無症候性肩における腱板完全断裂の頻度ー肩関節造影による検討ー

日本整形外科学会雑誌第78巻第4号  近良明、塩崎浩之、外山秀樹(済生会新潟第二病院整形)、菅谷啓之(船橋整形スポーツ医学センター)


【目的】疼痛,機能障害などの自覚症状のない肩における腱板完全断裂の頻度を調査すること。

【方法】腱板断裂,肩関節拘縮,肩峰下インピンジメント症候群,関節リウマチなどの診断で,一側の肩にのみ症状を有する症例のうち,インフォームドコンセントのもと両側の肩関節造影を施行し,肩に愁訴のない健側肩を対象とした。対象は,17から88歳(平均年齢61.7歳)の125肩,男性77肩,女性48肩であった.関節内に注入した造影剤が肩峰下滑液包に漏出した腱板完全断裂の頻度を年齢別に調べた。

【結果】全125肩のうち腱板完全断裂を認めたものは44肩,35.2%であった。各年齢別の腱板断裂の頻度は50歳以下では20肩中O肩。51-55歳では12肩中3肩(25%)。56-60歳では19肩中5肩(26.3%),61-65歳では23肩中9肩(39.1%),66-70歳では20肩中11肩(55%),71-75歳では19肩中9肩(47.4%)。76歳以上では12肩中7肩(58.3%).であった。患側が腱板完全断裂の70肩中,無症候側に腱板完全断裂があるものが42肩(60%),また無症候側に腱板完全断裂のある44肩では,その患側に腱板完全断裂を右するものが42肩(95.5%)であった。

【考察】非侵襲性検査であるエコー,MRIにより,無症候性肩においても腱板断裂が認められることが報告されているが,確実に腱板完全断裂を診断できる関節造影を用いた報告はない。一般的な腱板断裂の頻度は加齢とともに増拡することは知られているが、今回の結果より,無症候性の肩においても,50歳台では4人に一人,65歳以上ではほぽ半数と高頻度にいわゆる変性断裂が存在することが示された。また50歳以下には無症候性腱板断裂は存在せず,変性断裂が生じるのは50歳以上であることが示唆された。さらに,腱板完全断裂は約6割が両側断裂であり,腱板断萎が腱の変性を基盤に生じているものが少なくないことが示された。

加茂整形外科医院