Working Backs Scotland" : Changing the Culture of
Back Pain ー and Lessening Its Impact
華々しい成功を収めたスコットランドの公衆衛生イニシアテイブによって、マルチメディア情報キャンペーンが、腰痛による活動障害の発生を阻止する闘いにおいて強力な武器になるという、更なる証拠が得られた。
“Working Backs Scotland”は、“Back Pain-Don't Take It Lying
Down (腰痛に屈するな)”と名付けられたオーストラリアのビクトリア州で行われた同じくらい印象的なキャンペーンのすぐ後に続くものである(Waddell,
2003; Buchbinder et a1.,2001を参照)。
どちらのキャンペーンでも、腰痛に関するシンプルなメッセージを注意深く対象を定めて一般大衆、医師および雇用者に伝達することを通して、複雑な公衆衛生の危機を抑制することが可能であることが実証された。
これらのキャンペーンでは、腰痛は重篤な疾患ではないこと;通常、複雑な検査や治療は必要ないこと;腰痛患者が活動的な状態を保ち仕事を続けるよう奨励することに、重点を置いた。これらのメッセージが、オーストラリアにおける一般人の腰痛の捉え方の持続的変化につながり、スコットランドにおいても同様の影響を与えているようである。
「Worklng Backs Scotlandが、腰痛の考え方を変化させたようです」と、Gordon
Waddell博士はイタリアのローマで開催されたMcKenzie国際学会で、キャンペーンに関する説明の中で述べた。「その結果、腰痛に対する認識が劇的に変化しました。信じられないほど大きな変化でした」とWaddell博士は詳説した(Waddell.2003を参照)。
オーストラリアのキャンペーンと同様、Working Backs
Scotlandは腰痛に関する一般人の認識だけでなく、それに対する医師の行動も変えたようである。中間報告のデータによると、Working
Backs Scotlandは欠勤に対して何らかの影響を与えているようだが、分析はまだ完全ではない。
開始から4年が経過した全国教育キャンペーン
Working Backs Scotlandは、スコットランドの保健教育局が進めている、開始から4年が経過した全国教育キャンペーンである。その基本的目的は、
(1)最近の研究に基づいた腰痛治療に関する“新しい知識”を共有すること
(2)確実にすべての腰痛患者が一貫したアドバイスを得られるようにすること
(3)この分野のすべての主要関係者が協力して腰痛の問題に取り組むことを奨励することである。
キャンペーンで使用した情報は、証拠に基づく3つの文書を踏まえたものであった:(1)英国家庭医学会による1999年の急性腰痛の治療のための臨床ガイドライン;(2)職業性腰痛の治療のための2000年の英国の労働衛生ガイドライン;(3)教育用パンフレットThe
Back Book (Royal College of General Practitioners, 1999; Carter and
Birrell,2000; Roland et al.,2002 を参照)。
ビクトリア州のキャンペーンと同様、Working Backs
Scotlandでも、キャンペーンの対象となる各集団(一般大衆、医師、セラピスト、薬剤師、および雇用者)向けに易しい言葉で書かれた教育用資材とメッセージを使用した。オーストラリアのキャンペーンと同様に、単純なメッセージの核となる部分はThe
Back Bookたから引用した。
3つの主要メッセージ
キャンペーンでは、3つの主要メッセージを繰り返し宣伝した:(1)“活動的な状態を保つこと”;(2)“単純な疼痛緩和を試みること”(3)“必要であればアドバイスを求めること”(さまざまな対象集団向けメッセージの詳しい内容は、www. working backsscotland.comを参照)。
キャンペーンの核となったのは、4週間にわたり15の民放局で1777回放送された一連のラジオ広告であった。スコットランドの成人の60%がこれらの広告放送を聞いた。さらに、キャンペーンでは腰痛治療に携わるすべての医療関係者に情報提供資料を配布した。その総数はスコットランド全体で35,000セットであった。基本的メッセージを強調するための追加キャンペーンも行われた。
