患者がトリガーポイント由来の痛みを訴えるまでの過程で、筋線維に生じると考えられる3段階の筋硬結・トリガーポイント像について解説する。トリガーポイントヘの変性過程の第一段階は筋硬結である。筋硬結は循環阻害因子となるが自覚されることは少ない。これに冷える、ストレスが続くなどの刺激が加わり結果的に末梢循環不全が持続すると部分的に硬結が潜在性の(latent)トリガーポイント化する(と考えられている)。
硬結では圧追するとその部に鋭い痛み(圧痛あるいは局所痛)が生じる。ところが、潜在性のトリガーポイント化した硬結の圧追では、圧痛に加えて特定パターンで遠隔部に痛みが放散し(関連痛)、そればかりか、唾液分泌、鼻づまり、腹鳴など副交感神経性自律神経現象が誘発される。また線維束単位で強い筋収縮が発現することもある(ローカルトゥイッチ)。しかしこの段階では、圧迫、刺鍼、振動、短縮、強縮などの刺激を加えなければ、痛み、筋収縮他は生じない。つまり運動痛はあっても自発痛は認められない。しかしさらに末梢循環低下が続けば(その他の増悪因子もないわけではないが)、潜在性のトリガーポイントの一部が活性化されて、活動性トリガーポイントとなる。こうなると運動痛はもちろん圧迫他の刺激を加えなくても自発性に関連痛が生じるようになる。関連痛以外にも「痺れ」感、感覚鈍麻が生じることもある。自発性に生じた関連痛・痺れは患者の訴えとなる。同時に交感神経緊張玩象も発現し、トリガーポイント形成局所に鳥肌、立毛、発汗、皮脂の分泌、血管収縮による冷感、浮腫等が認められるようになる。刺鍼・圧迫などのトリガーポイント刺激により、潜在性トリガーポイントの場合と同様に副交感神経の活動亢進が認められる。
異常な筋収縮も観察されることがあり、クランプ(痙撃)、ファッシキュレーション(線維束撃縮)、クローヌス(間代性痙撃)様の収縮を認めることがある。また以上の痛み、交感神経、筋収縮関連の異常現象は刺激を加えると一過性に強く発現する(図1-2)。
筋硬結、トリガーポイントの分類・定義は以上であるが、患者が痛みを訴える場合、その痛みの元になる活動性トリガーポイントに刺鍼したり、手技を加える必要があることをご理解いただけたと思う。しかしスポーツ分野では最大収縮、全可動域の関節運動を強いられることが多いため、潜在性トリガーポイントが刺激され、いわゆる「運動痛」が発現する。従って潜在性トリガーポイントの検索と刺鍼も必要となる。また循環不全は疼痛(トリガーポイントの活性化)と関係があり、場合によっては、硬結の除去が必要となることもある。すなわち硬結、潜在性トリガーポイント、活動性トリガーポイントそれぞれに適応があり、検索法が異なる。トリガーポイントでありさえすれば、どんな痛み・痺れでもとはならないのである。
(加茂)
痺れというと神経が圧迫されているという説明がされることが多いと思われるが、神経が圧迫された場合知覚麻痺(感覚がない)がおこる。これはギプスによる腓骨神経麻痺でみられる。
「痺れ」はトリガーポイントを消すとすぐにとれてしまうこともある。