なぜ慢性腰痛の治療のガイドラインはないのか?
Why Are There No Guidelines for  the Treatment of Chromic Back Paim?


[慢性腰痛の治療に関する証拠に基づくガイドラインの作成を支持する証拠は十分にあるように思われる]

過去20年間に、あらゆる医療分野でガイドラインが作成された。それにもかかわらず、慢性腰痛の治療に関する主な公表ガイドラインは存在しない。

慢性腰痛に関するガイドラインがないのは、科学的証拠が不足しているためだと言いたくなるかもしれない。しかし、各種の慢性腰痛の治療に関する証拠は大量にあり増え続けている。うそだと思う人がいるなら、Cochrane腰痛共同研究グループが作成した慢性腰痛に関する体系的レビューの数が、ますます増えているのをみてもらえればすぐわかるだろう。

困難な仕事

“慢性腰痛に関するガイドラインの作成を妨げているのは、証拠が足りないのではなく、むしろ必要な作業が膨大な量になると考えられるためである”と、ワシントン大学の疼痛研究者DennisTurk博士は論評した。

大規模な文献レビューおよびガイドライン作成過程の経験者なら誰でも、それがどれほど困難な仕事であるかを知っている。それは参加者が数年間はかかりきりになる大仕事である。

”慢性”の定義の変化

慢性腰痛ガイドラインを作成する人々には、急性腰痛ガイドラインの考案者は体験しなかった、別の苦労があるだろう。それは、慢性の定義が変化していることである。

“慢性腰痛”というフレーズは、かつては、持続的疼痛、心理的苦痛および実質的な就労障害によって区別される、固定してしまった、問題の多い腰痛を説明するために使用されることがほとんどであった。

この種の慢性腰痛は一般的に時系列に基づいて定義され、研究者によって3,4または6ヵ月以上持続する腰痛とされた。しかし時系列に基づく従来の腰痛の定義は、もはや全く有効ではない。それらは、波のように押し寄せるアウトカム研究によって浸食されてしまった。

疫学研究によって、急性腰痛患者の25〜75%は、12ヵ月後の時点でも症状が持続していることが明らかになった。この種の再発性または間欠性の疼痛は、慢性の難治性腰痛との類似点よりも、急性腰痛エピソードとの類似点のほうが多いように思われる。

再発性または間欠性の腰痛の患者は多くの場合、医師、カイロプラクターもしくはマッサージ治療専門家の定期的な受診またはOTC薬と処方薬の使用によって、症状に対処している。

彼らは時折、重症の疼痛発作が起き、数日間足を引きずる。彼らは時々仕事を休むが、より重症の慢性腰痛でみられる就労障害や気分障害などはない。彼らは、一般的に疼痛クリニックや機能回復クリニックに通うことはしない。

計画段階にある新しいガイドライン

両方のタイプの慢性腰痛に関して、証拠に基づくガイドラインの作成を支持する証拠は、恐らく十分にあるだろう。実際にTurk博士は、米国疼痛学会(APS)は、証拠に基づく慢性腰痛の治療に関するガイドラインを作成する計画を、既に立てていると報告している。

“APSは、コンセンサスに基づくガイドラインではなく、証拠に基づいたガイドラインを作成するプログラムを実行中である”とTurk博士は説明する。APSは、現在までに鎌状赤血球による疼痛と関節炎の疼痛に関するガイドラインを公表しており、癌性疼痛および線維筋痛症候群に関するガイドラインをまもなく公表する予定である。APSが作成・発表を予定している次のガイドラインは、慢性腰痛に関するガイドラインである。Turk博士は、このガイドラインは、近い将来、恐らく18ヵ月以後に利用可能になるだろうと示唆している。

The BackLetter 19(3):28-29.2004.

加茂整形外科医院