予防プログラムは失敗


New England Journal of Medicineに掲載された無作為研究は、従来からの、企業ぐるみの従業員向け腰痛教室ー少なくとも、健康な従業員に対する教育を通して腰痛を予防しようという類ーの、終焉を告げる鐘の音かもしれない。

公衆衛生学のLawren H.Daltroy博士らの最新研究により、郵便局員に対する、脊椎カ学、姿勢および荷物の「正しい」持ち上げ方に関する教育が、費用と時間のムダであることが判明した(Daltroy et al.,1997.を参照)。

筆者らによれば「教育プログラムの結果、腰部障害の発現率、1回の損傷による欠勤日数、職場復帰後の損傷の再発率のいずれも減少しなかった」。

現実に、教育参加群の郵便局員における腰部の愁訴の発現率は対照群よりも高かったのである。筆者は予防プログラムが「介入群の部署において損傷報告を一層容認可能とした」のではないかと推測している。

Daltroy 博士は、腰痛教室が単独で有効な予防方針ではないと主張する。「腰痛教室が一次予防に役立つという証拠がほとんどないにもかかわらず、多くの会社が腰痛教室を主な予防法として採用してきたのは、腰部損傷に対するコストが高く、効果的な治療法がないためです」と述べている。「しかしながら、これを単独で全従業員一律に適用しても、それまで腰部損傷経験が一度もない従業員の腰部損傷を減らすことはあり得ず、無駄な努力でしょう」。

意外ではない結果

これらの結果は意外ではない。なぜなら、職場における就労障害を減らすのに有効であると厳密な研究で証明された一次予防方針は、1つもないからである。腰痛教室は、よくデザインされた研究により肯定的な結果を出しているが、一次予防方針としてではない。

スウェーデンにおける(健常従業員に対立するものとしての)腰痛を有する従業員のための腰痛教室について検討した2つの無作為研究では肯定的な結果が報告されている(Bergquist-Ullman and Larsson,1977およびHurri,1989を参照のこと)。しかしながら、これらの研究で認められた腰痛教室を行うことの利点はわずかであり、あってもその期間は短かった。「損傷を受けた」労働者のための企業ぐるみの腰痛教室が、腰痛または脊椎関連の就労障害の発現率において長期的に利点をもたらすという証拠はないのである。

Nortin Hadler医師は、Daltroy博士らの研究報告に付随する論説の中で、企業ぐるみの腰痛教室だけではなく、腰痛教室の根拠である人間工学的アプローチにも見切りをつけるべき時がきたと述べている(Hadler,1997年を参照のこと)。「この方法は50年以上にわたり追求されてきたが、腰痛に関してはすべて失敗に終わっています」(本号8ぺ一ジの記事を参照のこと)。

他の教育方針が職場においてプラスの影響力を持つことが判明する可能性はある。しかしながら、それらはおそらく、伝統的な腰痛教室とは異なるアプローチであろう。

興味深い研究分野の1つに、従業員の腰痛に対する態度を変えることを意図した教育プログラムがある。Symonds医師らの予備研究は、イギリスのビスケットエ場で、腰痛に関する恐怖回避の思い込みを打ち砕くことを意図したパンフレットを用いて欠勤を減少させることに成功したと報告している(Symonds et al.、1995を参照のこと)。Indahl医師らは大規模な無作為研究において、腰痛に対する恐怖と誤った態度に取り組んだ『Norwegian Back School』により、みごとな職場復帰率を報告している(Indahl et al.、1995年を参照のこと)。しかしながら、他の環境でもこれらのプログラムを再現できるかどうかは今もわからない。

参考文献:

・ Bergquist-Ullman M and Larsson U, Acute low back pain in industry, Acta Orthopaedica Scandinavica (SuppD, 1977; 170: 1-117. 
・Daltroy LH et al., A controlled trial of an educational program to prevent low back injuries, New England Journal of Medicine. 1997; 337: 322-8. 
・ Hadler NM, Workers with disabiing back pain, New England Journal of Medicine, 1997; 337: 341-43. 
・ Hurri H, The Swedish back school in chronic low back pain. Partl: Benefits, Scandinavian Journal of Rehabilitation Medicine. 1989; 21: 33-40. 
・ Indahl A et al., Good prognosis for back pain when left untampered: A randomized clinica.1 trial, Spine. 1995; 20(4) : 473-7. 
・ Symonds TL et al., Absence resulting from low back trouble can be reduced by psychosocial intervention at the work-place, Spine. 1995; 20(24) : 2738-45 . 
The BackLetter, 1997; 12(9) : 97, 106 .


(加茂)

ほとんどの腰痛は損傷ではないのですね!思い込みを打ち砕くことが効果があるとは皮肉なことです。「ヘルニアがあるから気をつけよう」という潜在意識が痛みに関係しているのです。そういう意味ではヘルニアは関係ありです。まことに皮肉なことです。

腰部障害予防のための教育プログラムに関する対照臨床試験

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