覚な古皮質の主張は無視しがちになるのです。どんなに心が傷ついていたとしても、本人はあまり傷ついたという自覚がありませんし、その傷がどんなに大きくてもそれをつかめないので、積極的に傷を癒そうとしないわけです。これら自律神経系の暴走が内臓に作用すると内臓の病気になりますが、脳の中に向かうと脳の正常な機能を損なってノイローゼという心の病気となってしまいます。いつも悲しい気分から抜けられなかったり、特に何があるわけでもないのに不安にとらわれるなど、平常心ではいられなくなるのです。こういうことが起こる原因は、古皮質から怒りのホルモン「ノルアドレナリン」や、恐怖を感じるホルモン「アドレナリン」が異常に分泌されてしまうためです。心の病気といっても気の持ちの持ちようで越きているのではなく、こうした伝達物質の異常分泌が起きているのです。

 

心身医学的な配慮が特に必要な疾患(いわゆる心身症とその周辺疾患)
(日本心身医学会教育研修委員会編:心身医学、1991年より)

呼吸器系 気管支喘息、過換気症候群神経性咳そう、慢性閉塞性肺疾患など
循環器系 本態性高血圧症、本態性低血圧症、起立性低血圧症、冠動脈疾患、一部の不整脈、神経循環無力症、レイノー病など
消化器系 胃・十二指腸潰瘍、急性胃粘膜病変、慢性胃炎、non-ulcerdyspcpsia、過敏性腸症群、潰瘍性大腸炎、胆道ジスキネジー、慢性肝炎、慢性膵炎、心因性嘔吐、反すう、びまん性食道痙撃、食道アカラシア、呑気症およびガス貯留症候群、発作性非ガス性腹部膨満症、神経性腹部緊満症など
内分泌・代謝系 神締性食欲不振症、過食症、Pseudo-Bartter症候群、愛情遮断性小人症、単純性肥満症、糖尿病、胃性糖尿,反応性低血糖症など
神経・筋肉系 筋収縮性頭痛、片頭痛、その他の慢性疼痛、痙性斜頸,書痙、自律神経失調症、めまい、冷え症、しびれ感、異常覚、運動麻痺、失立失歩、失声、味覚脱失、舌の異常運動、震戦、チック、舞踏病様運動、ジストニア、失神、痙撃など
小児科領域 気管支喘息、過換気症候群、憤怒痙撃、消化性潰瘍、過敏性腸症候群、反復性腹痛、神経性食欲不振症、過食症、周期性嘔吐症、呑気症、遺糞症、嘔吐、下痢、便秘、異食症、起立性調節障害、心悸充進、情動性不整脈、神経性頻尿、夜尿症、遺尿症、頭痛、片頭痛、めまい乗り物酔い、チック、心因性痙攣、意識障害、視力障害、聴力障害、運動麻痺、バセドウ病、糖尿病、愛情遮断性小人症、肥満症、アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、円形脱毛症、抜毛、夜尿症、吃音、心因性発熱など
皮膚科領域 蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、円形性脱毛症、凡発性脱毛症、多汗症、接触皮膚炎、日光皮膚炎、湿疹、皮膚掻痒症、血管神経性浮腫、尋常性白斑、偏平および尋常性疣贅など
外科領域 腹部手術後愁訴、頻回手術症、形成術後神経症など
整形外科領域 慢性関節リウマチ、全身性筋痛症、結合織炎、腰痛症,背痛、多発関節痛、肩こり,頚腕症候群、外傷性頚部症候群、痛風、他の慢性疼痛性疾患など
泌尿・生殖器系 夜尿症、遺尿症、神経性頻尿、心因性閉尿、遊走腎、心因性インポテンス、前立腺症、尿道症候群など
産婦人科領域 更年期障害、機能性子宮出血、婦人自律神経失調症、術後不定愁訴、月経痛、月経前症候群、月経異常、続発性無月経、卵巣欠落症候群、卵巣機能低下、老人性膣炎、慢性付属器炎、痙攣性パラメトロパティー、骨盤うっ血、不妊症、外陰潰瘍、外陰掻痒症、性交痛、性交不能、膣痛、外陰部痛、外陰部異常感、帯下、不感症、膣痙攣、流産、早産、妊娠悪阻、微弱陣痛、過強陣痛、産痛、軟産道強靱、乳汁分泌不全、マタニティーブルーなど
眼科領域 中心性漿液性脈絡網膜症、原発性緑内障、眼精疲労、本態性眼瞼痙攣、視力低下、視野狭窄、飛蚊症、眼痛など
耳鼻咽喉科領域 耳鳴、眩量症、心因性難聴、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、嗅覚障害、頭重、頭痛、□内炎、咽喉頭異常感症、嗄声、心因性失声症、吃音など
歯科・口腔外科領域 顎関節症、牙関緊急症、口腔乾燥症、三叉神経痛、舌咽神経痛、ある種の口内炎、突発性舌痛症、義歯不適応症、補綴後神経症、口腔・咽頭過敏症、頻回手術症など

加茂整形外科医院