腰痛の患者は治療を避けるべきか?

最新の試験で普及した2つの治療法は価値がないことがわかった


New England Journal of Medicineにおいて公表された無作為比較試験によると、腰痛の最も良い治療法は日常活動である。

急性の腰痛患者が痛みの限度内で日常活動を続けることは、臥床や腰の運動を行うことよりも、より速やかな回復をもたらします」とフィンランド職業保健研究所のAntti Malmivaara医学博士は語る(New England Journal of Medicine,1995;332(6):351-355を参照)。

Vermont大学の脊椎外科医John Frymoyer医学博士は、「これは見事に成し遂げられた試験です。最大レベルの活動を維持した患者の成績が最も良いことが示されました」と述べた。

しかし、この試験は臥床や非特異的治療によって腰痛を治療するという伝統的な治療基準と衝突する。Frymoyer博士は「腰痛に対するわれわれの本当の役割は何なのかを考えさせられます」と語る。

ニュージーランド、Waikanaeの理学療法士、Robin McKenzie,FCSPは、今回の試験に対してそれ程感動していない。「この試験では、疾患本来の自然経過が良好であるので、治療を行わなくともうまくいくことを示しています」。回復せずに社会に莫大な費用を負担させる人は患者全体の中でも少数グループである。McKenzie氏は、患者を無治療で日常活動に戻すことは、腰痛の問題にいかに対処し、いかに再発を防いだらよいかを学ぶ機会をこれらの患者から奪うことになるのではないかと心配する。

医師側は腰痛患者を簡単に解放してよいのだろうか?

今回の試験は、腰痛を治療する側が患者に対して簡単な助言を行うだけで患者を帰宅させても良いという意味であろうか?カナダ脊椎研究所のメディカルディレクター、Hamilton Hall医学博士の答えはノーである。

この試験の総括的なメッセージ、すなわち腰痛患者本人ができる限り速やかに日常活動に戻るべきだという主張は妥当であるとHall博士は言う。

「しかしだからといって、われわれが患者を簡単に解放するべきだというのではないし、患者を腰痛とその治療法についてのあらゆる迷信の犠牲者にして良いというわけでもありません」。

Hall博士は「医学は何十年も腰痛治療に対して科学的な貢献はしてきませんでした。なぜなら、われわれが腰痛を医療の対象に変えてきたからです。しかし腰痛を治療対象として変えてしまっている現在、われわれはそこから簡単に手を引くことはできません」。

Malmivaara博士らは、フィンランドのHelsinkiで186人の患者を対象に試験を行った。患者は全て急性の非特異的腰痛に悩む市役所職員であった。

次の3種の治療法から1つを患者に無作為に割り付けた。(1)2日間の臥床、(2)腰を鍛える運動、(3)耐えられる範囲で日常活動を継続。

痛みをコントロールすることも、同じく治療プログラムの一部とした。3群の90%以上が抗炎症剤を服用した。

運動療法としては痛みがおさまるまで、1時間置きに10回、ゆっくりとした伸展運動と側屈運動を行った。治験医は、臥床群の患者には2日間完全に臥床した後、耐えられる範囲で速やかに日常活動に戻るようアドバイスした。

3週目および12週目のいずれの経過観察時にも、日常活動復帰群の患者は運動療法群と臥床群と比較して改善が認められた。彼らは疼痛の持続、疼痛の程度、腰椎の屈曲、Oswestry脊椎障害度指数、および欠勤日数の各項目においてより良好な結果を示した。

日常活動復帰群の患者は職場復帰がより速やかで、1週間後には80%が仕事に復帰していた。一方、運動負荷群では64%、臥床群では59%であった。3週後までには3群の職場復帰率は等しくなった。

フィンランドの研究者によると、仕事を休んだ日数の中央値は臥床群では6日、運動療法群では5日、通常活動復帰群では4日であった。

もちろん治療を行った臨床医は治療内容を知っているので、それが試験結果にゆがみを与えた可能性はある。しかしながら、試験に参加した医師、看護婦、理学療法士は、運動負荷が最も効果的な治療法であり、臥床と日常活動の持続はそれより効果が劣るか、この両者は等しいだろうと考えていた。プラセポ効果があったとしても、おそらく運動療法群に有利に働いたであろう。

信頼できる運動療法のプログラムより効果が低い

今回の試験は、腰痛の治療法としての運動療法を評価するためにはおそらく適当な試験ではないだろう。Han博士は「彼らは全ての患者に同じ様式の運動療法を用いていますが、これでは効果がありません」と指摘している。