主催者は、キャンペーンを低費用で実施できるよう計画した。彼らは、キャンペーンが無料の新聞やテレビ報道で広く取り上げられるように、マスメデイアの関心を引いた。関連ウェブサイトヘの、腰痛に関する情報を求めるウェブサーファーのアクセス件数は数万回に達した。
一般的な認識の逆転
これらの結果は印象的である。前述したように一般人の認識の大きな変化が起きている。“腰痛にどのように対処するかについての一般人の認識の変化は、見事に20%の逆転として表れ、以前は大多数の人々が安静を支持していたが、大多数が活動的な状態を維持することを支持するようになった”と、英国の健康安全委員会(Health and Safety Commission; HSC)の最近の報告に記載されている(Gyngen,2003を参照)。
参考情報として、禁煙の公衆衛生キャンペーンでは、一般大衆の考え方を5%変化させることができれば極めて良いほうである。そして短期間の公衆衛生キャンペーンで効果が認められた場合が通常そうであるように、認識の変化は時間が経つにつれて徐々に消滅してしまうだろう。
しかし、腰痛に対する一般大衆の認識の変化については、衰退の徴侯はみられない。HSCによると、“この変化は、キャンペーン開始後1,2カ月以内に発生し、2年を超えても引き続き改善がみられた”。
「メッセージは消滅するというよりむしろ成長しました」と、ローマにおけるMcKenzie学会でWaddell博士は述べた。
医師の行動に変化
キャンペーンは、医師の行動にも相当する変化を引き起こしたようである。“必ずしもすべてがキャンペーンが原因だというわけではないが、家庭医が臥床安静や活動制限を推奨することや腰痛の病欠認定書を発行することは激減した”と、Cohn
Shearer博士はThe Scotsmanという新聞で述べている(Shearer,2003を参照)。
対照群なし
オーストラリアのビクトリア州のキャンペーンとは異なり、Working
Backs Scotlandでは対照群を設けなかった。したがって、すべての変化をキャンペーンの功績にすることはできない。しかし、特にオーストラリアのイニシアチブの結果を考えると、認識および行動の持続的変化は、主にキャンペーンに関係した可能性が高いと思われる。これらの両キャンペーンによって提起された重要な問題は、“他の地域社会では、どの程度、同様の結果を出せるのだろうか”ということである。
これらのキャンペーンの成功は、いくつかの共通因子に依存すると思われた。両方とも、特別な視聴者向けにデザインされた同様の核となるメッセージを中心に構築された。この種のメッセージは適切な言葉で表現されなければならないだけでなく、腰痛についての統一された見解を述べなければならない。“活動推奨"メッセージには世界共通のアピールカがあるかもしれないが、同じメッセージが必ずしもすべての地域社会で効果を発揮するとは限らないだろう。腰痛に関する説得力のあるわかりやすいメッセージを作成するのは容易ではない。
医療従事者の間のコンセンサス
スコットランドとビクトリア州の両キャンペーンでは、多様な医療関係団体が支持してくれるよう慎重に協力を求めた。言い換えると、腰痛に関するキャンペーンおよび基礎的証拠に関して、医療組織の間に幅広いコンセンサスがあった。
医療専門家や医療組織の協力を取り付けることは、これらのキャンペーンの成功の重要な要素であろう。「ほとんどの人々は、医療提供者が本当は患者の利益を考えていると信じています」と、英国のHuddersfield大学のKim
Burton博士は指摘する。医療関係団体のお墨付きは、他の機関や利害関係者のものよりも説得力があるだろう。
確かに一部の地域社会では医療提供者の間のコンセンサスが不足している。脊椎治療に携わる人々の縄張り争いや競争、そして科学的証拠に関する見解の相違は、先進国においてはあまりにも一般的である。ある場面では医療従事者間のコンセンサスを形成するのは、手に負えない課題である。
スコットランドおよびオーストラリアのビクトリア州は、どちらもこの種のキャンペーンにとって特に適した地域であった可能一性がある。腰痛の現代的な考え方を受け入れない社会では、これらのメッセージはこれほどうまく定着しないかもしれない。Waddell博士は、「我々はタイミングにも恵まれたのかもしれません」と語った。
幅広い協力関係
これらのキャンペーンには、腰痛危機の主要関係者、すなわち政府機関、組合、雇用者および障害保険会社の間の幅広い協力関係とコンセンサスが明らかに必要である。例えば、Working
