認知学的信念と対処法


認知学的信念(Cognitive Beliefs)

健康に関連した信念とARMD患者が用いる対処法は確実に健康状態と関連する。重要な信念として、学習性無力感と自己効力感の2つの知覚があげられる。

学習性無力感(Leaned helplessness)は、個人がストレスの多いイベントを除く、または減らすことができるような解決法はどこにもないとしっかりと確信することである。学習性無力感は、ストレスに対する順応的対処能力が情動的、動機的、認知的に不足していることに関係し、ARMD患者において心理学的苦痛および行動学的機能不全の原因となると考えられている。たとえば、複合疾病関連によるストレス因子について無力感を確信することが原因で患者は不安や抑うつを感じると考えられる。次に、これらの情動の働きが鈍ることにより、痛みが増し、日常生活での活動に従事しようという意志か低下し(動機づけ能力低下)、さらに自らの障害・困難に順応するための新しい方法を獲得する意欲が低下する(認知力低下)。

これらの無力感とARMDへの順応性との関係については多くの試験で確認されている。これら試験のほとんどでは、無力感について測定するのに関節炎無力感指数(AHI)を用いた。RA患者での無力感の強さは自尊心の低さ、物事への対処のまずさ、そして、疼痛の強度、抑うつの程度、機能障害の程度と相関している。無力感はSLE患者の芳しくない身体的健全性とも相関する。無力感の信念もまたRA患者における低い正規の教育レベルと高い死亡率との関係に介在するので、関節炎症状のコントロール感を改善することが望ましい。しかしながら、ARMD症状を管理することができるという信念は必ずしも役に立つわけではない。たとえば、痛みがあることで自分の人生がより貴重なものとなったという信念をもつといった、痛みの経験を認知的に再構成する方法をみつけるのでもない限り、自分の症状をコントロールできると信じている患者は、実際に痛みが強くなったときに心理学的苦痛に陥いやすい。

症状コントロール感と密接にかかわっているもう1つ別の認知学的因子として、自己効力感(self-efficacy)がある。自己効力感とは、複数のストレス因子または関節炎症状のコントロール感とは対照的に、個人が健康に関するある具体的な目標を達成するために必要な特殊な状況における特定の行動を実行に移せるという、一種の信念を意味する用語である。自己効力感は個人によって、そしてまた行動の種類によっても非常に多様である。たとえば、個々の患者はそれぞれの家庭環境において決まった時間に休息をとるなど、日常の活動性を保つような高度の自己効力感をもっているかもしれないが、運動療法で指示されるような運動を遂行するための自己効カ感は低い。

自己効力感は、いくつかのリウマチ性疾患にわたる健康状態の複数側面と関係がある。RAやOA患者において痛みおよび機能障害に対する自己効力感の基線レベルの高さは、調査開始時および4か月目の経過観察時に調べた痛み、機能障害、抑うつのレベルの低さと強く相関していたとの報告がある。別の調査では、RAや線維筋痛症患者において患者背景因子および疾患の重症度について補正したあとでも、痛みに関する自己効力感の高さと観察された疼痛行動の出現頻度の低さとの間に相間性が認められている。SLE患者では、疾患管理に対する自己効力感は、身体的と精神的な健康状態および疾患の活動性に関係があることが
示されている。現在、自己効力感には2つの測定法が使用されている。1つは関節炎患者に対するものであり、もう1つはさまざまな慢性疼痛症候群患者のために作成された質問表である。

対処法(Coping Strategies)

難局に直面した場合、それを対処する過程はいくつかの段階からなっている。すなわち:特定のストレス因子による脅威がどのようなものであるかをみきわめる;そのようなストレス因子の負荷を調整できるような行動を実行に移す(問題対処);その行動によって生じた結果を評価し、必要ならば対処の仕方を変えて再度実行する。

各種の関節炎患者が問題対処にあたってとる方法が主に次の3つの基準を使って調査されている:Ways of Coping Scale,Coping Strategies Questionnaire,Vanderbilt Pain Management lnventory。絶望視(catastrophizing:どのように対処しても症状は絶対に効果的に調整できないと思い込むこと)といったような受動的な対処法は高いレベルの痛み、身体的障害および病気に対する不十分な適応という点で関連していた。実際、最近のエビデンスから、男性のOA患者の場合に比べ、女性のOA患者でみられるより高いレベルの痛みと身体的障害は女性でより多く観察される絶望視に起因することが示唆されている。逆に、痛み・機
能障害レベルが比較的低く、心理学的な調整を試みるRA,OA、および線維筋痛症患者は、痛みの発生中に積極的思考を試みる、といった積極的な対処法をとる傾向が強く、絶望視する割合も少なかった。しかしながら、心理・社会的インターベンションのプラス効果により絶望視がある程度抑制されるかどうかに関するデータはない。

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