フィンランドの研究者が運動療法として、なぜ伸展運動と側屈運動を選択したのかを理解することは困難である。この種の運動療法が腰痛の治療において何か有益な作用をもたらすことを示唆するような医学文献はない。

批評家は、この試験が体幹強化運動や持久運動、またはMcKenzieプログラムのような他の種類の運動療法を選択していれば良かったであろうと指摘している。

この試験は、ここ3年間に急性腰痛の治療において、「運動療法」が効果がないことを示した大規模な無作為比較試験としては3報目である。しかし、これらの試験のいずれにおいても運動のプログラムが信頼できる治療法であるように思われなかった。

医療の他の領域から明らかにされることは、運動療法の処方せんは個々の患者に応じたものでなけれぱならず、患者の症状や身体的能カと連動しなければならないと示唆している。『one size fits all(フリーサイズ)』という手法は成功しそうにない。

試験によって『臥床という治療』の仮面がはがされる

本試験は、非特異的急性腰痛のための臥床の価値に関してさらなる疑問を浮上させる。最近まで、臥床は腰痛の最も普及した治療法であった。近年、臨床医は全体の活動制限の期間をより短くする方を選んできた。

臥床は速やかな筋萎縮、心血管系の機能低下、骨ミネラル損失、その他多様な悪影響のリスクを抱えており、非特異的腰痛にとって単に逆効果となることもあり得る。

急性腰痛患者に対して、臥床が非治療よりも有効であることを裏付ける証拠はない」と最新の米国医療政策研究局の急性腰痛に関するガイドラインは結論している。

われわれは腰痛を治療対象から外せるか

Hall博士は、「臨床医は患者に対して痛みに耐えられる範囲内で日常活動に戻るように、単にアドバイスするだけでは不十分である」と考えており、それを完全に治療対象から外すためには現在の医療状況にみられる腰痛に対する態度を変えなければならないと考えている。1930年代からごく最近まで、本質的に医療は、腰痛は休息と治療を必要とする疾患であると患者に示していた。「われわれは腰痛を治療対象から外さなければなりません。しかしそれには何世代もかかることでしょう。なぜなら腰痛は誤解と恐れが多数あるからです」。

患者に腰痛は病気ではなく、一過性の自然治癒する状態であるということを臨床医は強調しなけれぱならないというのが彼の信念である。「われわれは患者を安心させ、彼らが痛みをコントロールするのを手助けし、彼らに積極的な道を歩ませる必要があります」。Hall博士は運動療法を含む積極的な初期治療には、いつの時代でも果たすべき役割があると確信している。

彼は腰痛の治療にあたる医師に、患者の治療効果を観察し、さらに注意が必要な患者を鑑別するよう提唱している。「もし患者が速やかに日常活動に戻らないならば、患者にさらに検査を必要とする医学上の問題を有するのか、あるいは回復の妨げとなっている何らかの精神的社会的状況があるのかをはっきりさせなければなりません」。

機会を逸するのか

McKenzie氏は、患者は腰痛症状をコントロールすることを学び、再発予防を助けることが可能であると信じている。「患者は急性期にその患者に合った運動療法を学ぶことができます。それが一旦わかれば、患者が自分自身の障害を管理することを可能にしてくれます。」とMcKenzie氏は語る。「Stankovic氏はこのように教育した患者は再発が有意に少なく、仕事を休まなければならなかった時間が有意に少なかったと報告しています(Spine,1995;20(4):469-472を参照)。もし、Malmivaara博士の報告に示されたように、自分の力でうまくやれと患者を解放してしまうならば、それは恥ずかしいことです。それは彼らの障害の管理について大切なことを学ぶ機会を患者から奪うことになるからです」。

急性腰痛への対処の方法に関する科学的証拠は結論を出すには不十分であり、現時点では最も良い治療方法を決めることはまだ不可能であろうと示唆する研究者もいる。

TheBackLetter,10(4):37,40.1995.

 


(加茂)

慢性腰痛も最初は急性腰痛だったわけです。多くが慢性化するわけではありませんが、慢性化しないように配慮して治療すべきと考えます。介入しないのが最も慢性化しないとも思えません。早く痛みを取り、不安を与えないのが良い方法でしょう。多くの急性腰痛の患者さんは、しばらく家で様子を見ていたり、代替医療をしたりしていますが良くならず診察に訪れます。

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