Backs Scotlandは22の組織によって支持された。重要な利害関係者が同じ考えをもっていない社会で、同様の成功を収めることは難しいだろう。
例えば、主要政府機関が、労働者の腰痛は通常、安静と広範なリハビリテーションを要する反復的ストレス損傷であると主張すれば、確かにこの種のキャンペーンの成功は妨げられるだろう。
ビクトリア州の画期的なキャンペーンの運命は、すべての関係者が正しい位置にいることの重要性を思い出させる。オーストラリアのキャンペーンでは、ビクトリア州の労災補償保険および活動障害申請を処理する機関であるVictoria
WorkCoverがスポンサーとして費用を負担した。
ビクトリア州のキャンペーンは大成功を収めたが、皮肉なことにWorkCoverは知見を歓迎しなかった。政府の予期せぬ変化、新しい政治的思惑、および職場における腰痛に対する考え方の変化が重なり合った結果、前途有望な介入の道は閉ざされてしまった。WorkCoverは、人間工学的な予防とリハビリテーションを強調した、従来のものに近い腰痛治療プログラムを採用することを決定した。
「我々の研究には誰も耳を傾けてくれませんでした」と、共著者のMary
Wyatt博士は、2002年にモントリオールで開催されたプライマリーケアフォーラムVで説明した。オーストラリアの研究者らは、あれこれ考えて、他の社会で同様のプログラムが実施されれば結局彼らの方法の妥当性が証明されるだろうと期待している。
「このキャンペーンは諸外国を前進させることが可能です。恐らく、ある日ビクトリア州の当局はこれらの諸外国の結果を知って、何て良い考えだと言うでしょう」とWyatt博士は予測する。
Working Backs Scotland の華々しい成功によって、Wyatt博士の予想は実現したように思われる。そして、すべての先進工業社会がこれらの結果を知り、同様のキャンペーンおよび同様の政策を試みることを期待する。
オーストラリアとスコットランドのキャンペーンの成功が他の地域でも再現できれば、最終的に国際的な腰痛による活動障害の危機の猛威を打ち砕くことが可能であろう。
参考文献:
Buchbinder R et al. ,Population based intervention to change back
pain beliefs and disability: Three-part evaluation, BMJ
,2001;322(7301)=1516_20.
Carter JT and Birrell LN. 0ccupational Health Guidelines for the
Management of Low Back pain at Work.London:Faculy of Occupational
Medicine,2000; www.facoccmed.ac.uk.
Gyngell E, Health and Safety Commission Musculoskeletal Disorders
Priority Programme, presented October 14.2003;www.hse.gov.uk/aboutus/hsc/meetings/2003/141003/c67.pdf.
Roland M et al. The Back Book. Norwich: Stationery Office, 2002;
www.clicktso.com.
Royal College of General Practitioners. Clinical Guidelines
for the Management of Acute Low Back Pain, 1999; www.rcgp.org.uk.
Shearer C, Moving forwards on back problems, The Scotsman,
November 17, 2003; news.scotsman.com/index.cfm?id=1269502003(available
for free)
.Waddell G, Working Backs Scotland, presented at the McKenzie
Institute Eighth International Conference, Rome, Italy, 2003; see
www.workingbacksscotland.com.
The BackLetter 19(2) : 13,20-23,2004.